第12話 K-5

「いえーい!」「いえーい!」


 真夜と優里がハイタッチして喜びあっている。相手から速攻が出ていた。戻っているのは、茉莉のみ。パスを回されあっさり2点が返された。


天百合 18-30 啓誠館

 

 茉莉はエンドラインでボールを持って、待っているが、まだ誰も戻って来ない。

しかし茉莉も先ほどの一連の動作を回想していた。


 ――私をスクリーンに使ってフリー……じゃないけど、強引に、乗ってる優里ちゃんに繋げた。完全にバスケの動きだった!


 ごめんごめーんと言いながら、ようやく真夜が受けに来た。ボールを入れる。5秒バイオレーション(※1)の気もしたが取られなかった。審判は啓誠館の生徒だ。キリがないので吹かないのだろう。優里は相変わらずダブルチームに絡まれる。


「ほっ ほっ ほっ」


 足を交互に全て、非常に無駄なレッグスルー(※2)のドリブルを乱発しながら真夜が進んでいく。前半は何もしていないので体力だけは十分だ。相手のディフェンダーが手を出す。弾かれたが当たったかどうかはきわどい。また掴んでドリブルを始めた。


 ピーッ ダブルドリブル


「だーっはっはっはっは!」 「ダブドリ! だっせえ!」


「えー? 当たってただろー?」マ


 茉莉ももう一緒になって笑っておく。ドンマイと声を掛けておいた。サイドからボールが入り、ディフェンスとなる。が、当然、誰もやらない。ポポンとギブアンドゴーからボールを回されてカットインした選手からゴール下が入る。


天百合 18-32 啓誠館


 ヒョーイ


 !?


 真夜にボールを入れると、そのままフロントコートへ投げてしまう。

優里はディフェンスに戻ってすらいなかった。受けた位置は45°。


 当初1Qの時のように、迷わず3Pを打った。


 ザンッ


 !!


 審判の指が3本あがる。


 ピーッ タイムアウト 啓誠館


 相手のタイムアウトだ。今のはどうしようもないとしても、3Qのスコアは6-4。

クォーターでは天百合がリードしている上に、まったく優里が止められない。


「いえーい!」いえーい!」


 皆でハイタッチをする。まだ大きく負けていはいるが茉莉も気分が上向きだった。

スコアを見る。


天百合 21-32 啓誠館


 ――え、これって、完全に、試合になってる、よね?


 あらゆるハンデ付きとはいえ、去年のチームでは強豪啓誠館相手にありえないことだった。大差の敗退が関の山だ。しかも、一度もデェフェンスをしていない上に、ハナが遊んでいて、この点差。相手がレギュラー陣でないにせよ、大健闘だ。

 

 そもそも相手はオフェンスのポゼッションを1度しか失敗していないため、レギュラーも控えも何もない。



「エースのワンマンチームとか思っちゃった?」


 美子先生が啓誠館監督、高塚に振り向く。


「つまり違うということか。お前がそういうなら」


「もー、ひねくれないのー」


 はっちゃけながら、バシバシと高塚監督の肩を叩く。そこで高塚は主将を呼び出し、連絡を入れる。以後、評価に一切影響させないので、各自好きにプレイせよ。そう伝えた。天百合が何をしてくるのか、引き出す気だ。


 選手がコートに戻っていく。啓誠館の攻撃だ。


「さー、かかってこいよー、あたしゃ2年柴田だ。覚えとけ吹っ飛ばしてやる」


 センターの7番が伽夜に向かって宣戦してくる。ショートカットで非常に筋肉質のセンター。態度はさることながら、さきほどのおちょくったようなディフェンスの意趣返しだろうか。


「お? ようやくその気になったん? そうこなくちゃのー」


 むしろ楽しそうにする伽夜。監督の枷が外れ、相手も言う者は言うようになったようだ。バチバチしてきた。


 セットプレーからあっさり2点を取られる。ボールを運ぶのは真夜だ。優里はなおもダブルチーム。真夜はどうする気なのか。ハナのほうをチラっと見た。


「マヤ一人でかーつ!」


 訳分からないことを言って、一人で突っ込みだす。まったくマークは外れていないため、どんどん行き場がなくなり左サイドに追いやられる。コーナー手前の伽夜とぶつかってボールがこぼれて行った。アウトオブバウンズだ。


「ぶへっ てーな! あにすんだよ!」カ 


「あー? ボケっとしてんなっつーの」マ


 喧嘩を始めてしまった。ターンオーバーだ。速攻を出されるが、相手は少し止まり、ガードにボールを入れる。茉莉と9番の1対1になった。


 ――練習にならないからワザと止まったんだ。唯一DFしてる私のところと勝負する気だ。


 多少は食らいつくものの、フェイントから抜かれれしまい、レイアップが決まる。沙織から言われていた通りになった。実力が違う。1対1では穴レベルだ。分かってはいたが、茉莉は少し気落ちする。点差もまた15点だ。


21-36

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(※1)ボールをINする際5秒以内に行わなければ反則で相手ボールとなる。

(※2)股の間をボールを通すドリブルやパス。

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