第6話 - 筋トレは大事 -
翌日、放課後にスポーツジムへ5人で来ていた。自転車で行ける範囲の立地にあり、活動拠点としては問題なさそうだ。この時間帯ではまだ施設内も混雑していなかった。
「へえ、3人は普段からトレーニングしてるんだ。すごいなあ」
「たりめーだし? ギャルが体系維持するの基本だし?」
「といいつつダンディオジサンとの出会いを求める伽夜であった」ユ
「オジサンてかハナパパ限定っていうか?」
「キモ」
本気で言っているのかもイマイチ分からず茉莉は苦笑しておいた。茉莉とハナは会員登録し、ハナから適正メニューを聞きながら順に行う。優里、真夜、伽夜は普段通りのメニューをこなすようだ。
これからは週1~2回はここでトレーニングするという。適度に筋肉をヘタらせるところまで負荷をかける。なお持久系のトレーニングは走り込みで行うため、ここでは行わない。
「えと、それでは、ポジションを決めます。できるところを教えてください」
筋トレ終了後、ジム施設内の空き小部屋に集まってホワイトボードの前に茉莉とハナが立つ。ギャル3人は疲れたのか、飲料を飲みつつだらりとくつろいで椅子に座っていた。
「まず私から、ポイントガードです」
自分で言ってペンでボードに記入する。
「ガードのみ」
ハナが普段通り一言言ったのでそのまま書く。
「全部できるー でもセンターは嫌ー」「おなじくー」
真夜と伽夜が答える。いきなりな発言にどう書こうか考えつつ、順に全部ポジションを記号で書いていった。
――全部って、ほんとかな? 適当じゃないよね?
「2番3番(※1) ただしドリブル不可」
「んだよそれー、しろドリブル」「いやユーリはすんなし」
優里が答えると突っ込みが入る。ハナにまとめろと言われたので、そのまま順番に記載した。
PG 白幡 はな
PG 水津野 茉莉
G/F 浅丸 優里
F 彩川 真夜
F 彩川 伽夜
「おっしけっていー。伽夜センターなー名前最後だし」
「んでそうなんだよー。Fって書いてあるだろー」
「あーしSFでいいわー。ガードできないし」
それぞれの感想を口にする。メンバー構成と体格上、テコ入れのし様もない。茉莉はハナとダブルガードになったが、おそらくボールを運ぶのは自分だろうと思案する。来週もほとんど今週と同じメニューを行うとハナが言い、解散となった。
日曜日、ハナに真夜と伽夜の家にDVDを見に来いと誘われた。ここは急で行きにくいのでと、遠慮しておく。とにかく行動を共にするのがハナの方針のようだ。
帰宅し、不意に写真を見る。自分にバスケを教えてくれた従兄が居た。現在は社会人で私立の教員となり、県は違うが強豪高校のコーチとなっている。
昔は自分は従兄のような全国区の選手にはなれそうにない。それでもいつか一度でも、同じコートに立ってみたいと思っていた。憧れの従兄との共通の話題を失いたくない。高校でも、例えマネージャーでもバスケにかかわりたいと思った理由だった。
今ではおぼろ気ながら、自身も教員となり、バスケ部の顧問、できることなら従兄と同じ学園の教師になりたいという目標を持ちつつあった。
――そういえば、光梨は元気かな。
バスケを始めたころを懐かしんだため不意にミニバスの同期のことを思い出しつつも気分転換がてら、公園に練習に行く。今日も沙織がいた。
「おーい、沙織ー!」
「あ、茉莉! 聞いたよ、ウチとやるんでしょ?」
「あ、あはは」
最近は部活でヘトヘトで、互いに邪魔も悪いと思い、通信も送り合っていなかった。ボールも持たずに一定間隔で地面にマーキングを置き、反復動作を繰り返していた。クイックネスの練習をしているようだ。さすがに動きが鋭い。
「もしかしたら、来週使ってもらえるかもなんだ、レギュラークラスは出なくて。5人なんだよね? 私と同じポジションの人うまいの?」
沙織は興味深々だ。間髪入れずにいろいろ質問が飛んで来る。沙織は個人スキルも高く、2.3.番をこなす。マッチアップは3ギャルの誰かだろう。茉莉はただのギャルですとは言えなかった。苦笑いでごまかす。
「あ、あんまり、期待しないほうが、いい、かも?」
メンバーの経験値はミニバスくらいだと伝えておいた。少し落胆ぎみだったが、啓誠館からは、3年生が数人天百合ベンチに助っ人で入る。
沙織も切り替えてすぐに先輩との対戦を意識し始めた。部内でもライバルは多い。監督へのアピールを狙うのだろう。啓誠館の部員は30人はいる。
――特待の沙織でも、もとい1年は本来ベンチメンバーですらないんだから、すごい層の厚さだよ。
今日は自分から1on1を申し込む。多少のミスマッチとはいえ、やはり沙織の力量は高く、スティールまで狙われると途端にオフェンスが苦しくなる。途中からアドバイスのような指導になってしまった。
「ふーいい汗かいたー。お疲れ。じゃ、来週よろしくねー」
「ねえ、沙織。私と啓誠館のガードって、どのくらい差があるの?」
「……」
思い切って聞いてみた。厳しい答えは覚悟している。しかし友人からでなければ、正当な評価は聞けないだろう。
「……多分、全部1対1させるくらい、だと思う」
「ねえ茉莉、疲れたら、すぐに先輩に変わってね? 1.2年は必至だからさ、結構しつこいっていうか」
言うと自転車に乗り手を上げて去っていった。あまり続けたくない話題だったのだかもしれない。つまりこういうことだ。他のオフェンスを使わないでいいくらいの『穴』。
――いや、私が悩んだらダメだ。まずは自分より皆のことを考えよう。
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※1 1.2.3.4.5番とポイントガードから巡にポジション名が上がる略
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