第23話 悲しい過去?
「考えていませんでしたが、コカトリスの捕獲どうしましょうか」
「討伐じゃなくて捕獲なのが問題アルナ」
今日も野宿だ。テントの中で柔らかな光を発するランプを囲い、昼間仕留めたサーペントウルフを口にはこびながら真面目な表情で話している。
この様子から察するに、おそらくコカトリスはかなり危険なやつなのだろう。
「討伐なら全然問題ないんですけど、なんせあの毒をどうにかしないと近づくことさえ困難を極めますからね……」
やはり倒すより捕まえる方が難しいというのはこの世界でも道理のようで、作戦が浮かばず考えあぐねている様子の2人。
当然、なにも知らない俺とイザベラが口を挟めるわけもなく、ただ聞き耳を立てているだけだ。
名前と特徴を知ってるだけに、嫌な想像がどんどん膨らんでしまう。
俺たちと他2人とには、この時、絶対的な文化の壁ができていた。俺たちというのは、俺とイザベラだ。
2人の話に耳を傾けながらも、隣で信じられないという顔でリンとシルビアを見ているイザベラに耳打ちする。
「昼間のお前がいってたこと、今なら共感してやれるぞ」
「別にあんたの共感なんかいらないけど、まさか本当にあれを食べろっての? 流石に無理よ、せめて火くらい通さないものかしら」
「そう、だな……でも、日本でも魚は生で食べてたし、それと同じ感覚なのかも?」
「そんなわけないじゃない!!魚は魚類よ、あれはどう考えても魚じゃないわ!!!」
「確かに、そう言われればそう見えなくもない……が……」
「確信しなさいよ!!」
あいつらが作戦会議をしながら片手に摘んでいるのはナマの肉だ。昼間にリンが討伐したあのチョイグロな生物の。
流石にこれは………イザベラのいうこともわかるというもの。
日本人の感覚からして見れば、陸に住む生物の肉を生で食べるなんて考えられない。
「な、なぁ、せめて火くらい通さないものか……?流石の俺でもそんな血のしたたり落ちているような肉は食えねえ……」
意を決した俺を、無言で見つめてくる2人。
当たり前すぎて何が悪いのか判断できない時の顔だ。
「頼むから、リンの魔法で焼いてくれよ。身が色付くまで」
「なにが不満なんですか?新鮮なうちに食べられるのが冒険者の特権なのに」
「新鮮ってか、これナマだよな………」
「そうですよ?街ではナマの肉なんて食べられませんからね、最高の贅沢なんですよ」
とんでもないカルチャーショックに打ちひしがれるイザベラと俺。
それでもなんとか焼いてくれるように懇願する。
「めんどくさいアル」
「そう言わずに………!!」
「いい加減にするネ」
「頼む………!! いや、ちょっと待て、お前昨日の夜俺にゲロぶちまけたよな? その後なんのおとがめもしなかったんだ。これで恨みっこなしだろ。焼け!!」
「ぬ……!! そう言われたらなにも言い返せないアルナ………」
一応まともな思考は持っているようで、リンが魔法を使い焼いていく。
俺とイザベラが焼き上がった後の肉を頂戴する。
「………味がしねえなぁ………あったかいだけマシだが」
「せっかく新鮮なのを焼いてしまうなんて、もったいないにも程がありますよ。なんのために冒険者やってるんだか」
シルビアとリンが変なものを見るような目で俺とイザベラを見ている。
日本人が納豆を食べてるところを見て外国人が引くのと同じだろうか。
「少なくともナマの肉を食べるために冒険者やってるわけじゃないわ。とりあえず酒を飲む金を稼ぐためよ」
ちょっと待て、しかし、前半だけならイザベラのいう通りだ。
どれだけ図太くなったところで俺は絶対に得体の知れない魔物のナマの肉なんか食わんだろう。
「俺はなんのために冒険者やってんのかわからん。元々こいつのせいで冒険者になったようなものだしな。それよりリンとシルビアはどうして冒険者やってるんだ?」
イザベラが人のせいにしてんじゃないわよ!!と文句を垂れているが、俺はリンとシルビアの言葉に耳を傾ける。
「私は、仕方なくって感じですね。私は親がいないので孤児院にいました。そこでは、5歳程度になると冒険者適性を図るための試験と検査があるのですが、私は孤児院の中で3番目に魔法の適性が高かったので、そのままの流れで」
………重いな………
しかし、シルビアで3番目というのなら、その孤児院のガキは、レベルが高すぎやしなか?
シルビアは特に気にする様子もなく淡々としているが、なんと言葉をかければ良いものかと、答えあぐねていると、続いてリンが、
「私は公爵家に生またけど、18人いる中の下から3番目だったから勝手に出てきたアル」
「勝手に出てきた………!? えと、それって大丈夫なのか………?」
「別に大丈夫アル、5人目以降はほとんど他人として扱われるネ。関心ないから多分出て行ったことにも気付いてないアルヨ。親の顔も見たことないネ」
なにもないように平然と答えるリン。
これが、異世界………見たくない現実を見せつけられた気分だ。
しかし、重たい話のはずなのにそこまで気にしてる様子もない。
この世界では当たり前のことなのか?
「公爵家ってとんでもない貴族じゃないですか……!! てっきり、子爵くらいのものかと……」
シルビアが驚愕して声を上げる。
貴族の階級制度は俺の専門外だが、公爵がかなりくらいの高い貴族だということはわかる………
マズいな………俺殺されちゃうんじゃ………? 不敬罪で………チョッキン………!?
俺と、なぜかイザベラもガクガクと震えている。
どうしたものかとイザベラを尻目に見ていると、
「まぁ、母がそこのお支えの身だったということもあって、私はほとんど平民と変わんないネ」
と、しおらしい顔をして呟くリン。
ほっと胸を撫で下ろす反面、これは何か辛い過去があるのだろうなと、俺は察した。
「そうか……」
「マズいわ……魔王を育てなきゃいけないんだった!!」
「………今それいう?」
果たして、人間に害を与える気のない魔物を、人間のエゴでどうこうするべきなのだろうか………
もし、仮に、俺のいっていることは、この世界にそぐわない平和ボケした人間の考えだ!と一蹴されれば、それまでだが、それでも俺は言いたい。この目の前にいるニワトリを捕らえるなんてそんな、非道なことはやめてくれ!! と。
「コケッ?」
「かわえええええええええ!!!!!!!!!!」
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