第11話 K-4

 ピーッ


 後半開始のブザーが鳴る。啓誠館側は後半から出るメンバーがあらかじめ決まっていたようだ。選手が一新される。懲罰で交代させられた11番が復帰してきた。顔つきは険しい。


 4番を付けた、2年生主将も出てくる。指揮を執る側ら、本日出場予定の中では、唯一のレギュラークラスのようだ。優里に付いた。スコアラー故に止めにいくのだろう。


 茉莉に9、ハナに8、優里に4、真夜に11、伽夜に7番が付く。


 伽夜からボールを貰う。点数が負けているので本日のルール上、毎回先番だ。すると一気にガードの9番がプレッシャーをかけてきた。


 ――前から来た!


 ボールを隠すようにドリブルし、ディフェンスに負けないように徐々に前に出る。

しかし想定以上に9番が激しく来た。あわよくばスティールも狙ってやろうという勢いだ。茉莉はターンし、右サイドを目がけて上がっていく、が。


 ピーッ 8秒バイオレーション


「くぅ」


 突然のプレスにギリギリ運びきれなかった。9番はベンチに振りかえりガッツポーズを出す。ガードとしてはかなり誉なプレイだ。拍手も繰り出される。ターンオーバーとなった。


 というのも、誰もヘルプに取りにこないので茉莉はソロで運ぶしかない。一応ハナは居るが、ボールを受ける気があるのかすら怪しい。


「真夜」「はあーあ。あいよー」


 茉莉が伽夜に壁役を頼もうとしたところ、ハナが真夜に改めて指示をだす。真夜にヘルプをさせるようだ。練習ではドリブルは難なくこなしてはいたが、大丈夫なのだろうか。


 サイドラインから相手の攻撃が始まる。ポストアップ(※1)を一応、していた7番に

ボールが入る。一応というのは、天百合が一切ディフェンスをしないので、

啓誠館はまともなセットプレーにすらならない。


「おっしゃバッチこーい!」


 瞬間、何を思ったのか、急に伽夜がディフェンスを始める。腰を低く落とし、相手のペイントエリアへの侵入を防ぎ始める。相撲のようなポーズだ。いや、何を思ったのかというより、やるのが普通だ。そのギャップがありえなかった。


「ぶわっはっはっは!」 「あははははは!」 「ぶっ ププ」


 真夜と優里はいつも通りとして、茉莉も急な伽夜の動きに思わず笑ってしまった。


「お? やっと笑ったじゃんマツリー」


「……!」


 優里に指摘され、ハッっとする。皆が気負わないようにしようと、初めから必死だった。余裕がない顔をしていたのではないか? 思い返せば、優里も伽夜も楽しければいいと言っていた。相手を喰った態度は全くよろしくはないが。


 センターの7番が体重を預けてくる。


 瞬間――


「やっぱやーめた」


 いきなり伽夜がディフェンスをやめ、そっぽを向いてしまう。タイミングが悪かった。いざモーションに移ろうとした相手7番の肘が伽夜にもたれかかる。


 ピーッ オフェンス チャージング 白7


「お? ラキー」マ 「なんだあれひでー」ユ


 ファウルを貰う事が出来た。偶然が重なっただけだが、初めて相手の攻撃を防げた瞬間だった。いささか不運で相手の7番はがっくりしている。


「ヘーイ! マツリン! マツリンは休憩してろってさー」


 元気よくボールを要求している。真夜が運ぶと言うのでボールを入れた。真夜へはプレッシャーが来ず、難なくフロントまで入る。茉莉へのプレッシャーは9番の単独判断だったようだ。


 !


 優里が4番と8番にダブルチームを受けている。かなり激しく付いており、ボールすら持たせない勢いだ。が、その優里は特に振り切る気もなくニヤついたまま棒立ちしている。それどころか両手を頭の後ろで組んでいる。


 ハナは完全なフリーだが、相変わらずサイドラインのやる気の無い位置で、こちらも棒立ちしているのでアテにはできない。


 真夜が周囲を見渡す。


「うおーい! 誰も入れれるヤツいねーウケル」


「分かった!? 私の気持ち分かった!?」


 思わず茉莉も突っ込みを入れてしまう。もうなんだかこのチームのカラーはこれでいいと思ってしまった。しゃべりながらやろうと茉莉は思った。


 左サイドの真夜が茉莉に向かって来る。行き場がなくパスだろうと思い、手を差し出しつつ身を寄せる。が、パスはこない。ドリブルしながら茉莉を支柱にするように、ぐるしと素通りして、前に行ってしまった。


 瞬間、ガッと真夜のディフェンダー11番が茉莉に当たる感触があった。


 ――スクリーン!?


 11番を置き去りにする。まっすぐゴールに向かう。伽夜と7番が待つところへ走っていくが、2対1のため、優里を守る4番がヘルプに走ってくる。


 ――真夜ちゃんが一歩速い! チャンス!


 瞬間、真夜はペイントエリアへ入るもシュートへ行かず、真横のほうに鋭くボールを放る。キックアウトパスだ。ボールと4番がすれ違った。パスを受けたのは、コーナーに立つ優里。8番と1対1だ。


 全く普段通り、持った瞬間シュートを打った。


 ザンッ


 ……!


 審判の指が3本立った。3Pが決まる。


 ――ス、スリー! ほんとに優里ちゃんが3Pを!


「いえーい!」 「いえーい!」

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(※1)体を張ってボールくださいとアピールするプレイ

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