第10話 バチカン もっとゆっくり見たいよ~


オプショナルツアーといっても 山田さん以外全員参加です。

システィーナ礼拝堂はやはりはずすことはできません。

 

ホテルからそう遠くないので、ふーこさんと勝手に歩いていくことも考えましたが、ガイドさんの説明がついて、見所を効率よく回るためには

ツアーで連れてってもらうほうがいいかもしれません。

 

山田さんは ローマをよくご存知だし、奥さんの足のこともあって ご自分たちでゆっくり自由に回られるそうです。

そういえば 車椅子にのってらしたよね、最初。

  

「だいぶよくなってきたんです。」と おっしゃったから 

きっと外科的な疾患のようですが、それ以上深く尋ねることはできません。

「最初は来れないかと思ったんですよ、結婚式に。でも娘がこの車椅子探してきてくれて」


ばしゃっとたたむとコンパクトになる車椅子。

 娘さんは空港勤務ということで、

こういう便利な車椅子を日頃からご存知だったんでしょうね。


 帰国してから、友達に

「足がもし悪くなっても海外旅行行けるわ。」と言ったら 

「押してくれる人がいたらね。」って。

おっしゃるとおり。

 人生 健康と愛情関係を保ちたいものです。


 朝食の時、同窓生夫妻と同席しました。


「ナポリはいかがでした?」ふーこさんが聞くと

ご主人 よく聞いてくれましたと言わんばかり

「あんなもの いくことないですよ、あーんなもの」

奥さんは にやにやと笑っている。

「青の洞窟ったって、入って 15分ぐるっと回って ハイ終わりですよ。」

「でも入れたって運がいいんじゃないですか」

と私が言うと

「それが行くまでに3時間もバス乗って、おおかたバスですよ、わざわざいくようなもんじゃないですよ。」


奥さんすまして

「行ったからこそ、そういうことも言えるんでしょ。」

ご主人もわたしたちも

「ごもっとも。」


システィーナ組は ミニバスに乗り込み 出発です。

昨日バスから眺めたバチカンの混み具合がすごかったので、

今日はどのくらい並ぶのか心配です。


 「今日の列は短いですよ。直線で終わってます。ラッキーですね」とSさん。

と言うのでバスの窓の外を見ると、とんでもない 長―い行列ができている。

「これちっとも長くないですよ。いつもはもっと行って角も曲がって先なんて見えないんですから」


 列に並んだのが8時半ごろでした。45分には開館になります。

それならあと15分。 もうすぐ!と思いきや、

「1時間は待たないのでは」とSさん。えーッ1時間も?!と思いますが仕方ありません。

 私たちが並んであっという間に後ろに長い列ができ角を曲がっても続いているようです。


 今日初めてご一緒するご夫婦が隣に並んでいらっしゃいます。

私たちと同じ会社のツアーですが 別のコースの方で、たまたま今日だけ合流。

 70代くらいのご夫婦です。


隣に並んでいらしたご主人が突如私に、 

「あのー、阪神どうなったかご存知ですか?」と聞くのです。

「は?あー。阪神ね。4連敗です。」


夫に電話をかけたときに 彼も真っ先にこの話だったので、たまたま知っててよかった。いや良かったのかどうか。負けだからね。


日本を出発したのが私たちより1日早い20日だったそうです。11日間のコース。

ミラノも行ってきたそうです。2日後に帰国。

どういうコースなのですか?とお聞きしたら意外なお返事が返ってきました。

  

「まちがえちゃったんですよ。」 

そばで 奥さんも 「そう、まちがえたねえ」


それどういうことですか?


 おふたりともイタリアは3度目なんですって。

それでいつもとちょっと違うコースにしようかと思っていたのですが、こういうのとは思わなかった。

 

『ルネッサンスの美術、絵画堪能コース』というものだったんですね。


「え?ご存じなくて申し込まれた?」

「はぁ、全然知らなかった。ツアーのみなさん、すごい勉強家ばかりですわ。」

「そうそう熱心な人たちばっかりでね、うっかりしましたわ。」と奥さんもあいづちをうつ。

「ノートにね、びしーっと書いてますよ。それによう知ってはるのですよ。美術の話題ばっかりやね。」

だんなさん、自分でもちょっとぐちっぽくなったと思ったのか

「まあ、いろいろ勉強になりますがね。」と 言い添えた。


そちらのツアーで一緒の方たち少しばかり窮屈だったんでしょうか。阪神のことも話題にできない雰囲気とか。


「でも、そんな簡単に申し込むかなあ。。。

普通ちゃんと調べるでしょ、安いもんじゃないんだから。」

ふーこさんが こそっと言うけど、持てる人ってのは、鷹揚なのよ。


ふーこさんが尋ねます。

「どんなこと勉強になりました?教えてください。」


ご主人「たとえばね、フレスコ画ってぼく知らなかったんですわ。

あれは 漆喰壁に粉の顔料をしみこませていくんですね。しみこんでいくので、色が保たれるそうですよ」

すると

 

前のほうに並んでらした女学院ママが話しに参加してきました。

「そうそう、それで 乾くと膜ができるそうですよね。」

 女学院ママは絵を描くそうです。それで一度イタリアに来てみたかったって。


そういえば ウフッツィ美術館でもガイドさんによく質問してましたっけ。

鷹揚ご夫婦が参加してるツアーは、女学院ママタイプばかりなんですね。きっと。


 この鷹揚夫婦の奥さんが 女学院ママに「やはり大阪ですか?」って聞いた時のこと。

女学院ママが「さようでございます。」ってお応えになったら、


すかさずみっちゃん大阪ふたご姉妹が

「大阪はねそんなふうには言わないんやない。」って笑いました。

女学院ママは「ふつうに言いますわよ。」って

大阪姉妹、「わたしら大阪のおばちゃんやから そんな言い方せーへん」

 女学院ママ「‥‥‥」

わたしとふーこさんは 聞こえないフリしてました。


鷹揚奥さん「豊中です、わたしたち」

大阪姉妹が「あら、一緒ですねえ」

彼女たちの背中で、お揃いのグッチのリュックが揺れてます。


女学院ママは、黙ってらした。


なんかお気の毒でした。女学院ママのおうちは、あの震災で傾いて、

芦屋から高槻に引っ越されたっていうのを、私たち聞いてましたから。

ふーこさんも西宮で 震災ではひどい目に合ってるのでね、

この時ばかりは、女学院ママに話かけてましたよ。


「絵もおやりになるんですね!? では 今日楽しみですよね。」

バチカン美術館へようやく入場できます。


まず、ピナコテーク 絵画館から入ります。


ミケランジェロのピエタの像があります。

もちろんこれはコピーです。そう思って見るからなのか、昨日サン・ピエトロ寺院の中で見た本物からのパワーが全く感じられません。


「昨日見たね。」と誰にともつかずにつぶやいたら、

隣にいらした女学院ママが「あっちがほんものです。」とおっしゃいました。


 絵画はラピスラズリの青が美しいフレスコ画 

「音楽を奏でる天使」がスタートで、ずらっと並んでいます。

イタリア絵画史、宗教史をおりまぜて ガイドさんが たくさんの作品からピックアップして説明して案内してくれます。


ラファエロの自画像、ラファエロの「キリストの変容」‥

ラファエロの間への期待感が膨らみます。

 

 駆け足状態で、ただ通りすぎてしまう絵もすべてが貴重で価値のある作品であるのにと思い、途中でちょっと悲しくなりましたね。

立ち止まってじっくり鑑賞したいものです。

 折角時間とお金をかけて来ているのに、これって 意味ない。

走り回って かすめ見て、結局そう記憶にもとどまらない。

そんな旅を選んでしまったんだから、

今回は下見と割り切って、あきらめるしかない。  絶対にまた来るぞー!


騙し絵の天井画は よくよく目を凝らして見ても 

やはり実際に彫刻がしてあるようにしか見えない。 

彫刻より絵画のほうがお安い?と経費節減のためらしいけど、

このような絵を描くほうが実際彫刻するよりよっぽどエネルギーいるような気がするけどね。


 巨大な松ぼっくり(ピーニャ)のあるピーニャの中庭に出ます。

 

ミケランジェロの創世記と最後の審判のパネルが広場にずらっと並んでいます。

世界中の団体ツアー客がここでシスティーナ礼拝堂の事前ガイドを受けます。

礼拝堂では私語禁止ですので、ここで説明してくれるという訳。

雨降ったらどうするのかなあ。


 最後の審判は 最初 全員が布などはつけていない全裸だったのに、

後の教皇があんまり露骨だと意見して とってつけたような布の後書きがしてあります。


 最後の審判の頃のルネッサンスの自由な風潮が 

バロックに移行するにつれて無くなり重く厳しい世の中になっていくというのが

このことで少し理解できる気がします。


当時 おひげのないキリストもセンセーショナルだったらしいですね。

 

 早く 実物がみたいよー。でもまだまだです。

 絵画館から礼拝堂までは全部歩いたら2キロあるんだそうです。

 

ついにたどりついたラファエロの間は4つあります。

最も有名な署名の間はぎっしりと人で埋まっています。


「アテネの学堂」 「聖体の論議」 「パルナッソス」

 

教科書などでしか見たことのなかった壁画を実際に見ていることの感動と ここに描きこまれた古代哲学者、神、女神、詩人たち‥‥‥ミケランジェロやラファエロ自身

それに現実にここに来て押し合いへし合いしている人の波とで 

くらくらしてきます。


 あの人も描こう、この人も忘れてはならないなどと構図を練っているラファエロに ミケランジェロは助言を与えたりはしなかったのでしょうか。


 アテネの学堂の前面にペンを持ち何か考えている人物がミケランジェロです。とガイドさんは簡単に説明したけど、いろんな説があるようです。


 中央に プラトンと並ぶ、アリストテレス。プラトンはダ・ヴィンチ、アリストテレスはミケランジェロをモデルにしています。


 が、 1  ダ・ヴィンチと並んでいることに激怒し、ミケランジェロが自分で       ヘラクレイトスを書き加えたという説。

  

    2  システィーナ礼拝堂の天地創造を見たラファエロがミケランジェロ       に敬服し、

       初めの構想とは異なるヘラクレイトスをミケランジェロをモデルに       書き加えたという説。

       タッチもミケランジェロの影響が濃く見られる。 

 

 さて、どっちでしょうね。 いくらなんでも人の作品に勝手に描いちゃうということはないのではと思いますが、ミケランジェロならやっちゃったかもね。

 ラファエロが心酔していたようですしね。


 当時に思いをはせながらさあ いよいよシスティーナ礼拝堂に入ります。  

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