第8話 K-1

 「「おねがいしまーす!」」


 一礼し挨拶を交わし、一度それぞれのベンチへ散っていく。ルールは先週聞いた通り、1Qが8分の4回戦、ピリオドの休憩が4分、ハーフタイムは15分。


 そして特殊ルールとして、人数不足の天百合高側は”退場なし”。パーソナルファウルで5ファウル以上になった場合、無条件で相手へ2スローが永遠に与えられ続けるという取り決めになった。もちろん故意の悪質なプレイはこの限りではない。


 さらにクォーター開始のボールは交互ではなく、点数の低い方からの開始となった。言うまでもないが、完全な格下扱いだ。啓誠館はレギュラークラスは一切出場しない。


 そのレギュラークラスが3名、天百合ベンチの隅のほうに来て座る。3年生のようだ。交代要員として起用するように、とのことだった。なお交代要員にも制限はなしとなった。


「交代とかいるんかー? ノーサンキュー」


「ちょっと優里ちゃんっ」


 思いっきり聞こえるレベルで言い放つ優里を茉莉がとがめるが、相手側はすでに不快な顔をさらけ出している。ギャルルックスの上に態度も悪いではどうしようもない。


 両軍、スターターが中央に集まり始めた。茉莉含め相手も気の向いた者だけがタッチを交わす。それぞれの位置につき構え始める。主審、副審を務める3名は啓誠館の女子部員だ。ジャンパーが呼ばれる。


 ビーーッ!


 チップオフ(試合開始)だ。時計が回る。ジャンプボールだったが、主審がほぼ伽夜に向けてボールを放る。これもハンデの一環だろう。宙で伽夜が振れた瞬間、ボールが茉莉に入れられ、その茉莉がゆっくりバックコートから前進していく。


 相手のフォーメーションを見ながら――


「ほい、もーらい」


 !?


 何を思ったのか、真夜が茉莉のボールを後ろからスティールしてしまう。

いきなりの謎行動に館内全員が驚きの顔だ。


 ヒョイ


 そのまま45°の3Pラインに立っている、優里に投げてしまう。優里が受ける。

すかさずゴールに振り向き、3Pをクイックで打つ。

さすがにディフェンダーも奇怪な動きに反応できない。唖然としている。


 ――ええええええ!?


 スゥ


 ボールはリングにかすりもせず、空を切った。


「……」


「ぎゃははははははは!」 「ダッセ! ユーリマジダッセ!」


「あのリング遠くねー?」


 真夜と伽夜が腹を抱え、大爆笑する。茉莉は大ひんしゅくだった。

相手からの視線が痛すぎる。


「ちょっと! みんな!」


 などと言っているうちに相手から速攻のカウンターが繰り出される。あっという間に中央を切り込んで行き、レイアップの2点を決めてしまう。誰もディフェンスをしなかった。口を開けて立ち尽くす茉莉がいた。


「……」


 エンドラインから茉莉が伽夜からボールを受け取る。今度はやや急ぎ目でフロントコートまで運んだ。真夜のスティールも警戒しておいた。が、誰もボールを受けに来る気配はない。


 というかハナはまだバックコートにいる。歩いてようやくフロント側に来た。


 相手啓誠館のディフェンスはマンツーマンだ。様子見であるのか、まだチェックは厳しくは無い。背番号で茉莉に5番、ハナに8番、優里に15番、真夜に11番、伽夜に6番が付いているのを確認した。


「マツリン、ユーリに入れろってー」


 真夜から声がかかる。正直誰もアテにならないので、このまま無理筋でもゴールに向かったほうがまだマシだとおも思ったが、唯一受ける姿勢は見せている優里にパスを入れた。


 そして、優里は受けた瞬間、振り向きざまに3Pを打った。


「ええええええ!?」


 今度は心の声が出てしまった茉莉。


 スッ パシ。


「……」


 ボールは空を切り、相手のセンター6番の手の中へきっちり納まった。


「だーっはっはっはっはっは!」「ひどすぎ! グッバイユーリ!」


「うざっ! うっざ!」


 真夜と伽夜が腹を抱え、大爆笑し、優里が悪態をつく。まったく同じ展開だ。茉莉は天を仰いだ。当然の如く、相手の速攻が来る。そして当然の如く、誰もディフェンスしない。


 数度の速いパス回しから、15番の3Pが決まる。マークマンの優里はこちらに戻ってすらいなかった。


 啓誠館の選手一同が顧問の高塚監督のほうを見る。これでいいのか。と言った表情だ。高塚はそれを一身に受け、隣の美子先生のほうを見る。しかし美子先生は涼し気な表情だ。高塚は腕組みをしなおし、息を吐き目を瞑る。継続だ。


 伽夜からボールを受ける。今度は自分にボールをくれとアピールしていったので、

そのままパスを出すも、ボールを受けるために前にも出ずに、ディフェンダーの6番にスティールされてしまう。


 ランニングからの2点があっさり決まった。0-7。アテの無くなった茉莉はその後自分で切り込んではみるが、やはりヘルプすらなく無理筋で、ボールを奪われ、きっちりカウンターを返される。


 なんとか次はフロントコートでハンドリングでかき回しつつ、伽夜にパスを入れようとするが、全くこちらを見ておらず、優里を指さしている。行き場がなくなりファンブルする。またターンオーバーだ。


 スコアは 天百合0-11啓誠館 になった。


「み、みんな! しっかり! がんばろう!」

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