夢追う理由にゃ充分だろうさ

 闇黒を前にしても、ひるめない理由があった。

 アイツの危機に、足を止めるほどドライではなかった。

 

 ただ、足が動いていた。手を掴んでいた。走り出して、もう、止まれるわけがなかった。



 もう、あの頃のような素早さはないけれど。

 身体が覚えている。

 死角すらも視える。

 温い。そんな程度で、俺は止められない。



 セオリーのない守備なんて、守備とは言わねえんだよバーカ。






 眠る君の横顔を見て、眠る君を背負って、ふと思った。

 大きくなったなあ。

 思えば十数年。

 お前がいなきゃ、お前が連れ出してくれなきゃあの瞬間でおしまいだったかもしんねえんだなぁ、人生万事塞翁が馬だなぁ、と言ったら、何それ?と聞かれた。

 君らしくて良いや。

 もうずっとこのまま無垢でいてほしいと思うのは傲慢かしら。もうちょっと大人になった君が成功するのを支えてあげたいと思うのは普通かしら。

 夢に邁進する、理由が増えた。

 かつての憧れと、今の親心。

 その両輪が、今の俺をただ前へと走らせてくれている。

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