第46話 KY-2
-天百合ベンチ-
「おつおつー」マ
「別に疲れてないけど?」カ
「相手も疲れてないけど?」ユ
「すごいね。ウチのこと全然甘く見てないよ。これからって感じがピリピリ伝わってくる」
「やはりインサイドは厳しいと見ます」
掛山西のディフェンスの戦略は見えつつあった。インサイドを徹底して固め、優里へフェイスで付き外を封じる方針だろう。レヴィナが体感を口にする。自身と同等の高さで3人に囲まれるケースもあった。
「優里、もう入りそう? ダメなら真夜か伽夜で行く」
「あー、まだタッチいい感じしんわー」ユ
「美子ちーユーリ何本打ったんですしー?」マ
「えとねー、5本ー」
「ありえね! 毎回5本6本打ってゼロとかありえね!」カ
「テクニカルギャルに言われたくないわー」ユ
「茉莉ちゃんも3本ー」
「ぎくぅ! 言っちゃダメですー!」
「おいおいキャップー」
-掛山西ベンチ-
山崎監督の前に円陣ができる。地に足のついたゲーム運びを行い、メンバー全体の体力も士気も十分だ。
「1Qのペースに惑わされないように。2Q、改めてスタメンで行きますよ。点差は無いものと思いなさい。今からゲームスタートのつもりで。作戦に変更はありません」
「「はい!」」
監督が離れ、続いてキャプテン戸塚が中心に来る。
「気を引き締めていこう、向こういきなり仕掛けて来るよ。トランジションも気を付けて。行くよ!」
「カケニシー!」「「ファイ! オー!」」
総勢が天井を指差す。独特のパフォーマンスから士気の声が上がる。
ビーッ
天百合 4-22 掛山西
2Q開始のブザーが鳴る。天百合ボールだ。サイドラインから優里がボールを出し、茉莉が受ける。優里がコートへ入った瞬間マークが厳しくなる。
-啓誠館スタンド-
「ここから、ですね」
「1Q終わって互いのエースがまだ0点」
「え、天百合のエースって誰なの?」
「……さあ?」
▼
茉莉のボール、左インサイドへレヴィナ、左ウィイングに真夜、フェイスDFの厳しい優里が右コーナーヘ、入れ違うように伽夜がウィングへ上がてきた。
茉莉にPG平野 芳乃、優里にSG王、真夜にF長谷川 小麦
伽夜にPF後藤、レヴィナにC赤堀の布陣、マンツーマン。
「その団子解くとどのくらい長さあるんー?」ユ
「ん? 肩と少しヨ。ふわっと巻けばそれっぽい大きさに見えるネ」
「ほえー」
「そっちこそよくまとめずにプレイしてるネ」
「べっつに目や口に髪入ってても打てば入るしー」
「……。ゼッタイにマーク外さないネ」
優里とSG王が会話していた。真夜、伽夜、レヴィナとプレイ時はポニー状に髪をまとめるが優里だけではセミロングの髪を一切避けもしない。
茉莉から伽夜へボールを入れる。相手の3年PF後藤は174センチ、7センチ差で体格も一回り違う。
「さーさー、スーパーシューターユーリ大先生、ここからは全部決めてちょー」
「まかせろっつーの、あっはっは!」
優里へ向かいながら2つドリブルした瞬間、面から90°に逆方向へノールックでボールをバウンドパスした。カットインしていたのは、茉莉。受けてそのままレイアップが決まった。
天百合 6-22 掛山西
「うひょー我らがキャップあざやかー」マ
「うん、ディフェンス、まず一本!」
全員が戻る。天百合もマンツーマン。山崎監督の声が上がっていた。インサイドを固める方針にも関わらず、マークマンを気にしすぎてガードの茉莉のカットインを簡単に許した注意喚起だろう。天百合はレヴィナ以外が非常に広く布陣するためマンツーマンではDFがどうしても開きやすくなる。
「ははは。言ったことと全然違うプレーしてて面白いなあ。よく連携繋がるね」
「カモーンこむぎちゃーん、2Qからでも40点かー!?」マ
マッチアップする真夜と小麦、PG芳乃からその小麦へボールが入る。
「小麦先輩! こやかましいギャルを黙らせてやってください!」
「んー、点は取るけど黙らなくてもいいかな。楽しくやろう」
「言うねーこむぎちゃん!」
瞬間、クロスオーバーが展開される。真夜の右を抜きにかかったところで、ヘジテーションで変化を付ける。真夜がブレーキした瞬間、後ろの左足を蹴り出した。
再加速し、真夜の半歩前へ出る。一気にペイントに進入した。
しっかりマークされていたレヴィナのブロックは届かず。レイアップが決まる。
天百合 6-24 掛山西
「やたー! ナイスです小麦先輩!」
両手を出した芳乃の元に小麦はおらず、他2人とタッチをかわしていた、戻っていた小麦。涙ぐみながら芳乃も戻る。
「やっべー、こむぎちゃんうますー。ギャルには荷が重いわー」マ
――ほんとにすごかった、数歩で一瞬でペイントの中にいた、スタンスが大きい上に速い。
回想しつつ茉莉がボールで上がる。依然マークの厳しい優里がコーナーまで行き、伽夜が上がって来る。すれ違いつつ伽夜に渡す。そのまま右コーナーを目指すと、ローテーションで優里がウィングに来る。
センター付近に到達した伽夜からパスが左辺の真夜に出された。
スッっと受けた真夜が一段姿勢を低くし、対する小麦が構える。
「ってカヤ帰んなし、スクリーン入れてけっての!」
「んあ?」
伽夜が振り向いた瞬間、レッグスルーから小麦の左を抜きにかかる。
しかし小麦は付いていた。
「そういうので来ると思ってたよ」
「!」
真夜は突っ込みきれず、ビハンドサバックから大きく左足を下げ、
レッグスルーしさらに二歩下がる。
真夜がゴールをクイっと見る。シュートヘジ。
――あのスキルだ!
小麦は距離を詰める。真夜が持ってステップバックし3Pが打たれた。
ザンッ
天百合 9-24 掛山西
掛山西のベンチがざわつく。小麦の頭上から打ち抜かれたシュート。見慣れない光景だったのだろう。小麦もまさかという表情で振り返っていた。
「ははっ こりゃ想像以上だなあ」
――――このとんでもないフェイクに全部付き合うのは無理だね。でも遅れずにブロックに行ったのに何で届かなかったんだろ?
「聞こえたかー? ネットの音じゃなかったかー?」
「ぐぬぬぬぬぬーう!」
真夜がわざわざ芳乃の元まで行き、耳に左手を当てながら煽る。
しかしその右手は茉莉へ向けて手招きしていた。
――!
エンドラインからボールが芳乃へ入る。真夜は小麦のマークに戻らずに、
一瞬で芳乃へ詰めた。同時に茉莉も襲い掛かる。
「芳乃!」
「うっ!?」
小麦が警告するが遅かった。真夜に次いで茉莉がブリッツ(※1)で襲いかかる。
あっというまに左ライン際に追い込むとパスを出そうとした動作で真夜が奪う。
そのまま真夜がゴールに向かう。ボールを出したSG王がブロックに行く。
ユーロステップが繰り出された。
「わっしょーい!」 ピーッ!
ファウル 掛山西11番(王 個人1) カウントワンスロー
!
パンッとタッチする茉莉と真夜、早々に茉莉は引き返して行く。
天百合は序盤のフリースローにはリバウンドに一切参加しない。
フリースローレーンに入らない相手のPGの芳乃、SG王が山崎監督に呼び出されていた。真夜がフロースローを決め、優々と戻る。
天百合 12-24 掛山西
「芳乃、天百合の強襲は気を付けろって言われてたでしょ」
「うぅ、面目ないですぅ、怒られちゃいました」
言いつつ芳乃からボールを受け取る小麦、ランニングで上がり、
右サイドへ到達する。再び真夜と1対1の構図だ。
「いいねーこむぎちゃん、楽しくやるのが好きなんかー?」
「……。まあね。でも――」
ボールを頭上に掲げ、再び降ろした直後、3Pを打った。
ザンッ
そのままゴールネットが揺らぐ。ラインよりも1メートル手前、
ディープ3Pが突き刺さる。真夜は振り返るのみだった。
天百合 12-27 掛山西
「キミらも楽しめるかは、別だけどね」
「うへぇ」
ビーッ タイムアウト。掛山西一回目。
掛山西のTOにて選手がベンチへ戻っていく。山崎監督の表情は険しい。真夜の2連続3点プレー、警戒してもなお決まった天百合の奇襲が響いているようだ。小麦の3Pで離したものの一瞬ダブルスコアまで詰めた。
-天百合ベンチ-
「普通アレ決めるんかー? 外すシーンじゃん? でもって一気にこっちに流れくる
パターンじゃん?」マ
「長谷川小麦はベストです。守るには労力を要します。どうするのです?」
「んだよその無理やりアプリで翻訳したようなセリフー」マ
得点できていても、得点され続けていては永遠に追いつけない。一定は防ぐ必要が出てくる。
「OFどうしよう? できればレヴィちゃんで行きたいけどマークキツイね」
インサイドのレヴィナを始め、優里は特にマークがキツく、何もやらせないと言ったようなディフェンスが続いている。
「マヤのままでオケオケー。点取れてんじゃん?」
ハナが一呼吸終えてボードとペンを持ち出す。一通りの選手の感想を耳に収めてから作戦を話始めた。天百合が初めて半円状に集まる。
-掛山西ベンチ-
「ターンオーバー分少し詰められていますが切り替えて。息苦しいかもしれませんが、これを続けていればこちらのペースです」
天百合の強力オフェンスの要であるインサイドのレヴィナ、アウトサイドの優里の二方向を封じている山崎監督の采配。結果的に、攻撃起点が初期から真夜に移っている。
真夜は前試合4Qから始動し、爆発的に点を取った。その真夜を先に消耗させてしまおうということだ。
「長谷川さん、どうですか?」
「ん-、ちょっとあの13番の子を止めるのは骨が要ります。というか完全に守るのは無理です。双子は筋金入りの運動神経タイプかと。なるべく態勢を崩して外で打たせる守りにします」
「分かりました。繰り返しますが、インサイドは徹底しなさい。さあ行きますよ」
パパンと柏手を打ち選手を送り出す。
-啓誠館スタンド-
「すっごー、いきなり3番の位置でやりあってるよー」
「双子の13番と小麦さんですね。やっぱりここはすごい応酬になりますね」
――――茉莉も、いきなりカットインして得点した。やっぱり前回の2ケタ得点は偶然じゃない。上手くなって来てる。
「奇襲は決まったけど掛山西ペースに見える。天百合は点は取るけど、それっぽいDFは見たことが無い。1Qの点差が埋められなきゃそれまで」
▼
ビーッ TO終了、残り8分。選手が出そろう。
天百合 12-27 掛山西
掛山西はPF後藤を下げ、G西口170cmが入る。オフェンスはいささか不得手だが、比較的長身ながら機動力のあるディフェンスが期待できる守りのスーパーサブだ。伽夜を守るポジションに付く。天百合ボール、茉莉がバックコートから上がっていく。
「さあ、張り切って行きましょう!」
PG芳乃がプレッシャーを掛けつつ声を出す。
茉莉対芳乃、1年同士のPGマッチアップ。
中央から右に身を寄せる。伽夜が上がって来て今度はそのままボールを渡す。
茉莉が止まってスクリーンの態勢に入る。そのままトップから迂回し、
伽夜がペイント手前へ切り込む。インサイドは出てこず。
やむなくジャンパーに切り替えペリメーターのミドルが決まった。
天百合ではあまり見られないシュート位置だ。ハナが優里以外はペリーメーターでのシュートは極力打たないように周知している。それだけしっかり掛山西が守っている。
天百合 14-27 掛山西
「芳乃、なるべく私にボールをちょうだい」
「え? はいです」
攻防入れ替わり、小麦にボールが入る。
どうやら徹底してここで攻めてくるようだ。対するは真夜。
小麦の到達前に両足を大きく広げ床を両手でバシンと叩く。
「っしゃー、カモンカモーン、こむぎちゃーん!」
「はははっ NBA選手みたいだなあ。ところで、私はあいにく病気でなんだけど、身体能力と運動神経の違いが分かるかい?」
「んあ?」
小麦のクロスジャブから真夜の左を抜きに来る。
真夜はついて行くが、一瞬止まり足が交差する。
――シザース!
ピッ! ディフェンスファウル、天百合13番
「あー? マジかよー、どうやって止めんだこれー」
「ダメだ! マヤ使えね! グッバイマヤ!」
「じゃー変われっつーのー」
シザースを繰り出し真夜の半歩前で出た小麦、明らかに押し込まれる形になったため思わず真夜は手を出しファウルを取られる。サイドラインから芳乃にボールが入った。瞬間、鋭くワンバウンドが投げられた。
カットインしていたのは小麦。受けてそのままレイアップに行く。
あっさり決まった。
「ハッハー! ファウルしただけ無駄の無駄ー!」
――――初見で小麦先輩のシザースに反応した? 一歩も動けず見送るだけが普通なのに。たしかに運動神経がいい。このギャルめ!
天百合 14-29 掛山西
「コラー! よしのちゃんどこよブチ抜いてやるっての!」マ
「ふふん! あんたのマークじゃないもーん」
エンドラインから茉莉が投じたボールを受けて真夜が一直線に上がって行く。
待ち構える小麦のその表情には笑みが見える。
「ふふっ どんとこい」
「あっははは! 余裕だのーこむぎちゃん!」
真夜のハンドリングが繰り出される。ジョルトドリブル。
片側で二回ついてクロスオーバーを入れる。
大きく右足を踏み込んだが、小麦は付ききる。
やむなくリトリートで下がる。3Pを打った。
小麦を振り切れず打たされるシュートになる。
ガツッ
「「リバウンド!」」
コート上からもベンチからも掛山西のリバウンドの声が張り上がった。
レヴィナがC赤堀にきっちり抑え込まれ、G西口が押えた。
ボールが前方に投げられる。SG王に入った後、すぐに小麦に入った。
「やっべ! やっべ!」
急いで戻って回り込んでいた真夜、1対1だ。
振り向いていたが後ろ走りしている反動を利用される。
ぐっと立ち止まって小麦のシュートが打たれた。遠いが3Pラインを踏んでいる。
ザンッ
天百合 14-31 掛山西
ロングツーが決まった。
「うぼあー」
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(※1)突然ダブルチームに行き、強襲するディフェンス。
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