第45話 KY-1
翌週末を迎え、WC2回戦当日となる。本日の試合は啓誠館高校の体育館。私立で設備も良く、総体予選の決勝も行われることがある。先の練習試合で一度訪れた。今日は二階にも保護者ら含め一般の観戦者も散見される。
会場には出場予定の8チームが来ていた。2面で午前午後と行う日程となっている。一回戦のシード校と、突破校が入り混じる。本日対戦の天百合、掛山西共に一回戦を勝ち上がってきた。
ゾロゾロと入って来る天百合一同。
「おーしアイラインチェックいくぞー」 「「おー」」
「あんたらがんばりすぎ! 私にも時間分けなさいよね!」
「あ、美子ちー眉毛書いてなーい」
「うえ!? マ、マジ!?」
「うそぴょーん」
「ちょっ マジ脅すなって心臓縮むわ!」
早めに到着したのでギャル達は早々に洗面所へ向かっていた。茉莉とレヴィナも手洗いへ向かう。
「おーし、マツリンまつ毛セットすんぞー」
「ええ!?」
「ここはあたしらの記念すべきデビュー会場だし? 身なり整えるの当然だし?」
「う、うーん私は遠慮しておくよ、っていうかバスケのデビューだよね?」
「これやってるからあーしのシュートよく入るんだなーこれが」
「え!? や、やる!」
「……。茉莉、騙されてますよ」
「姫もパーマかけるからなーこっちこいっつの」
「うむ、そんなピーーーのお姉さんみたいなのありえないんだよ」
「お断りします。あなた方のスタイルは私の求める和の文化とかけ離れています」
「んだー? 日本ギャル文化否定するんか? 選り好みして学んだ気になってんのかー?」
「……。いいでしょう。受けて立ちます」
「レヴィちゃん、乗せられてるよ……」
すれ違う選手や関係者に大変痛い目で見られていた。
-天百合ベンチ-
「あの子たち遅いわねー」
「ったくいつまで待たせるのか(イライラ)」
先にコートに入っていたハナと美子先生はベンチで2人だけだった。準備にアップに忙しいお隣のベンチとの温度差が虚しい。不意に運営職員が近づいてくる。
「あー、河合先生、よろしいでしょうか? 手洗いの洗面台を不良が占拠してて怖くて入りにくいと苦情されてましてね。なにやら天百合の学生だとか」
「……」
▼
「ではオーダーを発表する」
まつ毛が跳ね上がるようにセットされてきた茉莉やレヴィナを怪訝な表情で一瞥しながらハナが呟く。
「今日も100点取ることに変わりなし。勝敗に拘る必要はない。100点取れば、終われば私達が勝者。伽夜、退場したらユルサン」
「うへ」
両軍ベンチ前に集結する。天百合は当然6人。オフィシャルを正面に見て左が天百合ベンチとなる。
PG 水津野 茉莉 159cm 4番 CP
SF 浅丸 優里 164cm 14番
SF 彩川 真夜 167cm 13番
SF 彩川 伽夜 167cm 23番
FC レヴィナ=K 175cm 6番
ベンチ
PG 白幡 はな 150cm 5番
前回の海松北戦と同じ。基本的には変わらないだろう。
対する掛山西は選手12人とスタッフ含めて15人。今大会で入れる枠いっぱいだ。細身で長身、初老で品のある女性監督を中心に円陣が出来ていた。すでに定年しているような年代に見える。最近では部活動を外部コーチに委託することも多い。
この監督は部活動顧問としてバスケ指導のキャリアが長く、定年後も母校へ指導へ来ているとのことだ。
-掛山西ベンチ-
「相手がどのような者であれ、まずは敬意を持つことが大切です。普段から言っていますが、相手の良い所をまずは探すこと。それが勝利への対策にもなり自身の成長にもつながります」
「「はい!」」
掛山西、山崎監督が丁寧かつ威厳のある口調で指揮に入る。主にギャル勢の奇抜なルックス、言動に気をとられずに油断をするなと気を引き締めた。濃えんじ色のユニフォームの円陣が士気を高める。
二階席のスタンドにはベンチ入りできないメンバーも15人ほどは見受けられる。その手前には横断幕が掲げられていた。”躍進”の力強い二文字が貫禄を見せる。
「先日のミーティングでも伝えた通り、各々の役割を果たしてください。インサイド
はしっかりと抑えること。外でやられても慌てないことです。ではスターターを言います」
PG 平野 芳乃 156cm 1年 15番
SG 王 麗々 169cm 2年 11番
F 長谷川 小麦 173cm 3年 5番
PF 後藤 望 174cm 3年 8番
C 赤堀 もなみ 177cm 3年 6番
ベンチ
PG 田辺 弘果 165cm 2年 9番
G 西口 千恵 170cm 2年 10番
SG 松浦 朋佳 158cm 1年 12番
SF 戸塚 万由 163cm 3年 4番 CP
F 岡本 智沙 163cm 2年 7番
PF 栗田 千遥 169cm 1年 14番
C 森 香央莉 171cm 1年 13番
メインプレーヤー
PG 平野 小麦一筋のがんばり屋さん。ハキハキしたスポーツ少女。周囲を生かすプレイが持ち味。
SG 王 まっすぐな性格で気持ちと責任感が強い。役割に徹することが出来るシューター。積極的なDFから流れを作る。
F長谷川 掛山西のスーパーエース。圧倒的な身体能力、かつ落ち着いていて洞察力も高い。
PF 後藤 インサイドの要の一人。控えめな性格、OF、DF共に手堅いものの、エリアがやや狭い。
C赤堀 大黒柱でインサイドの中心人物。礼儀正しくチームの模範的存在。信頼感のある堅実なインサイド。
SF 戸塚 シックスマンの人当たりが良い人気者のキャプテン。得意不得意がなくバランスタイプ。
G 西口 細身で長身、機動力がいい反面フィジカルバランスは劣る。インサイドが重たい場面での戸塚と同じくシックスマン起用。
▼
「うっひゃー、でっけー」カ
「マツリン以外全員デカイ相手かよー、あたしらミスマッチじゃん?」マ
「あのツインダンゴの髪型いいなー、あーしの相手かー?」
「……。敬意、ですか」
「レヴィちゃん?」
ジッと相手ベンチへ視線を送るレヴィナ。その様子を茉莉が不思議そうに見る。本日も諸行無常のハチマキをカチューシャ巻きに携え、腰まで届きそうな長いストレートの金髪ポニーが走る。
「というわけで徹底して高さのアドバンテージで来る。そっちで張り合わないように」
合図があり、スターティングメンバーがぞろぞろとコート中央に集まり始めた。適当に気の向く選手同士がタッチを交わしていく。
「「お願いしまーす」」
「おっ 5番! スーパーエースこむぎちゃん! 今日も40点超えかー? 手加減ヨロッピー」マ
「ん? ……ふふっ 元気だね。やっぱ今日はいい日になりそうだ」
真夜の不躾な挨拶にも軽く笑みを浮かべる小麦。
「ちょっとちょっと! なんなのあんたは! 小麦先輩に失礼でしょ!」
すると真夜の近くへ茉莉のマークのガードがビシビシ指を差しつつ詰め寄る。
PG平野 芳乃156cm1年。ミディアム程度の長さの髪を両サイド後方でおさげ調にしている。ハイテンションだ。
「んあー?」
「ふふん! あんたなんかヘバった相手から点取っただけででしょ! 小麦先輩のすごさは格が違うんだからね!」
「んだよコレ超うっとーしいわー」
「芳乃、恥ずかしいから普通にしててね」
「はい! 先輩!」
各自配置に付く。ジャンプボールに入ったのはセンター同士、レヴィナとC赤堀だ。審判からボールが投じられた。ピックオフだ。
ボールは掛山西、レヴィナはほとんど飛ばずに戻って来る。
ボールをPF後藤が取った瞬間、全員が走って来る。速攻できた。
パスがSG王に入り、レイアップが決まる。開始5秒。
天百合 0-2 掛山西
天百合は例のごとく、選手を追いもせずディフェンスしなかった。
-2階スタンド上-
「やっぱり、ディフェンスしないんですね」
「うん。この人数な限り、しないでしょ」
スタンドの上には観戦する啓誠館、沙織と都築和歌美の姿があった。学年は違うがこの2人はミニバスから同じで、よく行動を共にしていた。
「あれー!? なんで和歌と沙織いるのー?」
「あ」
見るとさらに2人、2年大石優と1年須藤由紀が現れる。ここは自分達の本校啓誠館。この体育館は使用できないため、本日は午後から貸し切っている地域の体育館での練習予定となっている。前回と違い、試合観戦の通達は無かったが4人集まる。
「う、なんとなく来てしまいました」
「わかるよーウチらもー。なんかこの子らのバスケ気になっちゃうよねー、次はどんな試合になるんだろってさー」
▼
ビーッ 選手交代 掛山西 5長谷川 → 10西口
「え!?」
数人が驚いてオフォシャルへ振り向く。速攻を決めて5秒、掛山西はエース小麦を
下げ、控えと交代する。
「ちょ、何しに出てきたんこむぎちゃん?」マ
掛山西、初老の女性山崎監督の采配だ。天百合が今日も1Qは何もしないと見て、小麦を”温存”した。おそらく天百合がオフェンスを始動してきた際に投入する算段だろう。
「――そ、そんな!」
PG芳乃が去ろうとする小麦のユニフォームの裾を掴む。
「わ、私、小麦先輩と離れたくないです!」
「……んー、私は離れたいかな? ベンチに戻れないし」
懇願するように引き止める芳乃を軽く交わして、サイドライン上でタッチしG西口と交代する。真夜をマークするようだがこちらも170cm。徹底して高さで上回ろうとする姿勢が見える。
――すごい。まだ5秒なのに、駆け引きが始まってる。私達のことを甘くみてない。
「15番ちゃんアゲアゲだなー」カ
「あーしらよりキャラ立ってんじゃねー?」ユ
エンドラインの伽夜からボールが出る。茉莉に入り上がっていく。
見ただけでも相手側、特にインサイドが大きい。
すでに茉莉と伽夜以外はフロントコート上のポジションへ向かう。
茉莉にPG平野 芳乃、優里にSG王、真夜にG西口、
伽夜にPF後藤、レヴィナにC赤堀の布陣だ。
「留学生とのマッチアップは初めてね。あなたのような素晴らしいプレイヤーと対戦できて光栄よ」
C赤堀がレヴィナに話しかける。こちらも3年生でいささか余裕があるようだ。
「……。素晴らしい、ですか。申し訳ありませんが、私はまだあなたを知りません」
「?」
見ると優里へのチェックが厳しい。予想通りある程度研究されているようだ。
ショットクロックを使いきり、茉莉は3Pを打つ。これは普通に外れる。
リバウンドはきっちりC赤堀がスクリーンアウトから押える。カウンターだ。
ボールマンに追い抜かれてもゆったり戻る天百合、
PG芳乃に入り素早いドリブルで茉莉を抜いていく。レイアップが入った。
天百合 0-4 掛山西
ナイスと声を掛け合い、戻る掛山西ファイブ。
天百合の1Q棒立ちにも反応を見せず、周知というわけだ。
『ディーフェンス! ファイッ!』パンッ!
スタンド上の応援団から組織的な声援が鳴り響く。士気の後押しとなるだろう。
天百合ボール、ウィング手前にいた優里にボールを入れる。
軽やかにドリブルしていると一瞬でSG王が詰める。
雑に交わして優里が3Pを打った。
スゥ
そして、ボールはバックボードの裏へと消えた。
「……」
「ちょちょちょちょちょー、ユーリさんよー、なんで毎回エアボールなん?」マ
「エアボールてかバックボードの向こうとか? ありえなくなくない?」カ
「あのゴール動いてねー?」ユ
茉莉はハナから少し聞いていたが、優里は空間全体を認識して体感で打つシューター。リングだけを見て狙うタイプではないため、会場の形状が変わると慣れるまでに少し時間を有するとのことだ。それが最初に入らない理由だと言う。
そして出されるボール。掛山西は天百合がディフェンスしないことを見越して、
なるべくインサイドまで進入し、極力ゴール下で得点するように計らう。
序盤はこのペースのまま淡々と攻防が進んだ。雑談しながらほとんどゲームに取り組まない天百合の態度に、掛山西のベンチメンバーも事前情報を認識しつつも次第に不可思議な表情を隠さなくなる。
5分の段階で掛山西は大々的にメンバーを入れ替える。そのまま天百合がオフェンスに転じないと見て、スタメン全てを下げて控えメンバーに一新し、きっちりタイムシェアを行う。完全に勝負は2Q以降と見ているようだ。
一戦目と異なり、掛山西に天百合を侮ったり軽視する姿勢は見られなかった。監督の引き締めの成果だろう。そして1Qが終了する。互いにファウルはゼロ。異様なスタートとなった。しかし得点は、
天百合 4-22 掛山西
掛山西は3Pも一つも狙わず、しっかりと時間を使って全てペイントへの進入からゴールに近いポジションで確実に点数を重ねた。天百合は毎度ほぼ24秒使い切り積極的なオフェンスはせず、レヴィナへパスが入った2点の2本のみ。クォーターピリオドへ入った。
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