第8話 ローマ初日


 ローマのホテルに着いて10分後には、近くのレストランに昼食にでかけます。

ほんとにせかせかした旅です。


 2ブロックくらい歩いてドゥエ・フォンタネーレというお店。地下に入り、

「また ずっと奥だよ。」ふーこさんがささやきます。

日本人団体は奥へと お決まりのようです。

 

 前菜はラザーニア、メインは サルティン・ボッガ、デザートはパンナコッタ。

サルティン・ボッガは子牛肉をうすくたたいて小麦粉をまぶして焼いたもの。

口にとびこむという意味だそうで、簡単に料理できてすぐ口に入るという意味らしい。

 ウインナシュニッツエルとも少し似てるよね。小麦粉とパン粉の違いだけじゃないかしら。

 日本人の奥様方が 通常 簡単に料理しているおそうざいの域を出ないような気がするけど。

確かに、パスタの種類などはすごいけど、ローマ名物と言われてもねえ。ふーんという感じ。


だいだい 高級レストランになんて行ってないので、大きいことは言えないのですが、

イタリア料理そのものが日本人に違和感ないのか、日本の食文化がインターナショナルで おおかたのものは口にしているからなのか。食事で大感激!とはなかなかならない。 

 

などという話を 山田さんのご主人としました。

 

彼は 某食品会社の重役さん、名実ともにお偉い方でした。

 日本スローフード協会の副理事長さんもしてるんですって。

 

世界の食の文化は発酵食品の文化ですよ と各国の食についてしゃべりだしたら止まりません。

 「発酵食品 世界中にあるでしょう。チーズ、酒も、味噌、その国独自の発酵食品が必ずあります。その国の文化なんですよ。」確かに。


「たとえば 韓国のキムチね、でもね、あんな危険なもの食べちゃだめですよ、 生のあわびやらえびやら あいつらなんでもぶっこむんだからキムチに。

味見してひどい目にあいましたよ。すぐには出ないんだよ。

帰国して三日目。会社で急に脂汗が出てきて、倒れましたよ。救急車で運ばれて 死ぬ目にあった。あれは 危ない。」


 その後も、ワインの勢いもあって、 何度も「あれはアブナイ。」念を押してました。


 スローフード運動発祥の地はここイタリアとのこと。ママの味が大切にされるお国柄ですものね。

 イベリコ豚ってどんぐりだけを食べさせて 生ハムにする話。


「ほんとにどんぐりだけを食べてるか見に行きました。」って山田さんは話す。

「ぼくも食べてみましたがね、苦いどんぐりでしたよ」


 なんでも味見しちゃうらしい。


 奥様は肯定的な相槌を打ち、素直に、ご主人のお話聞いている。


 面白い内容なのでOKですが、でもなんか違和感あったのよねえ。 

私だったら おしゃべりしすぎだよって主人をセーブしちゃうかもしれない。

 夫をたてて 気分よくさせてあげるってパートナー。見習うべきか。いやあ、私にはできないかなあ、 と言ったら

ふーこさんが

「大会社の重役さんだよ、すごいよ年収。私でも きっと夫を立てるわ。」

そっか、奥様が賢いと 旦那は出世するのか。いやその反対か。ようわからん。


 市内観光の出発の前、大急ぎで銀行に行って、ユーロを少しおろしました。


 ふーこさんが、 「やっぱり20ユーロは青だよねえ。」としみじみ言う。

何を言ってるのか? そういえば バスの中でそんなこと聞いてたなあ。


「あのね、今日、オリヴィエートでね、青いお札出したのよ、10ユーロだと思って。」

「それで?」 悪い予感。


「おつりが3ユーロだったけど、本当は13ユーロもらわなきゃいけなかったんだわ。」

「まちがいない?」

「だって、赤じゃなかった。青色だったもの。」

‥うーむ。  ふーこさんねえ。。。


気を取り直してローマの市内観光に出かけます。


ミニバスに乗り、最初はバチカン市国。

サン・ピエトロ広場はものすごい人が渦巻いてます。

今朝 ローマ法王のお話があったそうで、通常より混んでいるとのことです。


本当は入れないところに大型バスがたくさん停まってますね。

ディスエイブルドの方たちが団体で来ているからでしょうか。とガイドさん。

「ディスエイブルドって?」とふーこさん。

「優先駐車場よ、障害者用。」 


何本もの白いドリス式円柱が並ぶ回廊は 巨大な鍵穴のかたちで広場の周りを囲んでいます。 

その上には訪れた者たちを見守るように、140体もの聖者が並んでいてこの広場の空間を特別なものにしています。


 陽射しが強い中 ものすごい混雑で 大聖堂の入り口はラッシュのようにおしあいへしあい。 タンクトップの女の子、上着を着るように注意されました。

教会内は肌の露出しすぎは禁止。ミニスカートもだめですよ。


ガイドさんは手に目印を持って掲げていますが、そのほとんどは折りたたみ傘です。


ガイドさん同士がイタリア語で丁々発止やりあっています。日本人ガイドさんは押され気味の様子です。

  ようやく中に入れた時、私たちのガイドさん

「この国の人たちはお先にどうぞということを知らないねえ」とぼそっと。やっぱり負けてたのね。


「日本人は 奥ゆかしいというか 遠慮深いというか 人を押しのけてというのは苦手なんですね。」と言ったら 大きくうなづいてました。


 サンピエトロ大聖堂の中、荘厳とはこういうことを言うのですね。混雑する人がいなければきっともっと広さや威圧感を感じたことでしょうね。


 世界最大のキリスト教教会の象徴、ここのクーポラがミケランジェロのデザインでした。

 フィレンツエと混同していましたが、そうそう ここがそうです。もっとも完成前にミケランジェロは亡くなっているようです。


ミケランジェロのピエタもベルニーニの輝く司教座も実物をすぐ目の前で拝むことができました。

こんなに簡単に見ることができるということの一種拍子抜けするような非現実感の中での感動。


ガイドさんは しきりに バチカンを守っているスイス衛兵のかっこよさを強調しますが

後で知りましたがオレンジとブルーの制服はミケランジェロのデザインですって。そういうことをガイドしてほしいよねえ。イケメンだろうがなんだろうが全く関係ないんだから。


それにしても フィレンツエから駆け足状態でざーっと見てきた中にミケランジェロの作ったあるいは関わったものがとにかく多い。

超忙しいひとだったよねえとふーこさんが感心してるけど、

弟子をとるのを嫌っていたというから ひとりでほとんど仕事してのだろうか。


 帰国したらミケランジェロ関係の本をじっくり読みたいですね。


大聖堂 一回りして 大急ぎでミニバスのところまで戻ります。

コロッセオまでの道もいつになく渋滞しているということです。

 

渋滞しているのを幸い ゆっくりと街並みを見ることができます。これからの自由時間 ローマのどこを歩こうかとわくわくします。


 フォロロマーノもちらっと見えました。トルコのエフェソスの遺跡を見たことがありますが、大国イタリアの首都ローマのまん真ん中にこんな広い遺跡郡がそのまんま実存するということが 不思議な感覚。


コロッセオしかり。

高層ビルなどないこの大都市が抱える問題は相当複雑で難解でしょうね。


「イタリア人てさ、 まあいいやいいや まず今はワイン飲んで楽しんチャオ!ってそんな感じだよね。

 こんな偉大なもの作ったのは私の先祖ってみんな自慢にしてるらしいけど

その上にあぐらかいて、自分たちはそれを切り売りして生活してるんだよね。」

ふーこさんは一刀両断、手厳しい。

でもさ、裏返して考えれば 過去にしばられて 身動きとれないということかも。

前に進もうとしたら 過去から足ひっぱられるということがあるにちがいない。

ローマの休日よりローマの苦渋といったところでしょうか。 

だって、税金など、ものすごく高いらしいよ。


さて、トレヴィの泉にも行きました。コインを投げれば またイタリアに来ることができる。

なんてったって、観光立国イタリアは リピーターを増やさなければいけません。


 でもこの街中の泉がなかなか良かったのですよ。

トリトンが翼のある馬を操り、海の神ネプチューンの馬車をひいているという大理石の彫刻は躍動感があってすばらしいものでした。

映像では何回も見ていましたが、やはり実物の迫力はすごい。

もちろん願いをこめて 後ろ向きにコインを投げました。

コインは集められて 寄付されています。


ミニバスはホテルにまっすぐには 帰らず、なんとローマ三越に寄り道です。

あたりまえだけど日本人ばっかり。せっかくローマにいるのに。


40分も店内にいます。時間もったいない。と思うのは 私だけ。

 ローマでしか見られないものに時間を費やしたいですよね。

日本人はどこに行ってもおみやげの心配しなくてはならないのです。

システムとして素直に利用すればいいのだよ。と

 ふーこさんになだめられました。

 

 今日のディナーは  

ツアー全員での食事としては最後のものになります。 つづく





 

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