第19話 討伐に行こう

「お前まじで覚えとけよ……!!!」

「逆恨みもいいところアルナァァ!!! 騙される方が悪いネ!!!!」


 顔はいいのに最悪だな………自分の長所を全部打ち消してやがる。


 俺たちは揉めながら一階の酒場まで戻ってきた。

 受付嬢さんいわく、一度得たスキルはもう取り消せないらしい。

 スキルはレベル制で、レベル上限はないようだ。スキルポイントがたまるスピードは人によって違うらしく、俺はかなり遅いタイプなんだとか。

 しかも、5ポイントあれば、ウィンドスラッシュや、パワーストライクなどのカッコよさげな剣のスキルを覚えられたらしい。


 俺の超貴重なスキルポイントを……!!

 リンシアタマジ許すまじ……!!


 俺はそう思いながらリンシアタと別れて掲示板へと向かった。


 たく、人ごとだと思いやがって……レベル上げて、今度は自分でスキルを決めてやるわ。

 張り紙を見てふと思ったが、誰が依頼してんだろう?命が危ないから、とかの理由か?


 掲示板に貼られた紙に目を通していく。冬場は人が少ないからか、掲示板に貼ってある依頼も少ない。


『ランクC コカトリス捕獲』

『ランクA スレイプニル討伐』

『ランクB スフィンクス捕獲』

『ランクD スケルトン討伐』

『ランクA スキュラ討伐』

『ランクA ジャバウォック討伐』

『ランクC ジャック・オ・フロスト駆除』

『ランクC コボルト駆除』

『ランクE ゴブリン捕獲』

『ランクS セントール捕獲』

『ランクS ケルベロス捕獲』

『ランクA グリフォン捕獲』


 ふむふむ、いろいろあるな。

 しかし、この街に駆け出しがいないと言うこともあってか、貼られているランクが基本的に高い。駆除に、討伐に、捕獲か、捕獲が結構多いな。どれもたいがいランクC以上……しかも、単価がすげぇ……。コカトリス一体でも20万ギルドか。

 でも、コカトリスってあれだよな、ニワトリっぽくて、視線を合わせれば石化し、その毒性は近づいた生き物を全て殺し、歩いた後は草も生えないと言われるあの………


「うん、絶対無理やめとこ」


 他のランクCは10万くらいか、やっぱ危険だから報酬もそれだけ上がるんだろう。


 募集の中で一つ、俺の興味を強烈に引きつけるものがあった。


『ランクC リャナンシー生贄』


 なんて物騒な……だが、ランクCで120万ギルド!?単価がめちゃくちゃ高い!!他のランクC報酬の10倍じゃないか!?

 しかも、リャナンシーって、可愛くて健気な、いい感じの妖精だよな。求愛を受け入れたら徐々に血とか精気を吸ってくるっていう。


 ……悪くない!!!全くもって悪くない!!可愛い妖精に血を吸われながら余生を過ごすのも悪くないのでは!?

 こんなトンデモパーティー出てって聖域で、可愛い妖精と余生を……


「なに醜悪な顔晒して掲示板眺めてるのよ?モンスターと戦うかっこいい自分でも想像してんのかしら?」

「!?」


 慌てて振り返ると、露出のない格好でイザベラが腕を組んで立っていた。


「いつからそこに!?」

「なんか呟いてる時かしら?こんなクソ寒い時にクエスト受けようっての?流石に頭のネジ飛んでるわよ」

「いやまて、少しくらい歯に衣着せろ。つか、そう言わずにみろよ、ランクCで120万ギルドだぞ?これは受けるしかなくないか?それに、レベルを上げてスキルを覚えたい」


 話していると他2人もやって来た。


「なにをはなしてるんで………ゲッ!!まさかクエスト受けようとか思ってませんよね?いやですよ?」

「プ、スキルがクソ雑魚だからって自暴自棄になったアルカ?」


 シルビアの反応はわかるとして………

「ちょっとは反省しやがれクソチャイナ」


 俺がクエストを受けようと思った経緯を説明する。


「ふーん、それでですか。でもですね、死にますよ」

「人間いつか死ぬんだ。可愛い妖精と余生を過ごせるなら本望じゃないか」

「なに言ってるアルカ」


 リンシアタが目を丸くし、シルビアが深いため息をつく。


「ランク見えてます?CですよC。ユウタはいまだにランクF、あげくにまだ最弱のランクGゴブリンしか倒してませんよね?たどり着く前に死ぬと言ってるんですよ」


 ……耳が痛い。


「ん、確かにそうだが。でも、魔剣士チャイナも脳筋イザベラも、ランクCの魔法使いのお前もいるんだし大丈夫じゃないのか……?」

「まぁ、確かにそうですが………いいですよ。ついていってあげますよ」

「仕方ないから私もついていってあげるネ」


 軽口を叩くリンシアタを俺がものいいたげな顔で見る。


「なんネ、文句でもあるカ?」

「逆にないと思ってるお前の思考回路がすげーよ」


 しばらく無言で睨み合う。

 黙ってれば本当に可愛いんだけどな……なんて思うが、やっぱりスキルポイントを潰されたのは許せない。


 て、あれ?イザベラがいねえ。


「つかまって、イザベラどこ行った?」

「さっき紙を持って受付に行きましたけど?」


 俺はハッとして掲示板を見る。

 嫌な予感が………

 ない!ない!!ないないない!!!なぁぁぁぁあああぁぁぁい!!!!


 掲示板に貼ってあったコカトリスの紙が消えている。

 どう言うわけだ!? 

 なんでよりによってコカトリスなんだ!?

 なにを考えているか知らないがあれだけは絶対にいくわけにはいかない………!!


「イザベラァァァアアア!!!!!!」


 俺は急ぎ足で二階の受付へと向かった。だが、時すでに遅し。


「あぁ、あんたにちょうどいいの見つけたから、先に受注しといてあげたわ。さ!!いくわよ!!!」

「お、お前……なんでだよ……なんでよりにもよってコカトリスなんだよ!俺に丁度いいってなに!?俺ランクFだぞ!?」


 俺はすでに受付嬢さんに紙を渡していたイザベラを見て、膝から崩れ落ちた。

 ダメだ………これ………棄権できる感じじゃない………

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