第44話 N3-2

 季節は11月、一週ごとに気温も下がっていく。3ギャル含めクラス5ギャルもブレザーから襟を出し相変わらず真っ当でない着こなしをしている。本日も教室後方は騒がしかった。


「疾風チェスオセロの最新見たし?」


「だーから見てないっつの」「しろチェスオセロ」


「まだしてなかったんか今何やってん?」


「なんか今雰囲気悪いわー」


「あれいつも悪くね?」「んで悪いんよ」


「急にハジメの妹だとかいう女出てきたじゃん?」


「そんなん雰囲気悪いわウケル」


「あたしらもチームの雰囲気悪くなればコスメ集中できんじゃん?」


「それいー」「真夜さんマジ天才かよ!」


「どう悪くするんよ」


「あんたらが双子なの嫌がって伽夜が美容整形行くじゃん?」


「んで失敗するじゃん?」


「失敗かよ」「そんなん雰囲気悪いわウケル」


「んでチームがギクシャクし始めるじゃん?」


「整形失敗で?」「意味深ダークサイドすぎるわ!」


「んで超やたら過去のこと覚えてる妹現れるじゃん?」


「いきなし誰の妹よ」「あーし妹ほしー」「過去のことは忘れろっつの!」


「んで生き別れになるじゃん?」


「双子=全部生き別れにすんなし」「それもうチーム崩壊してなくなくない?」


「てかどうやっても雰囲気悪くしたいのヤメロし」


「「ぎゃはははははは!」」



 今週末も試合。勝ち続ける限り毎週末が試合となるだろう。


 夏は一回戦負けだったため、連続での週末試合は初となる。今日は金曜日、いよいよ明日二回戦を迎える。相手は掛山西、部員数も多く安定して毎度ベスト8付近に勝ち進む強豪校だ。


 部室でレヴィナが準備していると遅れて3ギャルが入って来た。


「? あなたたち、遅いではありませんか」


「うぼあー、ほしゅーだっつの姫だって遅いじゃん?」マ


「紙ヒコーキヒュー!」ユ


 言って3人とも手に持つ紙を放り投げる。


「私は図書委員です。設問用紙を捨てないでください。ん?」


「捨ててないっつのー。ネイルの汚れふきにでも使ってやるっていうか?」カ


「そーそー、リサイクルするとかあーしらマジ頭しいーし?」


「頭良くてこの答案内容なのですか? ほとんど×ではありませんか」


「つーか社会のセンコーオタクすぎだっつの!」マ


「平安鎌倉ばっかとかありえなくない? せめて戦国オタクじゃなくなくない?」カ


「こちらのクラスも同じです。たしかにいささかの偏りは見られますが事前に出題部分は告知されています。ってなんですかこの回答は」


「うへー、今度は姫のセッキョー始まんぞー」


 1183年、源家の叔父、源行家の庇護をめぐって対立が起こった。武力衝突を回避するために、源(   )は、嫡男の源(   )を源(   )へ人質として差し出すことで和議が成立した。


「こんなんわかるわけないし?」


・真夜の回答


 1183年、源家の叔父、源行家の庇護をめぐって対立が起こった。武力衝突を回避するために、源( 頼朝 )は、嫡男の源( 頼朝 )を源( 頼朝 )へ人質として差し出すことで和議が成立した。


「……」


「ぎゃははははは! 全部頼朝てギャグかよ!」カ


「代打人質俺様ー! ありえね!」ユ


「バーカ数打ちゃ一個はあたるってのそっち全部×じゃねー?」マ


・伽夜の回答


 1183年、源家の叔父、源行家の庇護をめぐって対立が起こった。武力衝突を回避するために、源( 氏 )は、嫡男の源( 氏 )を源( 氏 )へ人質として差し出すことで和議が成立した。


「ふざけているのですか?」


「わはははははは! ウジてなんだよ爆笑」マ


「あー? 全問正解だろー融通きかなすぎだっつの」カ


「さーすが伽夜さん無類の発想力ー!」ユ


・優里の回答


 1183年、源家の叔父、源行家の庇護をめぐって対立が起こった。武力衝突を回避するために、源( しずか )は、嫡男の源(   )を源(   )へ人質として差し出すことで和議が成立した。


「しずかって誰し、あっははははは!」カ


「源とかしずかちゃんしか知らんし?」ユ


「この頃の静御前はまだ歌舞を舞っていたころでしょうか? それはさぞ美しかったのでしょう。あなた達とは異なり清く美しい心を持ち、干ばつによる不作に苦しむ民を救うべく舞を披露し、その神通力でついに雨を降らせたのです。これぞ日本子女の鑑と言えるでしょう。理解したのであればあなた達も今日から心を入れ替えて――」


 レヴィナが熱弁を開始し始めた中、3ギャルはすでにその場にいなかった。



「これは? あれ、ちょっと感じが」


 先に体育館に入っていた茉莉とハナ。一つのボールが手渡される。


「ヘビーボール。普通のボールより重い。ハンドリングならそれで練習するといい。ただしシュートはNG。感覚が狂う」


「そうなんだ。……ッ! たしかに普通にやるだけでも力がいるね」


 その場でドリブルをする茉莉。ボールの重さによって1コンマ遅れるような体感を得る。


「真夜と伽夜、あと優里は重りを手足のリストに載せてるけど茉莉はこっちがいいと思う」


「え、そんなことやってたんだ。全然気づかなかった」


「目的がバスケじゃなくて単なるシェイプアップな感もあるけど」


「……。でも、レヴィちゃんには焦るなって言われたけど、やっぱりあんな感じでハンドリングできたらなあ」


「茉莉だってドリブルを中心にずっと練習してきたでしょ。あの2人とボールさばきそのものに大差があるわけじゃない。スキルテクニックにどうしても目が行きがちになるけど、実際はパワーがものを言う場面が多い。ここに差がある」


「パワーが上がるだけでボールが手につく時間が長くなる。チェンジオブペースやヘジテーションの間に相手の動きを見て、動いた方の逆を確実につきにいくのが真夜と伽夜。そして一番は相手を釣るためのフェイクの差」


「フェイクかあ、やっぱりバリエーションも欲しいね」


「ま、あの2人、いや3人は存在そのものがフェイクだから元の感性の差は仕方ない」


「……」



 全体的に遅れて体育館に集まった6人、カラカラとハナがホワイトボードを持ってくる。


「はいちゅうもーく! 寝る前はちゃんとネイルのベースコートまで剥がしてるかー?」カ


「当然だべ? ちゃんと解放してこそ自爪の健康寿命が延びるってもんだべ? 塞いだままとかありえないべ? ベースが重要だべ?」ユ


「フツーに塗りっぱだしんじゃなんで塗りっぱがいいゆー人大量なんよ」マ


「取ると薬品負けで皮むけてグズグズゆーの多いからしょ毎日やりすぎー」


「表面のカラーリングとかデザインばっか目が行っちゃってる人多いけどー、ベースちゃんとやらずにアウトサイドが剥がれちゃってるダッセーのいるからこれマジダメだから」カ


「うむうむ。アウトサイドあってのインサイドだのー」ユ


「というわけで今日はネイルにおけるベースコートの役割と重要性のポイントについて解説しまーす」カ


「まーす!」


「せんわ!」 ポカッ


 3ギャルがハナにメガホンで叩かれてホワイトボード前から退場させられる。


「今日はピックアンドロールにおける相手のディフェンス対応に対する対策をやる」


「えーーー!」「つまんね! マジつまんね!」


「対応に対する対策って意味わかんね!」


「うるさい。あんたらのなくなくなくなくないより意味分かる」


「ハナ? それは大人の都合で次回の試合後に回すべきです」


「……。わかった。じゃあ掛山西の対策をやる」



 6人でホワイトボードの前に集まる。今日は明日の対策をするそうだ。相手の対策をする、しないは個々の部の性格により異なるが、ハナの方針では、相手からされる程度にはする、だそうだ。ハナが前に立ち、パイプ椅子を持ち出し、他メンバーが半円となり座る。


 ハナの説明が始まった。茉莉とレヴィナはきっちり聞く姿勢となり、3ギャルは嫌々聞いているフリを初める。


 掛山西は平均身長が高い。インサイドに力がありそこを強みにしている。対してあまり外のシュートは得意でない。タイムシェアを重視しており、総合力で戦うチームだ。


 特に今年のメンバーは強く充実している。夏のインターハイ予選はベスト4。打倒永葉学園を掲げており、夏の雪辱を胸に3年生のほとんどが冬も残っている。


「で、その中で先日もでた、一回戦45点取ったエーススコアラー、長谷川小麦さん。フォワード。彼女をどう対応するかがポイントになる」


「こむぎちゃーん!」「名前かわえー」


「ソロでも得点できるけど、連携もしてくる。そしてその連携の要となるのが、1年生PG平野 芳乃さん」


 ――1年のガード、同学年でのマッチアップだ。今まで先輩とばっかだったけど。



-掛山西高校、放課後-


「というわでけ長谷川さん、またお願いしたいんだけど……」


「うーん、ごめん、今回はパスかな? さすがに土日連続はキツいかも」


「そーです! 小麦先輩は私達バスケ部の小麦先輩なんです!」


「はいはい。芳乃は先に練習行ってようね」


 シッシと小麦にあしらわれる。


「あんっ ひどい!」


 玄関付近、3年生が4人集まり、内3人は女子サッカー部。小麦に助っ人を頼みに来ていた。土曜は天百合との試合日。日曜が空いているなら、ぜひ参加して欲しいと依頼されていた。


 173cm、セミショートで美形。長谷川小麦はとてつもない身体能力を有していた。競技に特化した練習をしておらずとも、主要競技でエースになってしまうほどの運動力。サッカー部、ソフトボール部、陸上部と、これまでに参加した競技は多岐にわたる。


「そかー、残念。無理強いはできないよね。じゃあ今日もお互い練習がんばろー」


「ん、今日は病院なんだ。このまま帰るよ」


「あ……、大丈夫? どうなの? 最近は」


 女子サッカー部の3人の表情が一転、小麦に憂慮したように変わる。


「んー、どうもこうもないかなあ。何せ原因不明だし。何かあったこともないし。ま、気にしないでよ。明るくね」


 言って手を振り別れ帰宅していく。向かう先は病院。長谷川小麦はとある持病を抱えていた。先天性の”原因不明の不整脈”。基本的に頻脈ぎみで、かつ一貫性がなくランダムに脈拍が変化し続ける。時には飛んだり消えることもある。


 不整脈の出方は実に様々だ。現代医学で解明されていない症状も多い。医師からも見たことが無いタイプと告げられており、心臓への不規則な負担によって20歳までの突然死のリスクが60%もあるとデータが出されていた。


 その不整脈の代償として小麦が得たのが、この他の追随を許さない高い身体能力。体力テストも毎度ぶっちぎりの学年1位で、男子とまざっても上位なほどだ。


 自転車にて病院に向かう小麦。ところがその表情は笑顔だった。かつて幼少期、医師の告知を家族から聞いた時はショックを受けた。当初は情緒が不安定になり、周囲に当たり散らしたりしていたこともあった。時が経つにつれ、学校の仲間から自身の力が必要だと幾度となく声がかかることで、しだいに意識が変わって行った。


 ――――私のスタイルはいつだって常に”今”を楽しむこと。いつ何があったって、

自分自身に悔いはない。


 バスケ部に所属する小麦。何でもこなせる側ら、それにとらわれず他の部活から声がかかれば持前の運動能力を生かして率先して助っ人に参加していた。ちなみに勉強も一度授業を聞いたり教科書を読めば大概覚えてしまうという。


 幸いこれまで特に危篤状態に陥ったことは無かった。しかし検査測定の状態が悪くなると度々入院させられるなどの弊害はある。通常は土日連日での試合でも問題はない。ただ今回の小麦は普段と少し意識が違っていた。明日のバスケの試合に全力を出すと決めていた。


 ――――チームの皆が噂してて気になって昨日見た動画。直感で確信した。明日当たる天百合高校の子たち。皆1年生だけど、絶対に私を楽しませてくれる。明日は、最高の試合になる……!


 小麦は自身の華々しい活躍とは裏腹に、どこか退屈もあった。いくら個人能力が高かろうと、チームの総合力が高くなければいずれ頭打ちとなる。本当の意味で自身が全力を出せる相手がいなかった。しかし、今度の天百合が相手ならば――。



「なるほど、そのエース長谷川小麦の爆発的な得点力が、ゲームの要になるというわけですか」


 ハナの説明を聞き終えたレヴィナが総括する。


「こむぎちゃん誰とマッチアップするん?」ユ


「真夜ちゃんか伽夜ちゃんだね」


「じゃーマヤね。なんか疲れそー」


「カヤに決まってんじゃん先週半分しか出てないし?」


 互いに押しつけあっていた。しんどい相手は嫌なようだ。


「おそらく長谷川さんの得点は止められない。一応考えはあるけど、方針は点の取り合いで勝つ。明日は総力戦で得点するからそのつもりで」


「ウチって総力戦以外になんかあるんかー?」ユ


「……」


 掛山西はギブアンドゴー、いわゆるボールを回し合ってディフェンダーを攪乱し、乱れた陣形のスキを突いてくるオフェンスが主軸。ただし、これは小麦が出ていない時間帯の話。


 エース小麦を使って来る時間帯は問答無用の個人のオフェンス力で得点してくるということだ。


 中でもガードの平野 芳乃から繰り出されるパスは精度が高く、このラインは要注意だとハナが締めくくった。その後、普段より軽めで練習に入る。


「茉莉、ディフェンスであからさまな真正面のハーキステップで詰めるはNGです」


「ハーキステップ?」


「テケテケテテテって詰めて止まるやつ?」マ


 ギャル表現では分からないのでいつも通り実演してもらう。ボールの入った離れた相手に付く際に、急いで正面から両足でバタバタと行くもののようだ。


「あまり効率的でない動きというのもありますが、それ以前にとにかく膝を痛めることで問題になります」


「ど、どうすればいいの?」


「沈み込むように相手の動きを予測しながらどちらか多少は横向きに構えるのがよいでしょう」  


「そっか、ケガのこととかも考えなきゃ」

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