道徳的な生け贄

魔の差した市民と

疲れた国民が

挨拶もそこそこに

デュエットを始める


気持ち悪い気遣いと

気色悪い優しさが

耳元で讃え合う


溜まりに溜まった、フィクションと鬱憤が

つかの間

市民権を得て

町を闊歩する

歪んだフィクションで、誰彼構わず殴り付け

更に鬱憤を募らせていく


革命の朝は近いと辺りを鼓舞し

暗黙の署名は増していくのにも関わらず

主導者は決して名乗り出ない

なのに生け贄だけはすぐさま用意され

晒された首はいつまでも腐らず

公共に強要されし謝罪文は

嘲笑の的にされ続ける


あたかも今の今まで革命する体で生きていたかのように

あたかも嘲笑する準備はいつでも万端だというかのように

晒し首は永遠に晒されて

はりつけは公共のモニュメント

魔女裁判は上告に継ぐ上告で

石打には軽石が用いられ

引き回しでは防護具の装着が義務化され

生殺しと優しさは同義語で

それはあくまで自殺の体でなければならず

品行方正が唯一の道徳で

殺すのは隣町の誰かさん


言葉狩りにより、品行方正、清廉潔白な言葉だけが生き残る

私たちはそれらに縛られていく

美しい言葉たち

正しい言葉たち

誰かの感情は金型に潰されて

誰かの疑問はふるいに掛けられて

誰かの墓碑さえ清く正しく書きかえられる

悪事の疑似体験は消えていく

不道徳の疑似体験は消えていく

出所を失った鬱憤は、淀んで腐り、匿名で、迂闊な誰かに届けられる

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