第31話
「ユウタ……好きです……大好きです……! なので……もう我慢できません……お願いします……」
頬を赤く染め、ひとみを潤ませ息を荒くし、恍惚とした表情で嘆願する金髪の少女シルビア。
窓から差し込む光はもう盛りを過ぎ、日没を暗に告げていた。
薄暗く狭い部屋に若い男女が2人。1人は貼り付けにされたまま苦悶と遺恨の表情を浮かべ、もう1人は大変満足そうにニンマリと口端を釣り上げて大の字に肢体を広げたその少女を見つめている。
「……俺も好きだ」
「だったら……!」
そう……貼り付けに……
「だったらなんだ?」
「やめてください!! 今好きって言ったじゃないですか! なんで好きな人の嫌がることをするんですか!」
「よしじゃあ、もう一ラウンドいっときますか」
「な……!」
「問答無用だ」
「やめてくだああぁあぁ!!! ぎゃあああ!! やめえええええ!! やめやめ!! やめてくださあああああああああ!!!」
俺は両手両足を丸太に貼り付けられ無防備に晒した脇腹に手を滑らせる。手の動きと連動し、悲鳴に近い絶叫をあげ身をよじるシルビア。
これ以上勘違いされるのも嫌なので最初に言っておく。
これは報復行為なのだ。決して俺はこう言う趣味があるわけではない。先に言っておこう。そう、これはれっきとした報復行為なのだ。断言する。俺にこんな趣味はない!!
――それから――
「はぁ はぁ はぁ……なんて非道な……!! こんな幼気(いたいげ)な少女を1週間拘束した挙句に事あるごとに私の未成熟なカラダをまさぐって!! この小児性愛者!! 変態! ロリコン! へたれ!!」
ダンジョン攻略から1週間、部屋に帰って俺が一番最初にした事。それはシルビアを丸太に貼り付けにする事だ。
「せっかく外してやったのに随分と元気そうじゃないか、もう一ラウンド付き合ってもいいんだが?」
シルビアがひっと短い悲鳴を上げて身構えながら後ずさった。
このゲスが、なんて言っているが気にしない。
「勘違いするなよ。報復行為だからな!」
「さぁどうでしょうね。私の体が目的じゃないと言い切れないこともないですからね」
しばらく睨みあっていると3人が帰ってきた。
「シルちゃん!! ただいま!! あれえ!! 貼り付けにされてない!」
「ただいま〜ふぅ疲れたわ。あれ、シルビア開放してもらったのね?」
「ユエル、鬱陶しいです。ええ、まぁ、そこのロリコンの気もすんだみたいですしね」
ダンジョンで大怪我をした後、ユエルがこの世界では超貴重な回復魔法持ちだったと言うこともあり、それで怪我は直してもらった。
が、当然服が再生できるはずもなく俺は完璧フルチンで街中を堂々と歩いたわけだ。
正直変な扉が開いてしまうかと思った。コイツらも服の一枚くらいかしてくれても良かったとおもう。
「今日の稼ぎはいくらでした?」
「えっと、いくらだったっけ? リンが換金したわよね?」
「今日は65万ギルドくらいだったアル」
さっきまでのごとく、部屋に着くや否やシルビアを丸太に貼り付けにしたわけだが、どうやら俺がダンジョンの最初の換金でこいつを騙したことに対するお返しでやったらしい。
「まぁまぁですね」
「まぁご飯が食べられればそれでいいのよ」
割りに合わん。騙しただけで大怪我は本当に割りに合わん。危うく死ぬところだった。
結局すぐに治してもらったからそこについては言及するつもりもないし、ここ1週間で思いつく限りの
もう察した人もいるだろうが、ユエルがこのクソ狭い空間で一緒に生活することになった。
俺はこんなとこに5人も入れるかと反対したが、ならベットを追加して二段にすればいいじゃないとイザベラが言い出したので、疲れていた俺はまともな思考ができず断る理由もなしにそれを受け入れた。
お支払いはもちろん俺のポケットマネーから。
ダンジョン最終日の換金額は約5800万ギルドだった。
メンバーが1人増えたので、あとシルビアに使い込まれたくなかったので、均等に五等分したわけだが、俺の分の1160万ギルドは大方そのベットに消えた。
こいつらが綺麗なベットに寝たいと言うから、コカトリスの羽根をふんだんに使用した貴族が使うような超高級ベットを泣く泣く買わされたわけだ。
「じゃ、もう疲れたから寝るわ、今日はあんたたちが下ね」
「えぇ! 昨日も上で寝たじゃないですか!! ユエルもなんとか言ってください」
念のためにもう1度。
イザベラが寝ようとしている高級ベットは俺が全額出してかった物だ。
「私はシルちゃんと一緒ならどこでもいいけど……」
「シルビアは働いてないから黙って言うこと聞くアル」
「ぐぬぅ……仕方ないですね……明日は私たちが上ですからね」
おかしい。購入者に選ぶ権利すらないなんて。
俺は買ってから一度もそのベットで寝ていない。ここ1週間ベットでも寝れていない。
そして今日もまた、俺は自腹を切ったのに一段目のベットにすら寝せてもらえず、床に寝ることになった。
この感情を一言で表現するなら、『ツライ』
「お前ら……!」
「嫌よ」
まだなんも言ってねぇ!!
不服だが俺は今日もまた、黙って床で睡眠をむさぼった。
翌朝。
「ま、そういうわけなので私とユエルは少し出かけますね。この変態」
「シルちゃんとデートしてまいります!」
「おい、最後の言葉はなんだ」
「なんですか? あんな事をしておいてしらを切るつもりですか」
「……誤解を招くような言い方するんじゃないよ。それ絶対外で言うなよ。お前はとんでもない事を口走りかねん」
ユエルとシルビアは孤児院に行くみたいだ。シルビアは毎年この時期に孤児院に行っているようで、ユエルはもともと夏場に行っていたようだが、今年は奇跡?の邂逅を果たしたので一緒に行くらしい。
2人がじゃ、と言い残して部屋から出ていった。
「あぁ〜ベットが気持ちぃわ〜」
「ほんとアルナァ〜、もうお金も溜まったし外に出たくないアル」
二段目から2人の声が聞こえる。俺とシルビア以外のメンバーはダンジョン後1週間は毎日討伐に出ていた。
と言うか、イザベラだけテンプレ的な俺TUEEE、もとい、私TUEEEな感じになっているのが納得いかないだが。
聞けばあの土魔法は冒険者の中にも使い手が少ない貴重な魔法らしく、魔力消費が少なく応用しやすい有能な魔法で、魔法の中でも上位に君臨している物らしい。
シルビアいわくあのダンジョンで見せた規模の土魔法を展開できるのは、かなりすごいようだ。
魔法が使えない俺からしたら全くわからんが魔法使いがすごいと言ってんだから取りあえずすごいんだろう。
そんなことは置いといてだ。
「なぁおまいら、気にならないか? あいつらが育ったところ、と言うより詳しくはあいつらみたいな化物を育てた施設」
俺は一段目の古いベットに腰を沈め、二段目で寝っ転がるイザベラとリンに問いかけた。
「別に気にならないアル、知っての通り私は世界に類を見ないほどの超天才魔剣士なのでナ! 気になるなら1人で行ってくるヨロシ」
「……なぁイザベラ、お前は気になるだろ?」
「別にどうだっていいわよ、そんなの知ったところで腹の足しになるわけでもなしに。私も魔法使えるし。あんたも見たでしょ? この天才武闘派魔法使いイザベラ様の土魔法を」
「…………。」
あぁ、1人で行ってくっかな。ヨイショ。
「じゃあ俺1人で行ってくるわ」
「「いってらっしゃーい」」
「きたくなったらいつでも大歓迎だぞ」
寝言は寝て言うネ。バカ言ってんじゃないわよ。等々の罵声が背中と心に突き刺さる。
そんなわけで、装備は燃え尽きたので冬場に買っておいた厚い洋服を来て部屋を出た。ちょっとは防御の足しになるかなと。
階段を降りて二階にある受付へと向かう途中で、測定をしてもらおうと思い、受付まで足を運んだ。
見慣れた光景。この時間は冒険者も出払っているので人は少ない。
ダンジョン三十階層の魔物を難なく倒せてたんだからおそらくランクが上がっているはずだ。
期待を胸に、いつもの美人な受付嬢さんの列に並び順番を待つ。
「次どうぞー」
「すいません、久しぶりに測定してもらえませんか?」
「あ、ユウタさんじゃないですか。ようやく外に出られたんですね……いいですよ、どうぞ水晶に御触れください」
これは人気者を見るような目じゃないぞ……これは……ゲスを見る目だ。
何があったんだ? いや、とりあえずこの受付嬢さんに別に全裸で外を歩いた事を恥じて部屋にこもってたわけではないと説明すべきか……
「……ちょっと待ってください、なんかおかしい気がするのでとりあえず弁解させてください。断じて街を裸で歩いたから引きこもったとかそう言う理由ではなく……」
言いながら水晶に触れる。
「あ……じゃああの話は本当で、シルビアさんと……(ボソ)」
ん? 今聞き捨てならぬ事を今言いました?
あからさまに周りと同じゲスを見る目になった受付嬢さんに、たまらず俺は声を荒げる。
「ちょっと待ってください。違う、違います! マジで違いますから!! 聞いてください、そんな目で見ないいでぇぇ!」
「えぇ……だって先ほどシルビアさんがここを通る際に大きな声で『あぁ、やっと性獣から解放されましたぁ、誰とは言いませんがつい1週間ほど前にダンジョンから裸で帰ってきた男に1週間も手足を拘束されて! あんなとこやこんなとこまで弄ばれて! もうお嫁に行けないです!』って言ってましたよ……?」
話が終わる頃には水晶の消えた光が、測定の終わりとともに俺の人生の終わりを告げていた。
「おぉ!? すごいですね! ランクDに昇格していますよ!! いいですね〜これで一端の冒険者って感じです! レベルも13になってスキルポイントもかなり溜まってま……すが……大丈夫ですか……?」
心配して声をかけてくれる受付嬢さんの声が遠い。
俺は今どんな顔をして立っているのだろうか。
わからない。
わからないが、一つだけ確信していることがある。
あいつは絶対殺す。
「やってくれたなあのメスガキがァァ!!」
「ヒッ! え、ちょ?! 大丈夫ですか!?」
俺はすぐさま走り出した。
「お金はあとで徴収致しますからね!!」
受付嬢さんの絶叫が背後に消えるほどの速さだ。
血の涙を流し、階段を飛び降りて、冒険者がごったがえす酒場を隙間を縫って駆け抜け、出入り口の蝶番に体当たりし、シルビアが向かった孤児院へ。
俺の歩みがあいつに届いた時、それがあいつの命の灯火が消える日だ! 絶対に許さん!!
シルビアの死へのカウントダウンが今はじまった。
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