第32話 U-4
エンドラインから海松北のボールが出る。大外に振られ、SG内山の外が打たれるが、さすがに外れ自身の連続得点も止まる。
リバウンドはレヴィナ、真夜が運び上がって、ハナに入れる。一旦止まりハーフコートぎみになるが、レヴィナがはっきりとダブルチームになっていた。優里が右3Pラインをウィングに駆け上がって来る。パスが渡された。
ハナをスクリーンにし、優里の正面のスリーが打たれる。
しかしこれは外すが、OFリバウンドを取ったレヴィナがそのまま入れる。
天百合 8-27 海松北
「うおお! 姫つええ!」マ
「いいねいいねー、こりゃ姫無双かー?」ユ
しかしすぐに海松北のボールが出された。速攻で一本取り返そうという魂胆だ。しかし、F中村がドリブルに入った所を真夜が小突く。スティールだ。こぼれ球を優里に片手で弾く。優里、45°スリーが打たれる。
スカッ
「ぎゃははははは!」マ
「またエアボーラーユーリ! だっせ!」カ
「うっぜー なんで入らないんだコレー」
「君たち! 私語を慎みなさい!」
再度審判から注意が入ってしまう。思えば3ギャルは伽夜が一本決めたのみで、開始からほとんどバスケらしいプレイをしていない。審判から見ればただの冷やかしの数合わせプレイヤーに見えなくもない。
▼
天百合ディフェンスからとなる。ハナからサインが出る。
――あれは!
ゾーンディフェンスの指示だ。しかし変則。手前を守るのがレヴィナだ。それを見た海松北は外でボールを回し、右辺SG内山に入れる。瞬間優里が飛び出し、しっかり張り付いた。3Pが打たれる。
これは外れた。作戦成功だ。リバウンドを掴んだ伽夜がパスは出さず、一気に駆け上がる。海松北も一斉に戻るがアウトナンバー(人数差)にはならず間に合っている。
「ほいさぁ!」
DFが迫るがプッシュクロスオーバーから一気に加速した。一瞬でゴールに迫り、そのままシュートにいけそうだったが、バウンドのパスを出す。受けたのは先頭から走っていたレヴィナ、きっちり2点を決めた。
天百合 10-27 海松北
ピーッ 「タイムアウト、海松北」
今の速攻を見てのTO。流れが変わりそうだったタイミングで出してきた。双方ベンチへ引き上げる。今のプレーに対して海松北からは驚きの表情が見て取れた。
▼
-海松北ベンチ-
肥満の吉田監督がチラリと天百合ベンチの様子を見る。個々が水分補給を行ったりリラックスしており、今のプレーにも喜びも上げず、采配をする雰囲気もない。
1Qの茉莉の3P乱打は外を意識させるためのもの、本命は結局留学生のレヴィナのインサイド中心の得点で、こちらを押えるべきと予測した。
「……。堂々と言ってはいたが、相手は留学生中心でくるだろう。引き続きインサイドを固める。でもって今のようなファストブレイクは注意しろ。トランジションからの展開は威力がありそうだ」
海松北が円陣を組む。流れは渡さないといった意気込みだ。
▼
ブザーが鳴り、サイドラインからの海松北の攻撃が始まる。
天百合はゾーン継続。中には切り込めず、F中村のロングミドルが打たれるが、
これも決まらない。急に始まったゾーンに苦戦しているようだ。
弾かれたボールを拾ったのは優里、そのままドリブルしていく。
「ユーリ! ボール運ぶな!」「んあー?」
優里はボールを運んだりキープするドリブルを任されない。オフェンスのテクニックが高いだけにその理由が謎だが、普通にドリブルすると気が抜けておりスキだらけで簡単に取られてしまう。自分でも当初からドリブルはしないと言っていた。
しかし海松北は早い戻りを意識していたため、妨害には合わず。
そのまま優里がウィングに到達した。もうシュートモーションに入っている。
『うわっ』
天百合の選手一同が天仰ぐ。絶対優里の入らないパターンだ。
ガガンッ
見事に外れた。優里 3P 本日 0/4
「ユーリテメふざけんなしー」カ
「あー? ノルマ100点だろー? あーし抜きで取れるんかー? 機材ハナに回収されるし? まつ毛できなくなるし?」
「うぐっ ……ハナ総督! ハイローを提案しまーす!」カ
「……。はぁ、仕方ないか。レヴィも思ったよりゲームに馴染んでるし」
エンドラインからの海松北の攻撃だ。天百合はゾーン継続だが、その形態が変わっていた。
▼
-啓誠館スタンド-
「ひゃ、100点取る!?」
「本気で言ってるのか? 1Q5点しか取らずに?」
「ノルマ……、何か課題を課してるみたいだねー」
「ん? ッ! 2-3(ツースリー)のゾーン!」
「さっきと変えてきたね。天百合はハンズアップすらしないけど、どうするんだろ」
▼
形態はレヴィナが中央、左右に真夜と伽夜、前衛にハナと優里の2-3ゾーンだ。ゾーンに変えてから海松北は得点できていない。外でボールを回しつつ、機会を伺う。
そしてやはりSG内山に回してきた。狙っていたように真夜が飛び出る。
スティールだ。
――やっぱり真夜ちゃんのカンは鋭い! 完全に狙ってた!
攻防が入れ替わる。変わらず海松北は戻りを意識していて早い。真夜がハナにボールを入れる。ウィングから優里がハナに迫ってくる。ボールが渡された。一歩も動いていないが、ハナの取っていたポジションは絶妙だ。
優里が受け取り3Pライン正面のハナの後ろを回る。
――スクリーン!
SG内山がハナにひっかかる。正面からのスリーが打たれた。
ザンッ
低めの弾道が綺麗に決まった。
天百合 13-27 海松北
「……」
「どんまい!」「一本取ろう!」
海松北メンバーが声を掛け合い、審判にボールを渡す。
しかし3Pを決めた天百合から何も歓声が上がらない。
!
瞬間――
ボールがPG谷口に入ると真夜が一気に詰める。ボールを奪う勢いのディナイだ。咄嗟で対応が遅れ、谷口がボールを保持できなくなり、苦し紛れにパスを出す。が、伽夜が駆け込みカットする。
そしてボールが誰も予想しない方向へ投げられた。
コーナーに立っていた優里に入る。
優里、ワイドオープンのコーナー3Pだ。
ザンッ
天百合 16-27 海松北
審判の指が3本上がる。慌ててオフィシャルにTOを要求しに行った海松北の吉田監督、しかし焦った海松北選手はすぐにボールをコートへ入れてしまう。
伽夜は尚も前から詰めている。
対角に長めのパスを出し、エースF中村にボールが入る。
素早くドリブルに入った。
しかし真夜が対応し回り込む。またまたすさまじいディフェンスが襲う。
『すごいディナイだ!』
「ギャルがディフェンスできないなんてのは錯覚なんだよ!」マ
「くぅ!」
ライン際まで追い込まれてしまう。またパスを出すが、苦しく、
伽夜とC上村の取り合いになる。奪ったのは伽夜だ。
「吹くんじゃねーし!」カ
上村の手が完全に伽夜に当たっていたが笛は鳴らず、
前方にはすでに45°で待っている優里がいた。
「14番をチェックしろ!」
海松北の監督から声が張りあがる。
SG内山が動かない優里にフェイスディフェンスに入った。
その優里は棒立ちで受ける姿勢すら見せない。伽夜の前方には2人。
『パスか!? 2対1でも突っ込むのか!?』
しかし伽夜は減速し、ペイントに入る手前からチェンジオブペース、
レッグスルーを2回行いつつ、下がる。
さらに斜めに2歩ステップバックし、シュートを打った。正面、3Pラインの外だ。
ザンッ
ボールはリング奥に当たり弾き返るようにネットに突き刺さった。
天百合 19-27 海松北
ビーッ! タイムアウト 海松北
――!
『三連続スリーだあああ!』
唖然とする海松北ファイブ、ブザーを聞き、特に感慨なくベンチに歩いて引き下がる天百合ファイブ。
天百合 19-27 海松北
「ナイッシュー、皆ナイッシュー! いい感じだったね!」
茉莉がベンチから立ち上がり激励し迎える。
「おつおつー。ハナのちっこいスクリーン久々だったしウケル」
「茉莉、次から行く。ゾーンは終わり。ディフェンスは弱め、体力優先」
「あ、うん!」
「びっくりしたー、ほんとあんたたち体育だけは得意よねー、英語も同じくらいがんばってくれない?」
「だけって美子ちーひどすぎ!」
「そーそー特技はメイクだし?」
「ムッキー! メイクで負けたくなーい!」
-啓誠館スタンド-
「……」
「こ、これだ。これが天百合だよ」
「双子のプレスだってマッキー(松下)でようやく交わせたくらいだしね、海松北のDFじゃ……」
「いや、単純にプレスを続けるのは無理だろう。さっきも出たがスタミナの問題がある。こうして突発的に出して、流れを変えにくるのだと思う」
-永葉スタンド-
「凛理だ。凛理が2人いる。いやコレ入れると3人いる」
「だーからー、真夜と伽夜と一緒にしないでほしいでーす」
「茶髪さんのスリーも入ったわね。23番も外がある。ちょっと困ったちゃん達ねえ?」
-海松北ベンチ-
スタメン5人をイスに座らせ、吉田監督が前出てボードを持ちしゃがむ。控えメンバーがタオルやドリンクを渡したりとせわしく動く。
驚きと気持ちの整理がつかない選手に対して声を掛けなければならないが、監督自身が混乱していた。
――――なんだ? どんなチームだこのギャル共は? あんだけバカ騒ぎしてて今の連続スリーには反応なしとは? 考えがまとまらねえ、顧問のねーちゃん先生はスコア付けてるだけ、あの5番の小さいガードが淡々と指示を出していた。
2分で整理するには課題が多すぎた。ラストのショック、天百合がゾーンに変わってから、止まってしまっているオフェンス、2Qから機能していないディフェンス。
これこそがハナの狙いだった。連続得点によりタイムアウトを取るであろうが、全てには対応できないはず。精神的な衝撃を与えるために、真夜と伽夜にプレスに行かせた。その光景はスタンドで見る観戦者にまで波及していた。
しかしそこはベテラン監督、経験を生かす。
「最初に言ったな? 舐められるなってのは、舐めていいってわけじゃねえ。まあ俺も舐めてたが、プレスの奇策は所詮奇策だ。いいか――」
オフェンスの指示を出した。まず一本。決めれば落ち着くはず。そこに活路を見出した。
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