第5話 - 自由気まま -
-翌日昼休み-
いつものように茉莉はハナと2人で弁当を食べていると、やはり後ろ席にたむろするギャル軍団5人と、さらに取り巻きが騒がしい。
「優里、この前のバッチリだった、あんがとー」
「気に入ったら買えよなー」
「アタシらが使ってるのも試しなっつのー」
「てかまだ赤いの取れないしどうなってんこれ」
「洗ってからって書いてあるじゃん直でやるとかありえないし?」
「字とか読まないしフツー?」
「あーし活字とか3行でバイオレーションだし?」
「それ教科書も読めなくね?」
「読めてたら赤点じゃないっつの!」
「「きゃはははははは!」」
部活で一緒になった手前、これまでほぼ毎日のように行われていたやりとりが茉莉は気になっていた。あれは、何をやっているの? とハナに聞いてみる。
「ん、コスメ品の試供品を渡してる」
どうやら製品の宣伝も兼ねて、試供品を渡し、感想をもらったりしているようだ。
学生のうちから仕事のような感覚となり、方や貰い手はタダで試供品をいくつももらえ、ウィンウィンの関係となっている。
「ま、学生向けのはそれなりのばっかだけど」
「ハナちゃんも卒業したら就職するの?」
「ううん。私は大学まで行けと言われてる。もちろん父の会社に入るけど、その前に課せられた課題がある。いや、むしろ使命なのかもしれない」
「?」
▼
-放課後-
部活の時間になった。体育館へ行く。昨日のように5人そろっていた。ユニフォームのカタログをめくりながら、なにやら熱い言い合いが起こっていた。
「なんでブラックなん? かわいくねー」
「ピンクでそ普通?」
タイミングが良ければ一新も可能だが、茉莉がすでに購入してしまっているため、変更ができない。新たに注文するユニフォームは、黒基調にピンクのラインを入れることにした。ライン部分だけ白だった茉莉のユニフォームを改造することにした。
「あんたら悪役にしか見えないし、黒でいい」
ハナがズバっと言い放つ。茉莉も、自分もいるんですけど、と言いたくなるが、
どうみても数からしてギャルチームだ。
「あの、2人とも、ヘアゴムの色が変わっちゃってるんだけど……」
茉莉が聞くと真夜も伽夜も顔を見合わせる。前日は真夜がピンク、伽夜がオレンジだった。今日は片方がグリーン、片方が白だ。
「え? そんなこと言ったっけ?」「言ってなーい」
2人でシラを切られると、どっちが言ったとも言えなくなる。巧妙な罠だった。しかしハナも優里も双子を見分けられており、ノーヒントで見分けられないのは茉莉だけだ。なんとかするしかない。
昨日とほぼ同じ内容の練習メニューがハナから言い渡される。双子にはドリブルの練習が言い渡されたようだ。適当にダムダム突いていた。優里と茉莉はフリースローだ。今日は2人で交互に行う。
ハナは走りに行く。今日はインターバルをやるようで、ストップウォッチを渡される。茉莉は球出しにストップウォッチとやや忙しい。
――こ、こんな内容でいいのかな?
「マツリー、片手で打っとけってー。慣れ慣れ」
優里に指摘される。今のままでも8割弱は入っているので、正直変えたくはないというのが、茉莉の本音と感覚だった。一応、数度やってみるが、やはり球筋が左右どころか前後まで合わなくなる。
真夜と伽夜の方は向かい合ってドリブルでフェイントを掛け合っては、ゲラゲラ笑い合っている。相変わらず自由だった。
――でもあの2人、ボールが床を打つ音がすごい力強い。
後半はハナが戻ってきて、真夜と伽夜に指導を始めた。茉莉はドリブルシュートの練習をし、優里はボールを拾ってはシュートし、をだらだら繰り返していた。
「マツリー、ディフェンスやってあげよかー?」
「え、ありがとう、お願いしていい?」
軽い動きだけでほとんど棒立ちレベルのディフェンスをやってもらった。動くこと自体がめんどくさそうだ。
「おードリブル低い低い。打点も低い。うししし」
……むっ
低いドリブルは身長のハンデを補うために必死に練習した。茉莉の唯一の得意と言えるプレーだ。これは低身長の者なら誰でも目指す道だろう。しかし打点の低さはどうにもならない。
「ジャンパー(※1)打てばー?」
そんなことが出来ていれば、中学時代もとっくにレギュラー入りだ。茉莉はDFが付いた場合のシュートへのフィニッシュ部分に課題があり、結局は克服できず自身が主導での得点を半ば諦めていた。
――みんな私よりは身長があるから、誰かでもゴールを狙える人が居るといいんだけど……。
ガードはコート上の監督、司令塔とも言われる。このポジションの人間の力量しだいで、チームの性格が現れ、戦局も大きく変わってしまうことが多々ある。重要な役割だ。
▼
「おーいみんなー 練習試合の相手決まったよー」
終了時刻が近くなり、美子先生が入ってきた。一斉に振り向き好き勝手バラバラの挨拶する。男子は顧問の登場には整列し、一同に挨拶することに比べて雲泥の差だ。
「ププッ 練習試合ってマジかよ!」マ
「5人でどうやんだウケル」カ
ハナが指導を切り上げ、すぐに寄っていく。
「先生、ありがとうございます。どこでしょう?」
「えとねー、
「け、啓誠館!?」
茉莉だけ驚きの声を上げる。全国常連、毎回ベスト4以上が当たり前の県内強豪校だ。そして、先日公園で会った茉莉の友人、沙織の所属する学校でもある。
「あ、ありえません!」
「だってー、知り合いの先生のとこしか無理って言ったじゃん?」
しかしながら、ハンデを補うために、特別ルールで行ってくれるように、打ち合わせたとのことだった。
クォーターの時間を10分から8分にする。ピリオド(※2)置きの休み時間を数分延長する。啓誠館高は冬を目指す3年生と2年レギュラーが出ず、逆に天百合高側へ、何人か助っ人として参戦する。それで5人のハンデを埋めるようだ。
「そんなに綿密に打ち合わせてくれたんですね」
「ん? 全部ユージに考えさせた。弱み握ってるから」
「うはっ」「ヤバババ」「さすが元黒ギャル」「黒くないわ!」
――啓誠館の監督かな。見たことあるけど若いけどやっぱり厳しそうだった。知り合いだから頼んでくれたんだ。
試合は再来週、日曜日に組まれた。予定を入れないようにとハナが周囲に釘を刺す。
明日はジムに集合と言われる。筋力トレーニングを入れていくそうだ。真夜、伽夜、優里は普段からそのジムを使っているらしい。会員制なので、料金を聞き、なんとか親の了承を得た。
-夜-
――まさか、部員が揃って、練習試合までやることになるなんて、思ってもなかった。急でまだ混乱もあるけど、キャプテンとしてなんとか皆をまとめられるようにがんばろう。将来の経験にもなるかもだし。
強豪校に対し、控えメンバーといえどもボロ負けだろう。10点取れるかも怪しい。もしみんなが気落ちしてしまっても、自分だけは声を出して、まずは皆に久々のバスケを楽しんでもらおう。そう思った。
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(※1)ドリブルなどを行ってギュっと止まり、ジャンプシュートを打つ動作。
(※2)1試合を4つに区切った間。インターバルの休み時間のような意味も含む。
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