第21話 神界にて

 あれ……ここは……

 え?!体がすけてる!?


「ようやく気づいたようですね。ユウタさん。私は女神ユリウスです」


 ………デジャブか?


 俺は気づくと転生前にイザベラとあった神界っぽいとこにいた。

 あの時と同じように、向かいあって座っている。

 自称しているが、それを聞かずとも目の前にいるのが、まぎれもない女神であることは容易に分かった。

 神々しい白い装束に腰まで伸びた金髪、これまた整った顔立ちの女性だ。推定Fはあろうかと言う巨乳に、色白の細い肢体。そして琴を奏でたような心地いい声が鼓膜を叩く。


「……ちょっと待ってください。あなたが女神だと言うことは理解しますが、もしかして、俺って………リンシアタのゲロで死んだんですか……?」


 俺はふとあの時の言葉を思い出した、あの時の酒場での言葉を。

『私をあんな変態と一緒にしないでくれるかしら!!』

 確かに、この女神の姿を見れば合点がいく。あの時はサキュバスの方に反応したのだろうと思っていたが、どうやら違ったようだ。


 ………際どい……!!際どすぎる!!


 もうほとんど隠れてない!極小ビキニの方がまだ健全な気さえする!


 愛想よく笑う女神を俺は真剣な顔つきで視姦すr………違う。見つめているだけだ。


「大丈夫ですよ、安心してください。あなたは死んではいません」


 その言葉を聞いてほっとした。あんなので死んでたまるかよ。

 でも、だったらなんでこんなところにいるんだ?俺なんかしたか?


 女神が俺の気持ちを見透かすような顔で見ている。


「なにかしたか?ですか」


 その言葉は少し怒りを孕んでいた。


 まさかガチで見透かされてる………?


「えぇ、まぁ」


 愛想よく笑っているがなんだか怖い。

 マジかよ。まさかあれも聞かれてはいないだろうな……?


「いえ、バッチリ最初から聞こえていましたよ。女神は心の声が聞こえますので」


 嘘………


「でも、私は口で話す方が好きです。口をきいてくださらないでしょうか?」


 一瞬の間を置いた後、俺は口を動かすと同時に、流れるような所作で床にデコを擦り付けた。

「すいません。悪気はなかったのでどうか見逃してください………!!!!」

「や、やめてください、そういうことはしなくて大丈夫です。今回は話があってここに呼んだのです」


 慌てて女神が俺に手を向ける。


 手は借りずに自ら体を起こして席に座り直した。


「俺何かしましたか……?呼ばれるようなこと……」

「それを説明する前に、ユウタさん。あなたは自分がこの世界に送られた意味を覚えていらっしゃるでしょうか?」

「はい………??」


 なんかあったか?


「ええ、ありましたよ。あなたには大切な役割が」

「………あ」


 異世界に降り立ってから、それどころじゃなくて忘れていたが、そういえば魔王になれなんて言われてたんだった。


「思い出したようですね、あなたは何かをしたから呼び出されたわけではありません。何もしてないから呼び出されたのです」


 いやいや、待ってくれよ。その言い方はちょっと腑に落ちない。


「何もしてないのではないんです、できないのです!」


 キッパリと言い切った俺と、間の抜けた表情の女神ユリウスがいる白い空間を、沈黙が満たす。


 心なしか、少し寒い。思いっきり滑ったが、そんなのを今気にしている場合ではないことは確かだ。


 部屋中に憤怒の霧を漂わせ、プルプルと震えている女神。


「すいません………マジすいません。でも聞いてください、本当になんもできないんですよ!! これで魔王らしくしろと言われても、そんなの、ただのごっこ遊びですよ!?」


「………そうでしたね。担当はあのイザベラでしたものね………」


 女神は苦笑して見せた。女神と魔神はつながっているらしい。敵対しているイメージだったがそんなことはないみたいだ。

 最後の言葉にもそれほど負の感情が含まれているようには聞こえない。


 怒りを買わなくて良かったけど、どちらかと言うと………呆れだなこれ……


「魔王らしくしてもらわないとこちらも困るんですよ。それでは時間のようです、あなたの意識が覚醒します。伝えられることは少なかったですが、これからは魔王としての振る舞いをしてくださることを心より……あ、それと、人からもらったものはしてくださいね」


 その言葉が終わる前に、視界がぼやけはじめた。


「ちょっと待ってくださ………!!!」


 最後まで言い切ることは叶わず、言葉の途中で意識が途切れ、目を覚ますと口の中に強烈な酸味を感じた。

 驚いて勢いで飲み込んでしまう。


「すっぱ………!!」

「起きたアルカ?」


 ピントが合うと、気を失う前の、あの光景。表情は違うが、リンが乗っかっていた。


「おまえ、なに平然として………」

「昨日の夜はすまなかったネ」


 しおらしい顔をするリンに、それ以上の追求は必要ないと判断せざるおえない。

 なんだよ、可愛い顔しやがって……


「あ、あぁ、別に大丈夫だ」

「……ありがとうネ」


 ちょっと待て、なんなんだこれ。この胸の高鳴りは!!!


 そんないい感じの雰囲気を、ぶち壊すかのごとく、突然、品のない笑い声が聞こえた。


「ぷははははは!!!!リンシアタのゲロ全部飲むなんてあんたそんな趣味があったのね!!はははは!!!たまんないわ!!」

「ユウタ、流石に引きますよ………」


 リンから目線を外し、周りを見渡すとイザベラが笑い転げて、シルビアが嫌悪感丸出しで俺の方を見ていた。

 一瞬でその淡い雰囲気が消え去り、いつもの調子に戻る。


「待てよ、流石にこれは不可抗力だろ!?俺にそんな上級者向けの趣味ねえから!!引くな!!!つかおまえ重いから早く降りろ!!!」

「乙女に重いとか言うなんて……」


 あ………やばい………この雰囲気………地雷踏んだ………


「……ちょっと待て、頼む、とりあえずその右手に持ってるレイピアを離してくれ。おい、いや違う。おまえが太ってるとかそう言う意味じゃ何くてだな………」


「言い訳はあの世でするヨロシ。シネ!!!!!!!」


「あああああああああああ!!!!!!!!」

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