第47話 KY-3

-啓誠館スタンド-


「すごい……、あれが静岡ナンバー1、長谷川小麦さん。あの双子の13番を止めて、さらにカウンターで決め切った……」


「だね。というよりほぼ高校全国ナンバー1だと思う。ユース代表にも当然選出される選手だけど、病気があるから辞退してる」


「天百合、点差あるから一本外すとつらい!」


「これはウチの監督が言ってた天百合対策と似てるね。インサイドを徹底して、落としたところは逃さない」


「はい。バスケはやっぱりディフェンスです」


「ギャルちゃん達ここまでかあ?」



 ビーッ 選手交代天百合 13彩川 → 5白幡


「ん? 真夜交代かー? グッバイ真夜ー」ユ


「ぎゃはははは! ディフェンスできないギャルなど必要なーし!」カ


「ウッザ! ハナ、コイツらにこむぎちゃんマークさせろっての!」マ


「うるさい。さっさと戻れ。長谷川さんは私が付く」


「は?」マ


「わははははは! ハナ様ご乱心! こりゃだめだー今日は終わたー!」カ



「……。よくあれだけ身内で罵り合っててチームで連携できるね」


「うん。勝ちに対する執着もあんまり感じない。ちょっと思ってたチームと違うかも」


 一連のやりとりを見ていたコート上の掛山西選手も困惑する中で、山崎監督も動く。真夜が下がったため、小麦の交代を申請しに行くが――。


「先生、マークを23番に変えてください」


「長谷川さん……。しかし時間が――」


「大丈夫です。私がここで下がるのがあの5番の読みだと思います」


 小麦が志願し、マークの変更を希望した。おそらくハナの狙いは勝負ポイントの起点をずらすこと。真夜対小麦が解消されれば、伽夜で来るだろうと主張する。ここで伽夜も粉砕すれば、流れは一気に掛山西に傾くと続ける。


「分かりました。そのように算段しましょう。今日はあなたのゲームです」


 選手交代の小麦を取り消し、G西口を下げSF戸塚163cmを投入し、ハナに付ける。


 天百合ボールに対して掛山西のディフェンス。


茉莉にPG平野 芳乃、優里にSG王、ハナにSF戸塚 

伽夜にF小麦、レヴィナにC赤堀の布陣。


 依然マンツーマン、茉莉の位置以外は徹底して身長で上回る。

ハナが一言茉莉に告げ、コクリと軽くうなずいた。

茉莉がボールの無いほうの手でサインを出す。


 するとレヴィナが左ローポストからやや外側にムーブする。

しっかり付くC赤堀だがポストアップだ。茉莉からレヴィナに入った。

ドロップステップからのスピンに入った所でSF戸塚のヘルプが入る。


 ハナにオフェンス力が無いのは周知だ。迷いのない動きだったが、

右コーナーへパスが投じられる。フェイスDFを振り切りつつ優里が受けた。

コーナー付近、相対し、SG王がしっかり構える。


「ふふん、この時点でもうあーしのスコアは確定なんだよー」


 クンッとボールを持ち上げシュートフェイクした瞬間、SG王が反応する。

その左を優里が抜き去り、ミドルのジャンパーを放つ。


 バスッ


天百合 16-31 掛山西


「くっ、スリーに反応しちゃった、ホントあの口車はやっかいだヨ!」


「どんまい麗々! まだ14番2点だよ、上出来!」


 攻防入れ替わり、芳乃が上がって来る。ボールが小麦に入ったが、

小麦は自身をマークするハナを見たあと、そこからSF戸塚に入る。


 瞬間、SF戸塚に伽夜のディナイが襲い掛かった。


「ほらほらドスコーイ!」


「う!? くぅ!」


 なんと両手を腰の後ろに組んだまま、胸と腹でグイグイ戸塚を押し込んで行く。

完全に押しているが、審判が笛を吹こうとして躊躇する。

伽夜は一切手を使っておらず、戸塚の姿勢が安定せずかなり斜めだ。

ポジションの優先権が伽夜にあるようにも見える。


 ライン際に来たところで伽夜がボールに触れ、こぼれたところを拾い上げる。

一気に加速した。


『速い!』


 小麦が戻っていたが、伽夜得意のプッシュクロスオーバーが繰り出される。やむなく小麦は避けた。体格の利があるが、それでも伽夜はバスカンを狙う姿勢だった。


「そーい!」


 伽夜のレイアップが決まる。SF戸塚の交代間際の立ち上がりを完全に狙っていた。


天百合 18-31 掛山西


「マヤとは違うんだよマヤとはー! あっはははは!」


「ディフェンス止めてから言えっての!」


 自軍のベンチと指さし合って罵りあっていた。



「ごめん、慌てちゃって」


「万由(戸塚)落ち着こう。あのギャルちゃん達には絶対気持ちで負けちゃダメだよ。容赦なく付け込んで来る」


 戸塚はキャプテンの4番を背負っており、人望がある。5番で副キャプテンの小麦と共に1年生からやってきた。SG王との併用のシックスマン。控えメンバーの立ち上がりに付け込み、伽夜が一気に仕掛け、ボールを奪った。


「思い出して。さあ、みんな万由からあの掛け声が聞きたいんだよ」


 ボールを戸塚に渡し、小麦が上がって行く。


「――! そだね、よし、みんな、永葉を倒して、全国に行くよ!」


「「おう!」」



 SF戸塚がフロントコートに到達する。対するは伽夜。


「残念無念! リンリを倒すのはアタシらなんだなー!」


 戸塚は相手にせず、パスが回される。掛山西のもう一つのオフェンス、

ギブアンドゴーが展開される。芳乃に入ったところで、

ハナを交わしてペリメーターに入っていた小麦にボールが入る。


 レヴィナから遠いほうからキッチリ2点を決めた。小麦11点目だ。


天百合 18-33 掛山西


 天百合ボール。ハナから茉莉にボールが入り、ボソっと呟いていく。

茉莉が上がりつつサインを出す。手を右に軽く2回振った。


 ――ハナちゃんがコート上のいると戦術がすごい出てくる。


 茉莉の対面にしっかり腰を落として構える芳乃、伽夜が受けに来た。

付いているのは小麦。


 ボールを伽夜へ渡し茉莉が右サイドへ、

中央の伽夜がゆっくり持ちつつ左へ移動して行く。


「永葉と戦いたいの? 新チームなのに豪快だね」


「永葉とかどうでもいいし? リンリを叩きのめすだけだし?」


「ん、鈴木凛理? そういえばなんとなくキミ達とスタイルが似てるね」


 瞬間、ハナが一気に左サイドから優里に向かって走りだす。

伽夜が茉莉にパスを戻し、受けた茉莉がさらに右から飛び出してきた優里に入れる。

SG王が追った瞬間、ハナのスクリーンに引っかかる。


 ――――狙いはこれか!


 優里がフリーになる。3Pだ。


 ザンッ


 低く鋭い弾道から突き刺さった。


天百合 21-33 掛山西 残り5分を切る。


「おっほー、ハナ総督のポジショニングマジ正確ー」ユ


「あたりまえ。私が出ている限りオフェンスに失敗はない。外したら許さん」


「そのプレッシャーで外すわー」ユ


「ここ大事だよ! なんとか守ろう!」


 早々に小麦にボールが入る。真っ直ぐ中央右よりに進んだところでハナを押しのけ伽夜が迫る。パウンドドリブルを前後に入れつつ牽制し、クロスオーバーを繰り出す。伽夜が反応した瞬間、シザースが繰り出された。


「ぬお!」

 

 付こうとするもとっさに手をひっこめる伽夜、すでに体半分前へ出られている。DFを強行すれば身体能力で押し込まれ真夜と同じくファウルだろう。


 右辺からペイントに進入しレヴィナが現れる。

ブロックに飛ぶも手を交わすようにバックボード側を使い得点していく。


「無理ぽー」「……っ」


 ――ま、まただ、伽夜ちゃんがDFの対応が出来ずにレヴィちゃんのブロックもものともしない。


 レヴィナも腰に手を当て一息つき、やりようもないと言った表情だ。


天百合 21-35 掛山西


 さらに2回の攻防が行われた。ハナの攪乱にてインサイドのレヴィナから得点、掛山西は再び小麦がハナの上から3Pを撃ち抜く。


 ここは負けじと優里にスクリーンを入れて3P決め返す。一歩も引かない攻防。


天百合 26-38 掛山西  残り3分。


 天百合がタイムアウトを要求した。


 ビーッ タイムアウト天百合 一回目


-天百合ベンチ-


「さあさあ、みなさーんお立合いー、大見栄を切ったハナさんですがー、全くこむぎちゃんを止められておりませーん!」


 ベンチに下がっていた真夜が手でメガホンを型どり煽り上げる。


「別に止めるなんて一言も言って無い。マークに付くといっただけ」


「キマシタワー、モノは言い様キマシタワー」


「点差は詰まってる。いっとくけど相手へのプレッシャーは大きい」


 理由はコスパの差だ。掛山西は得点に小麦を酷使している。小麦も1Qは何もしていないが、全て自身でオフェンスをするようなハイペースでは4Qまでは持たないだろう。対して天百合はハナが小麦をマークしている限り、大した消耗はない。


「じゃあ、このまま行けば大丈夫だね。ここからどうするの?」


「……いや、このままじゃまだ足らない。レヴィの温存が必要。じきにインサイド勝負の展開が来るはず。その間、真夜、伽夜、悪いけど、アレをやってもらう。先に動く」


 ハナは6人しかいない天百合メンバーでもなんとか4Qラストまで持つようにタイムシェアを考えているようだ。順に休憩させるのだろう。


「え! レヴィちゃんを下げるの? インサイド大丈夫?」


「……。ハナいいんかー? やるならやるけど?」マ


「どうすっかなー、マツリンとか気ー揉みそー」カ


「じゃあ凛理が相手だったら?」


「やるに決まってんじゃん」


「じゃ、遅いか早いかの違いしかない。これはバスケの宿命」


-掛山西ベンチ-


「点差は詰まっていますが気にせずに。必ず向こうが先にタイムシェアで音を上げます」


 掛山西は小麦を初め主要メンバーをベンチに下げ、休憩に入らせる。前半残り3分を全員バスケで行く方針とした。


「麗々(王)大丈夫? ずっと14番にフェイスで付いてるけど」


「オフェンス普段より少ないから大丈夫ヨ! 足も動いてるから最後まで行ける、1Qのハンデを後悔させてやル!」


 TO終了、10人がコート上に現れる。


天百合 26-38 掛山西


-啓誠館スタンド-


「天百合はセンターを下げて、掛山西は小麦さんを下げた、あと3分、後半に向けて流すのかな?」


「そんな風には見えない。こういうとき天百合は何かする」


「ですよね。茉莉は顔に出るから、何か緊張してそうなのでやってきそうです」

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