第11話 天国と地獄


 システィーナ礼拝堂に降りていく狭い階段で 各国語のアナウンスが流れます。

「礼拝堂内では静かに、写真撮影はしないように」 


 伊、英、仏、独、そして日本語。まだ 他の言語があったかもしれませんが、わかりませんでした。 

中国語がなかった(と思った)のは不思議でした。


 天井を見上げて 一瞬息がとまりますね。

 喚声はあげてはいけないのですから、 感動を噛締めて上を見続けます。


 寝っころがってずーっと見てられたらそれこそ天国ですね。

 創世記の物語をじっくり追っていくのも並大抵ではありません。

 首が痛くなるよ。 

ミケランジェロは身体に相当なダメージを受けたにちがいないと思いますね。

重労働なんてもんではありません。ペンキ塗るだけでも大変と思いますよ。

ひとりで完成させたなんて 神業としか考えられません。


 オペラグラスで見ている人がいて、その時に思い出しました。

 旅立つ時に前に携行したらいいというアドバイスをうけていたのに、どうして必要なんだろうと 迷ったあげく入れてこなかったのです。


 そうか、ここで必要だったのね。素直にアドバイスには従うべきですね。

あと、鏡があったらいいかも。


 教会の中は東京のラッシュアワー状態。

 どうしてもざわざわとうるさくなってきます。すかさず しーっと注意する人がいます。それでもしずまらないと また各国語で放送が流れます。

 

 横でそんなことおかまいなしに平気で天井指差しながら声をひそめることもなくしゃべってる男がいて、

ふーこさんが

「フランス語かなあ?うるさいよね。」って言ったら 

ぎょろって睨まれた。どんな言語でも悪口はわかるんだよね。きっと。


最後の審判の前で ここでひしめいている群衆は

天国にはひきあげてもらえない地獄行きの民のような気がしてきます。

 

時を超越した 偉大な美は、まるで 天国のようですから。

まさに 今この時間、空間が天国。


明日には下界に戻っていかなくてはなりません。

戻っていく日常が決して地獄ではありませんように。

「も、いこっか」

ふーこさんの声で我に帰ります。

出ようとしたところで、


女学院ママが   「ボッティチェリわかりました?」


あ、天井と最後の審判しか見ていなかったことに気がつきました。

横の壁画をまた見に戻ります。

ウフィツィ美術館でヴィーナス誕生を見ました。

この壁画もボッティチェリのフレスコ画。旧約聖書を表したものだそうです。

モーゼの十戒位しか聖書の基礎知識がないもので

知識あればもっと興味深く楽しめるのでしょう。

女学院ママに説明してもらえばよかったね。と 

ふーこさんと無教養を嘆きあいました。


これから 自由観光です。


 パンテオン、フォロロマーノ、 いろいろあるけれど、

ミケランジェロが設計したというカンピドーリオ広場をまず起点にしたかった。

 

朝、東京添乗員のYさんにどうやって行くのがいいか訪ねた時、

 

バチカンからタクシーに乗ってしまうのが一番てっとり早いですね。

真実の口の前だとタクシーも止まりやすいのでそこを基点に歩くのがいいですね。

とのことだったので、そうしよう。

真実の口は別に興味もないのだけれど、添乗員のアドバイスの通りにします。


 さて、礼拝堂から出たら、そばには現実の人たちがいた。あたりまえだけど。

 女学院親子と、鉄関係家族3名、みっちゃん大阪姉妹。

みなさん、これから どこいこう? どーしよーって 漂流してたみたいです。

 

「これからどいくん?」って みっちゃんに聞かれ


「タクシー乗ろうかなって。。。むにゃむにゃ」と言葉をにごしたのですが、

「どこ行くん。?」 再度聞かれ 


仕方ありません、どうせみなさん、中心部にでるんでしょ、

 「じゃ ごいっしょにタクシー乗ります?」

私の性格って どうしてこうなの。

「じゃ、さようなら」っていうのができない。


9人でぞろぞろ乗り場を探します。

神学校生(かわからないけど、服装から)にタクシー乗り場を聞きました。


2台で向かいます、まちがいないように、地図の場所も念を押して、

では真実の口でお会いしましょう。


前の1台はふーこさんと大阪姉妹と私。成り行きで私は助手席になりました。

やだなあ、助手席。ここイタリアって、運転乱暴だもんね。


街並みをゆっくり眺めたいのに それどころではない。

ラリー状態。

バイクにあたりそうになったり、急に車線変更したり気が気ではない。

つい、「あっ!」とか 「あー!」とか声がでます。

運転手さんは わからないふりしてるのかどうか英語で何言っても無表情。

真実の口に到着して心底ほっとしました。

 

確かにタクシーが止まりやすい場所です。

さて、この真実の口、さも観光客用というようにとってつけたように 

教会の入り口にあるのです。

サンタ・マリア・イン・コスメディン教会。

これ 映画撮影のために ここに置いたんじゃないの?と思ってしまいますね。

ローマ時代のマンホールらしいですね。


肝心の教会のほうは内部が工事中のようです。 工事屋さんが 長い鉄棒を何度も運んだりして 危険そうなので、近寄らないことにしました。


口に手を入れて写真を撮るために すぐに行列ができてしまいます。

わがグループだけでも9人ですから。

日本人ばっかりでもありません。

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