第10話

 16時50分。


 宿題をなんとかして早めに終わらせて、森林公園に向かう。


 入り口で、彼を待った。


 予定時間は、17時半。昨日私が、そう言った。でも、結局、彼の言った時間に来てしまっている。


 きっと彼は、17時半まで来ない。彼は、ちゃんとしているから。私とは、違って。


 入り口にあるベンチに、座った。やっぱり、早く来すぎたかな。


「あれ」


 声。


 彼。


「17時半集合じゃなかったっけか」


「早く終わったから。そっちは?」


「抜けてきた。やることないから、いったん下見しようと思って」


「なら、よかった」


「どうした?」


 彼の目。私の目を、見る。視線を逸らした。


「目の下にくま。つかれてるのかと思って」


「寝てないだけ」


「じゃあ、今日の予定は無しにしよう。身体のほうが大事だ」


「いいの。つかれてないから」


「いや、その顔で言われてもな」


「自慰してたの。一晩中」


 口をついて、ほんとのことを言ってしまった。つかれてるのかもしれない。慌てて手で口を覆う。


「あ、ごめん聞いてなかった。抜けた連絡をしてて。なんだって?」


 彼。端末を見てた顔が、こちらを向く。口に当てていた手を、ひらひらさせてごまかした。


「あ、いや。たいしたことは言ってないから。とにかく大丈夫」


「そっか」


「行こう。森林公園」

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