第13話

「遺伝子を」


「遺伝子?」


「自分の遺伝子を、残したくない」


「なんのはなし」


「俺、拾い子なんだ。母親はいるけど、血が繋がってない」


 彼女の背中に、話しかける。こちらは、向かない。その姿勢を見て、本当に、捨てられたんだと、実感する。


 わけもない、きょうふ。感じた。感じるだけ。それだけ。何も起こらない。


「おかんには、いや、母親には、感謝してる。いい人だから。でも、まだ若いんだ。26で。連れ子がいると、結婚はおろか恋愛もできない。おかん、男性経験がなくてさ」


 その場に、しゃがみこんだ。立つのが少し、つらい。


「はやく自立しておかんのもとを離れないとさ、おかんを楽にしてあげないと。恋愛もできやしない。いい人はいるんだ。アルバイトしてる弁当屋のおやじ。身体が弱くてさ。でも、料理がうまくて。あれ、なんの話だっけか」


 めまいがしてきた。


 でも、力も根性もあるので、耐えられる。これは、身体の不調ではない。心がぐちゃぐちゃになっているから、めまいがしている。耐えられる。しゃがんでゆっくりすれば、耐えられる。耐えられる。自分に言い聞かせた。二度。


 耐える。


「そうだ。拾い子。俺は、拾われた子供だから。捨てられるのが、こわい」


 そう。こわい。


「こわくてさ。でも。だからといって、ずっと月何つきかに捨てられないようにって、負担をかけるのも、おかしいと思って」


 めまいが。なかなか消えない。


「だから、俺は、大丈夫だから。大丈夫。おれのことは」

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