episode3

第43話 N3-1

-啓誠館高校、部活動、体育館-


 放課後の部活、練習時間前に続々と体育館へ女バス部員メンバーが続々と上がってきていた。


 タンタンタンタン ダンッ ダダンッ


「ジョルトからの~、クロスジャブダブルレッグスルースナッチバックショットヘジ~ステップバックと見せかけて~クロスオーバー」


「ぷっ ははは! 出来てない出来てない!」


「無理だよあんなのー」


 すでに準備を終えていた2年生レギュラーの古橋と大石がボールを持ち、コート上、ペイント後方で向かい合っていた。揃うとテンションが高い2人組だ。先日の練習試合と昨日の試合の真夜と伽夜のマネをしていたようだ。


「……。和歌美先輩、できますか?」


 壁際の隣で共に準備する啓誠館のエース都築に、茉莉の旧友沙織が振る。


「形だけなら? でも実際フェイクになってないと意味ないからね」


「それに動きに専念しすぎても途中で手出されたら取られちゃいそうですよね。実は私もあのあとマネしてみたり……」


「うん。それもあるし、そもそもあんなに一人でボール持ってて結局ゴールできなかったら監督に怒られちゃうよ。選手が主体で作戦を出せる天百合ならではだね。でも、ちょっと気になることがある」


「?」


 言うと都築和歌美は向かい合う古橋舞依と大石優の元へ向かう。沙織も続いた。


「優、立って」


「おお、我らがエース和歌美様が再現してくださるぞ!」


 タンタンタンタン ダムッダダンッ


 大石がディフェンダーの位置に構えると都築のハンドリングが繰り出される。


「うおお! 和歌、さすが!」


「ここ」


 都築がピタリと止まる。シュートヘジでゴールを見て3Pを打つぞとフェイクを入れステップバックした場面。ヘジの段階で慌てて詰めたり飛んでしまえば横を抜かれ、抜きを警戒するとステップバックで距離を作られ3Pを打たれてしまう。


「あ、スリーのラインに足が届いてないですね」


 沙織が気づき、指摘する。


「そう。双子はしっかり3Pラインの外に出ていた」


「開始の位置、もうちょっと後ろだったんじゃない?」


「いや合ってるよ。ディフェンダーここ立ってたもん」


「和歌の足が短いんだ!」


「……むかつく」


「ははは……」

 ――――でも、個人技や駆け引きはあって損するものじゃない。茉莉は毎日あの環境の中で練習してるんだ。



-永葉学園、部活動、体育館-


 同じく部活開始前、先ほどの啓誠館と全く同じ話題になってた。メンバーは準備する集団と少し離れて、先日観戦していた3人、2年の藍に1年の凛理、静流。


「というわけで、あっしが再現しまーす!」


「凛理、ムキになっててかっこ悪い」


「ひどっ って藍ちゃん先輩びびってるんじゃないですかー? もしかして抜かれちゃうかもーとか?」


「ムカッ 凛理に私が抜けるはずない」


「その挑発も双子と同じということが分かったわね」


 凛理がボール、ドリブルを始める。2人が構え向き合った。1on1の形態となる。


「今回はスリーを打ちまーす」


「凛理、さすがに舐めてる? フィニッシュまで宣言してやらせるアホいる?」


 ダムッ ダダンッ


 個人技が繰り出される。真夜、伽夜が繰り出したものと全く同じだ。

スナッチバックからシュートヘジのフェイクで凛理がボールを持つ。

藍(笠原)が距離を詰めに入り、ブロックへ行く。スリーが打たれた。


 ザンッ


 離されず付いたはずの藍のブロックは凛理の顔手前までしか届かず、3Pが突き刺さった。


「……え?」


「はーい、私の勝ちー、先輩とミスマッチ分差し引き、いあ、静流の高さでも届かないし?」


「ど、どういうことなの凛理? 藍先輩のディフェンスにスキなんか無かったわ」


 驚きの顔で振り向く藍(笠原)に、問い詰めたのは静流(今川)だった。


「これが真夜ステップ。伽夜がやってたのも真夜ステップ。あと伽夜ステップも別であるんだなー。ネタはおいおいで。あはははは!」


「へえ? それじゃ、茶髪さんのステップは?」


「優里ステップ? あるよ? とびっきりのが。あれは――」


「――ほー、面白いことをやっておるの。ま、そこまでのプレイヤーがおるとも思えんがの」


 横目に金の長髪に軽いウェーブをポニーにまとめ上げた、見るからに欧米風の色白の女子が、ボールを指の先端でスピンさせつつ通りすぎる。


「微妙に腹が立つわねえ。お馬鹿のクェルが気づいてネタが分からないというのが」


「なんじゃ静流! その言い草は!」



 あくる日、美子先生が体育館に入ってきた。ハナがホワイトボードを持ち出していた。練習前に試合の反省、もしくは次戦の対策を行うのだろう。


「みんなオツカレー。じゃ、前回の試合結果&スタッツを発表するねー」


「イエーイ!」 「どんどんパフパフー!」


「茉莉ちゃーん、11点!」


「おおお!」「やるじゃんキャップ!」「2ケタ、は、初めてだ……」


「スリーは1/7だってー」「ひっで!」「てか入ったの姫アシストのだけじゃん?」


「優里ちゃーん、35点!?」「さーすがエース!」


「てか敵にやたらエースエースアピールすんなしマークきつくなるだろー」


「しなきゃこっちがキツくなるし?」


「やっぱそれ狙いかよ策士かよ」


「真夜ちゃーん、28点!」


「しかもほとんど4Q、ナイスだったよ!」


「あと2点とればよかったじゃん?」ユ


「バッカ誰がリンリの言う通りやるかっつの」マ


「うはっ ワザと止めたんか陰険かよ」ユ


「伽夜ちゃーん、10点、テクニカル2つ」


「「ぎゃはははははは!」」


「(出場時間)1Qちょいで10点なら普通だしー」カ


「第2Qとちょっとだけで10点も取ったんだね……」


「レヴィちゃーん、19点」


「ぶっちゃけ姫だけでも30点取れそーじゃなくなくない?」カ


「相手も初めからインサイドすごく警戒してたもんね」


「姫エースにすっか! 見た目からして警戒してきそうじゃん?」ユ


「センターは相手のインサイドの傾向に内容結果が左右されやすいです。点を取る前提では考えないほうがよいでしょう」


「エースを押し付け合ってるって……」


「ハナちゃーん、0点」


「もういいでーす! ハナのスコアは省略で!」


「教師は一人ハブとかやっちゃいけないんだよねー、ごめんねーハナちゃん」


「ぶはっ 謝る相手ハナとか爆笑」「余計傷つくし! ゲラゲラゲラゲラ」


「言っとくけど私のポジショニングは雑なあんたらよりも正確だから。それが得点にもDFにも結びついてるから」


 ハナは一見立っているだけに見えるが、ゾーンでもファウルを使っているとはいえ一度も抜かれておらず、オフェンスでは常にスクリーンになる相手から嫌な位置に立っている。


 発表を終えると、美子先生はあとはよろしくーと言い去って行った。相変わらず顧問も自由だ。改めてハナが前へ出る。他5人が周囲に座った。


「というわけで、オフェンスを強化する」


「……」


「……。ハナ? 得点力は十分備わっているかと思います。他に課題はないのですか?」


「おお! 黙ってたら案のジョー姫が行ったぞ!」


「おーし、いけー姫ー! 我らがご意見番!」


「逆に聞きたい。100点取って、負けるケースは?」


 天百合の目標は全試合100点取る。取れば勝者となっている。それが皆で決めた目標であり目指すスタイルとなった。


「……」


 誰も答えない。答えは簡単だ。相手を99点以下に抑えれば勝ち。しかし抑えれば勝ちという表現は適切ではない。


 100点以上取って、さらにオフェンスの上を行ってくるチームがあるかどうか、とハナは言いたいようだ。大差の100点ゲームこそ稀にみられるが、実際双方が100点ゲームになることなど、女子では滅多にない。


「算数じゃないしー、実際んな簡単にいくかっつのー」「そーそー」


「なるほど、つまり下手にディフェンスに時間を割いて、長所の伸びしろを失うくらいなら、とことんまで長所を追求しようと」


「その通り。スタミナの課題はこの先も付きまとう。ディフェンスを取り組んでも、結局すぐ先に超えられない壁、部員不足によるタイムシェアの問題にぶつかる。ファウルトラブル1つでもあればやりたいディフェンスすら出せなくなる」


「加えて、多少ディフェンスのいいチームに当たった際にすぐに得点が伸びなくなるようでは真のオフェンスとはいえない」


「分かりました。いえ、異を唱えたわけではありません。実際先日宣言通り100点取り勝利したのですから、失敗する前にむやみに方針を変えるべきではありません」


「んあ?」「おい姫負けてんぞー」「だーめだ姫使えねー」


 海松北は3年生が全員引退、1年生もまだ十分に育っておらず、タイムシェアに苦心し、結果終盤までスタミナが持たずに瓦解した。とはいえ天百合のように、1Qのペースをセーブしたとしても、やはり攻撃力の差は歴然、結果は変わらなかっただろう。


 所詮は1回戦だと、ハナも早々に総括を切り上げた。続いて次戦の話題に移る。webの通信で初日の結果が夜に更新されたことは茉莉も知っていた。同日試合を行い、勝ち上がってきたのは掛山西高校だった。次戦の相手だ。


「うわー出た出た。掛山西」


「スポーツもそれ以外もなんでも強い。リアルでも漫画でも強い」


「てかこのネーミングも他と被ってんじゃ? もっと捻った方がよくねー?」


「コラッ ふざけたことを言うな」


 ハナの説明が始まる。掛山西の特徴はエースのワンマンチーム、ではないが、飛びぬけたエーススコアラーがいるらしく、一回戦、1人で45点も取ってしまったようだ。しかし他が穴というわけでもない。平均的にバランスが取れている。


「45ってヤバババ」「ってユーリも35点取ってるし?」


「そうだよね。実はすごいよね」


 その内容はすでにwebにも出ていた。茉莉も気になってひそかに前日夜に見てはいた。通信が発達した近年、保護者達も動画を撮影するようになり、すぐにその様子が見られるようになっていた。


「ウチらのも上がってたー」


 所詮2F席からの家庭用ビデオ、しかも大抵フルタイムではなく、大した動画ではないが、概要は掴むことが出来る。


「そう、つまりある程度はこちらも研究されてくる」


 お互い全く知らない状態からは始まらない、ということだ。



 練習が始まると、最初にゆらりとボールを突きながら、ペイント後方に向かったのはレヴィナだった。距離感を確認しつつ、ドリブルを始める。


 ダムッダダンッ


 !


「ん?」


 ――あ、あれは!


 真夜と伽夜が披露したステップだ。双子ほどキレキレではなかったが、見事あのステップを再現してみせた。他全員が注目する。


「おほ、姫うまいじゃん」マ


「そーいや姫も元々スモールフォワードだっけかー?」カ


 シュートヘジからステップバックしたところで3Pに構え、止まった。自身の足元を見る。スリーポイントラインのだった。


「……」


「レヴィちゃんうまい! わ、私もマネしてみよっかな……」


 しかしそのままレヴィナは双子に鋭い視線を向ける。


「……あなた達には心底驚かされます。先日の試合、そして今、このバスケ部に入って良かったと確信しました」


「え?」


 続いてレヴィナはハナに視線を送る。ハナの表情は普段通り一切変わらない。


「姫やるなー」「うむうむやるやる。あっはははは!」


「マツリーのこのポカンとした顔もいいし?」


「いつまでもそのままのキミで居て欲しいー!」


「「きゃははははは!」」


「……」

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