第22話 コカトリスのところへ

「リンシアタ、完全復活アル!!」

「………また吹雪になってくんねえかな………」


 俺たちはテントをたたんだ後、昨日の肉をかじりながら銀世界をとぼとぼ歩いていた。

 昨日とは打って変わり、完全な無風だ。見渡す限りの白い世界は、まるでこの世には俺たちしかいないのかと、そう錯覚させるほどに神秘的だった。


「て言うかさ、変な夢見たんだよ。女神ユリウスってのが出てきて、俺にもっと魔王ぶれって言うんだが、その女神がとんでもない格好でな。イザベラおまえ知ってるだろ?」

「知ってるわよ、あの淫乱女神ね」

「確かにまぁ……そう言えなくもないような格好だったが……」

「めんどくさいわねぇ、女神ってのは大体自分たちが偉いと思いすぎなのよ。面倒なことがあれば全部魔神である私たちに押し付けてきて。しかも、この契約だって自分たちへの信仰を集めるために無理やり結ばされたようなものよ」

「お前達も大変だな……今の俺みたいに」

「何かしら? 言いたいことがあるなら聞くわよ?」


 俺はその女神の金稼ぎならぬ信仰稼ぎなんかに付き合わされてるってわけか。

 しかし、合点がいった。俺を魔王に仕立て上げ、世界を恐怖に陥れた頃に、あの勇者に「神を信じよ!!」とかなんとか言わせて信仰が高まった頃合いに俺を殺せば、確かに神を信じる人間は増えるだろうしな。


「信仰……ねぇ。イザベラとリンは神とか信じてるのか?」

「存在は認めますが、私が唯一信仰している神は、私自身です」

「神が何かしてくれるアルカ? 愚問ネ、神なんかいないアル」


 無音の銀世界に、雪の軋む音と、2人の声色はよく響く。


「……自分を信じれるのはいいことだぞ。まぁ……そうだよな、俺も実際神だのなんだのは信じてなかったし」


 しかし、最後の言葉はなんだったんだ?

 人からもらった物は大切にしろって。もしかして、これから何かもらえるフラグか?

 もらえるに越したことはないが、くれるなら早くくれよ。スキルでもチートでも武器でもなんでもいいからさ。


「あ、サーペントウルフがいるアル」

「サーペントウルフ?」


 唐突な呟きに、あたりを見渡すがどこにもそれらしき物はいない。

 そんな俺を少し小馬鹿にしたようにシルビアが、


「探しても見つかりませんよ、今の時期は冬眠しているので」


 ウルフって名前ついてんのに冬眠すんのか……そこはウルフの毛皮いかした方がいいんじゃないのか……?

 と、素人ながら思っていると、リンが剣を抜き、50メートルほど走った後、飛び上がり、


「『バーニングフィールド』ッッ!!」


 と、ゆらめく炎を纏わせたレイピアを、雪原に突き刺した。

 中心から半径5メートルほどの雪が一気に気化し、リンがそのクレーターの中に飲み込まれる。

 リンの突然の行動に呆気にとられていると、俺を見たシルビアが気を利かせて説明をくれた。


「サーペントウルフは冬場、雪の中で冬眠するんですよ。体が蛇で、顔がウルフのランクEの魔物です。討伐報酬はそこまで高くないですが、肉が美味しいのと、群れで行動するため比較的簡単に数を稼げることから、冬場の人気魔物です。でも、普通はあんなやり方せずに雪を掘り返すんですけどね」

「そうなのか……変温動物と恒温動物の組み合わせは普通に相性悪いと思うが……よくそれで絶滅しないな……。それより大丈夫なのか? あんだけ派手にやったら、起きて襲われたりとか……」


「大丈夫ですよ。冬眠中のサーペントウルフはなにをしても起きないことで有名ですから」


 大丈夫だろうと思う反面少し心配になりながら、穴に近づいていくと、確かに、冬眠しているのか死んでいるのかわからないが、10メートル下のリンのそばに横たわっている、2メートルほどの魔物が複数あった。


 あれがサーペントウルフ……珍妙な生物だな。狼は狼に、蛇は蛇にわけた方が絶対強いと思うのは俺だけか……?


「6匹ですか、今回はそんな多くないですね」

「確かに少ないアルナ、でも、4人で食べるならこれくらいで充分ネ」


 2人が冒険者らしい会話をしている隣で、拒絶を前面に押し出している元魔神がいた。


「はああああ!? まさかあれを食べるつもり!? いやよ!!! どんな拷問よ!? なに考えてんの!? まだ昨日かじってた味のない肉の方がマシだわ!!」


 確かに俺もちょっとは抵抗あるけども……。

 さっきからイザベラが静かだったが、口を開けばこれだもんな……まぁ、2人も呆れ半分で見てるし、喧嘩にならなくてよかった………


「ああ!!ちょっと待ってくれ!俺にそいつらを倒させてくれ!レベル上げたい!!」

「もう死んでるのにですか?」

「……え?」

「サーペントウルフは掘り起こされると勝手に死ぬんですよ」


 なんだそれ……

 人間の身ながら、冬眠するのをやめなよと、そう言いたくなる。


 サーペントウルフをマジックバックにねじ込み、先へと急いだ。


 実は心配になり、マジックバックにナマモノを入れて大丈夫なのかと聞いてみたが、なにいってんだこいつ? と言う顔をされたので多分魔法的な何かで大丈夫なんだろう。


「今日はこの辺でテント立てましょうかね」


 まだ日は暮れていないが、この先に手ごろな木がないと言うことなので、シルビアが木の下に入りテントを立て始めた。それを昨日のようにそばで見ていると、イザベラが大袈裟なほど大きなため息をはいた。


 まさか2度も野宿する羽目になるとは……寒いので汗はかかないが、気分的に風呂に入りたい。


 横目でチラッとリンの方を向くと、サーペントウルフを並べてなにやら剣を握っている。

 興味を抱き、リンに話しかける。


「なにしてるんだ?」

「サーペントウルフを加工するネ」

「へぇ、テントはたてれないのに加工はできるのか」


 俺の言葉に一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐに魔物に向き直った。


「見るネ、美味そうアル。これを食べると経験値が貰えるアルヨ」

「本当か!?どれ!?」

「目ん玉アル」


 リンがサーペントウルフの目に指を突っ込み、目ん玉をほじくり出した。

 それを俺に、ほいっと差し出す。


「………流石にこれは食えねえわ」


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