第四期
第25話 ダンジョンゴウ!
冬が明け、街は一気に春の陽気に包まれ、街に活気が戻った。
「ダンジョンの解禁日ですよ!!! 早速いきましょう!!」
その言葉で目が覚め、そして目を擦る。
朝っぱらからテンションの高いシルビアの言葉に、なんだなんだと声をあげ。
「ダンジョンって、洞窟みたいなあれか?」
「そうです! まあ詳しいことは後にして、行きましょう!!」
シルビアは寝癖も治さぬまま満面の笑みで立ち上がり、両手で俺の手を取った。
引っ張られ勢いよく立ち上がると、そばで寝ていたイザベラが物音に気付いて起き上がり目を擦り、欠伸をしながら。
「面白そうね、私も行ってみようかしら」
「何言ってんだ、お前は強制連行に決まってるだろ」
当然だ。俺はまだコカトリスの件を根に持っている。
部屋を出た俺たちは、街の外に出る道とは逆の方を向いて軽走していた。
ダンジョンへと向かっているのだろうが、街のそとに出る様子はない。
どこへ向かっているんだと思っていれば、街の外れにある小さな洞窟で人だかりができているのが見えてきた。
「あれがダンジョンか? ダンジョンって街の近くにあるもんなんだなー。にしてもすげー人だかり、これ完全に出遅れてないか?」
「逆ですよ!! ダンジョンがあるからこの街ができたんです!! 確かに、出遅れていると言われればそうかもしれませんが、魔物は無限に沸くので問題ありません!!」
いまだに俺の手を握っているシルビアだが、興奮でそれを忘れているようだ。
長い金髪が風に揺られて宙を舞い、キラキラと斜光を乱反射する。
「あんなむさ苦しいところに入るの? 流石にちょっと抵抗あるんですけど」
イザベラが不満を浮かべているが、ほっといてダンジョン前の列に並ぶ。
「いろんな冒険者がいるんだなーここいらではみないような奴までいる」
「ここのダンジョンはかなり評判が良いのでいろんな所から人が集まってくるんですよ! 今年もいろんなところからきてますね! あ、あれ王都からの人たちですよ!! かっこいい!! いつかあのロープきてみたいと思ってたんですよね!」
「よッ!」
興奮して俺の手を掴んだまま弾んでいるシルビアの話に、相槌を打ちながら冒険者らを眺めていると、聴き慣れた声が聞こえた。
腰に細い剣を携えた特徴的な髪型にチャイナドレス………
「リンか。昨日は見かけなかったが、どこ行ってたんだ?」
「ちょっとした用事アル、ギルドに行っても居ないと思ったらやっぱりここにいたアルカ、それにしても、今年はすごいアルナ〜」
ポリポリと頬をかきながら、そして初めて見たと言わんばかりに周囲を見渡す。
「多分今年はイフリートで稼げなかったので、それでいつもは参加しない冒険者達も渋々参加しているみたいですね!! なんにせよ、楽しみです! お金が湯水のように湧いてきますよー!!」
ちょっとした用事ってのは気になるが、女の子のプライベートに突っ込むのはよろしくないな。
しばらくして、俺たちの順番が回ってきた。
シルビアと、中年のおっさんが対面する。
シルビアと、管理人みたいなのが話している声が聞こえてくるが、1人1万ギルドも払わなければならないらしい。
「なぁ、少し高くないか? ぼってんじゃないの? あのおっさんもなんか胡散臭い顔してるし」
「何言ってるネ? むしろここは安いくらいアルヨ。他は1人10万ギルト以上取られるところもアルネ」
10分の1か、確かに安い。
「でも、そんなに安いとなんか心配になるな……」
「ここはギルドが直接管理してるから安いネ。他の地域では貴族がダンジョン権持ってるから高いだけで、本当はそこまで高くする必要もないアル」
リンの話に納得しながら、戻ってきたシルビアとともにダンジョンに入って行くと、そこはまるで別世界のような空間が広がっていた。入る前に言っていた様に、中はかなり広い。
「洞窟……? か……?」
「ここが第一階層です! 早速稼ぎますよ!!」
キョロキョロしている間に、目の前で牙の生えたウサギのような魔物が生成された。濃い霧が集まって、それが具現化するような感じだ。
敵意感知にもしっかりと反応があった。そういえばコカトリスの時に発動しなかったからクソスキルだと思っていたが、どうやらコカトリスが害意を持ってなかっただけらしい。
そしてこういう場面では意外に役立つようだ。
俺も慌てて剣を取る。
「お、おい? 大丈夫だよな? 殺されたりしないよな……?」
「大丈夫ですよ! どんどんやっちゃってください!」
「お、おう、じゃ、行くぞ………」
と、シルビアから魔物に目線を戻すと、既にリンがレイピアを突き立てていた。死体がフワッと霧散し、その足元に小さい石ころが転がる。
そして、俺を見下し鼻を鳴らすリン。
「遅いアルナ、ふっ」
「ちょっと待て、まじで待て、俺たち同じパーティーの仲間だろ。つか俺もレベル上げたいからまじで待ってくんね? 頼むから」
剣を持って構えたままどうしたものかと、心から懇願する俺の横をすり抜け、イザベラがリンのところに駆け寄り足元に落ちた石ころを拾い上げる。
「何これ? なんか、不思議な感じがするんだけど?」
「これが魔石です! 魔物の核、心臓みたいなものですね、これを集めて売るんですよ!! このサイズだと100ギルドくらいですかね?」
「しょぼいわね」
イザベラはそういうと興味ないと言わんばかりにその魔石をシルビアに渡した。屈託のない笑みで、それをモゾモゾとリュックに突っ込むシルビア。
不覚だ、可愛いと感じてしまった。もちろん元ナンタラではなく、魔法使いの方に。
少し先に進んでいくと、さっきと同じようにして今度は狼っぽい魔物の群れが現れた。数は10匹。
「おい、今度は俺にやらせ……ちょっと待って、数が多い。むり。頼む」
「仕方ないアルナ、私が半分くらいやってやるから残りを頑張って倒すネ」
そういうとあっという間に、剣撃のみで半分ほど数を減らした。
……むかつくけど、頼もしい。
まだ群れの中にいる最中、何を思ったのか、魔物はほったらかして不意にこちらに振り返り、
「さあ、後は自分でやるネ」
「おおおおお!!!!! 魔石が大量です!!」
と言っていまだに魔物がいる場所に不意に突っ込んでいくシルビア。
「え……お前達、狼にガジガジされてるけど痛くねえの……?」
「ガジガジって……!! プププ」
後ろの方で特に何もしていないイザベラの声が聞こえる。
「別にこいつら程度の攻撃痛くも痒くもな……ちょっと痒い……アル」
「ちょっと痛いくらいですね!! それより魔石ですよ!!」
噛まれながら、意にも介さず夢中で魔石を集め続けるシルビア。
何がこの少女をそこまで突き動かしているのだろうか……
「えと、普通にこれ、叩き切ればいいんだよな……? でい!!!」
リンの足に噛み付いていた狼に、狙いを定め、全力で剣を振りおろす。と、
「バキンッッ!!!」
鋭い音を立てて新調した俺の新品の剣が音を立てて真っ二つに折れた。
剣先が地面にはずむ音が沈黙を満たす。
………………は?
俺の攻撃がちょっと痛かったのか、噛んでいる口を離し、俺を追ってくるうっすら血をにじませた狼。
俺は踵を返して一心不乱に逃げ回る。
「ぎゃああああああ!!!!!! 嘘だろ!? 嘘だろ!?! 助けてえええええ!! イザベラああ!!」
「あははは!!! 剣折れるとかだっさ!! 剣折れるとかだっさあああ!!! あははは!! こんなの武器なくたって勝てるわよ! おりゃ!!」
言って、イザベラがその狼に蹴りを喰らわせた。
宣言通り、ギャウッと声を上げて霧散したのを確認した後、俺はほっと息をついてついでに毒を吐く。
「………はぁ、はぁ、あの店主ぶっ殺してやる……何が刃こぼれしない一級品だ……はぁ、はぁ……刃こぼれどころか折れてんじゃねえか……!!」
そんな俺にメンバーだけでなく、他の冒険者からも白い視線が集まった。
「なさけないアルナァ、こんくらいも倒せないなんて、なんのために冒険者やってるアルカ?」
「今のはしかたないだろ!? あぁ、どうしよう。もうあのおままごとの剣しかない………」
シルビアのバックから受付嬢さんからもらったおままごと用のナイフを取り出す。
あの訓練以来一切使ってなかったが、もう仕方ない、これで戦うか……
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