第4話 - フリースロー -

「ったくギャル生活謳歌おうかするつもりだったのにマジかよー」


 緩やかにボールをつきながら、まだ愚痴を垂れている優里がいた。


「あ、あーしは浅丸優里ね。知ってる? どうせしらねっしょ。優里って呼んでねマツリー」


 クラスのギャルメンバーの中核だ。もちろん茉莉も名前くらいは知っている。言いながらひょいとフリースローを放つ。リングに当たるが入りはしない。


「マ、マツリー。メジャーリーグ行った人みたいな発音……」


 さらにひょいひょい打つが、シュートフォームも何もない。入ったり入らなかったり、1/2くらいだ。ペースに合わせて茉莉は次々にボールを送る。


 ――でも全部ワンハンドで打つんだ。


 女子は非力さと安定性を補うために、両手で打つ者も多い。男子ではほぼ皆片手、どちらを採用しようと確率に大きく影響はしないが、より実戦的なのは打点が高く、ブロックを交わしやすい片手だ。


 籠のボールを全て打ち終えると2人でボールを集め、再びフリースロ―に行く。


 ちらりと双子の方を見る。壁際に2人くっついて並び、1つの端末の動画と思われる資料を黙ってじーっと見ている。先程の騒がしさが嘘のように集中していた。


「あっはっは、あーやってるとかわいいのにねー」


「4人はミニバスで一緒って聞いたけど、長い付き合いなの?」


 パスを出しつつ、聞いてみた。全員親が化粧品関係の仕事で、やはり古い付き合いだと言う。3人とも、この高校が終われば就職するつもりとのことだ。


 教員もそれを承知なので、多少ハメを外していようと、進路のほぼ決まったような者はあまり相手にしないようだ。生徒指導の厳しさは就職先から逆算されたようなものであるため、全国的にも就職率の高い学校が厳しく、進学校のほうが緩い傾向にある。


 ギャル生活を謳歌する。のセリフを思い出す。就職する前にこの3年間を大いに楽しもうとしていたようだ。茉莉はなんだか、バスケに付き合わせてしまって申し訳ない気持ちになってきた。


 優里のシュートは徐々に確率が上がっていき、気づけば2/3ほどは入るようになってきた。5回ほどボール拾いを繰り返した。しかしまだ優里打つ気のようだ。


「休憩しなくていい?」


「ああ、そだねー。何か飲もっかな」


 差し入れつつ、久々でよくそんなに腕が上がるね、と聞いてみた。すでに家の手伝いで荷物の出し入れ包装等を大量にやらされていて、腕がパンパンだと愚痴っぽく漏らし始める。それによって力があるようだ。


 しかしコスメ用品の小遣い稼ぎのためには仕方ないと言う。ただ、3人で趣味のジムにも通っているらしい。体型にまでこだわりがあるようだ。


「時代はECなんだよー インバウンドに頼ってっからやられるんだよ。きゃはは」


「はっ はっ スタッフの言ってることそのまま言ってるだけだから。意味わかってないから」


 ランニングがてら横を通過したハナが突っ込みを入れていく。じきに双子が立ち上がって、そのハナの元に行く。


「見おわったー。つか半分以上しってたー」「動きは兄貴帰ったら聞いとくー」


「じゃ、あんたらもフリースローね」


 もっとハデなことがやりたいのか、落胆した表情をしつつ、2人で交互にフリースローの練習を始める。


 ――あ、やっぱりワンハンドで打つんだ。


 双子も当然のようにワンハンドシュートでフリースローを打ち始める。


「ユーリもっと詰めろよー」


「はあ? 2人なんだから正面とれるわけないし?」


 並んで打つため正面が取れずに言い合いを始める。結局どちらも引かずに、肩をぶつけ合いながら放っている。茉莉の横に並んで籠から球出しするほうの双子が話しかけてきた。


「あたしが真夜。あっちが伽夜ね。髪型一緒だと分からないでそ? 腕のゴムで見分けといてねー」


 それでヘアゴムをしていたということだろうか。体育館に来てからはポニーテールにしていた。教室でも思ってはいたが、本当にそっくりで分からない。というよりメイクを変えられれば永遠に分からない気もした。


 間違えても気にはしないが、めんどくさいのでイチイチ訂正もしないと言い切っていた。交代しながら練習が進む。


 ガガンッ


「ちょー、同時に打つなし。入ったかわかんねーだろー」ユ


「それユーリじゃんせめて基礎フォームで打てっての」カ


「いちいち二回床にボール突くの意味あんのかよー」ユ


 優里がシュルシュルシュルっと手でボールを回転させ、止めた瞬間放った。

スパっと入る。


 ――ボールが完全に軸で回転してた! すごくうまくなってる。


「おーわり。もう腕上がんねー」


 その優里が自分で練習を切り上げてしまう。代わりに伽夜が入った。ランニングを終えたハナが戻ってくる。ドリンクを差し出した。


「ハァ、ハァ、一応、ちゃんと、やってるか」


 ハナは走ったのみで、ボールを使った練習をしないのだろうか。その時、顧問の河合先生が入っきた。


「あー、やっぱ入ったの、あんたらだったんだー」


 入部届けを提出したのに、名前も見ずに来たのだろうか。


「うわっ 顧問て美子ちーだったんだ」ユ 「よかたー。楽そー」マ


「ちょっとあんたたち、また合コン設定しなさいよ」


 先生が急にとんでもないことを言い出した。


「えーセンセとアタシらタイプ違うしー?」カ 


「そそ。あたしらダンディなオジサマが好きー。ハナのパパみたいな?」マ


「キモ」ハ


 美子先生も同じノリで言いたい放題言っている。大丈夫なのだろうか。今日は帰宅するので練習を終えろとの連絡だった。


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一人称

あたし……真夜

アタシ……伽夜

あーし……優里

一応要所で補助記号は付けて行きますが極めれば全て見分けられます。

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