第三期

第18話 スキルポイントが消えた。

 極冬真っ只中、俺は唐突に思った。

 スキルが使いたい。

 と。


「スキルですか?レベルを上げればスキルポイントも溜まって、好きなものを習得できると思いますよ。クラスによって習得できるものは変わったり、習得しやすくなったりしますが」


 シルビアが唐揚げを頬張りながら答える。


 俺たち4人は特になにもすることなく酒場でオーク肉の唐揚げをつつきながらたむろっていた。

 他の冒険者たちもちらほらと見えるが、全員ボフボフにつつまれており、いかつさのかけらもない、これは………あざらしだな。

 建物内は外と比べれば暖かいため、入ってきた冒険者たちは2、3枚ほど服を脱いでいる。


 つか、待って、そんなシステムあったの?


 なんとここにきて新事実。この世界にもレベルという概念があるらしい。

 俺は唐揚げに手を伸ばしながらその話に食いつく。


「詳しく聞かせてくれ」

 一応そういうものに関しての知識はあるが、一応ね………ん、ちょっと待って、狙いをつけた肉がどんどん消えていくんだが。


「詳しくって言われても、魔物を倒すと経験値というものを貰えてそれがどんどん蓄積していくってだけですよ。レベルはステータスとは関係ありませんが、上げればいろいろ恩恵を受けることができます。その一つがスキルです。スキルは魔法のように幼少期からの訓練を必要としません。多少慣れの問題はあると思いますが、基本的に習得すればすぐ使えますよ。ちなみに私は今レベル12です」


 なるほど、レベルを上げれば俺もスキルが使えるようになるというわけか。いい事を知った。

 イザベラが興味なさげに唐揚げを頬張っている隣で、いつものように銀髪を団子にしたリンシアタが、肉を口にふくみ、頬を膨らませてこっちを見ている。


「……むふむふ私は18ネ」

「ほんなほとよひなにもふることなひふぁらひまだわ」


 食べきってから喋れよ………

 イザベラはおそらく「そんなことよりなにもすることなくてひまだわ」と言っている。


「そんなこととはなんだ、魔法使えない俺からしたら死活問題だぞ。どうやったらその、レベルって見れるんだ?」

「気になるなら受付で確認してきてはどうです?」

「え、冒険者カードとかで見れたりしないのか?貰ってないけど」


 何度も唐揚げ奪取を試みるが、ことごとく奪われる。


「冒険者カードですか、ありはしますが、一枚100万ギルドしますので持っているのはランクB以上の上級冒険者と、あとは信頼が重要になる商人や、ギルド職員だけです。ランクCでも持っている人はいるにはいるんですが、私は持ってません。別に確認なんかはギルドに足を運べばできますしね」


 一枚100万ギルド………なんつう高値で売ってんだ。

 そう思いながら最後の唐揚げに手を伸ばすと、スッと黒い影が走ったかと思えば、唐揚げが消えていた。

 犯人探してしきりに見渡す俺を「能ある鷹は爪を隠すネ」と言わんばかりの表情で、レイピアの先に唐揚げを刺したリンシアタが見ている。


「そ、そうか、ま確かにそうだな………っておい!!!一個くらい食わせろよ!!つかお前それ500万以上するレイピアなんだろ!?そんな粗末な扱いしてんじゃねえ!」

「負け犬の遠吠えアルカ?みっともないアル、そんなの宝の持ち腐れネ」

「いやいや、もっと真っ当な本来の方法で使ってやれよ………」


 なんなんだこの認識の格差は……。


 席を立ち上がり俺は1人受付へとむかった。


「レベルを確認したいんですが……あ、お金もってます」

「最近よく稼いでましたもんね! あぁ、それでしたら、こちらの水晶にお触れ下さい。それより防寒服似合ってますね!」


 満更でもない。受付嬢さんのもふもふの帽子に目を奪われながら水晶に触れた。いつ見ても女神様だ……


「………」

「……え?ちょっと……?黙られると怖いんですけど?」

「レベル2ですね……あ、後、火属性と氷属性の耐性が以上に高くなってます……」


 ん、なんという事でしょう。ここにきて4ヶ月経とうとしているのにレベル2!?


 耐性の方はあれから2週間、戦闘終了後に火球や氷塊が飛んできてたからだろう。「魔剣を使うと漏れ出た魔力がパーティーで一番弱い人のところに向かうネ」というふざけた欠点のせいで。


「普通だとどれくらいなんですか……?」

「そうですね、同じ時期に冒険者登録されたランクSの方は既に20はいってるかと」

「あぁ、あいつ………いいんですよあいつは。それよりスキルとかって覚えられますかね?」

「あぁ、もしかしてスキルを覚えたくてレベルを?でしたら、少々お待ちください」


 受付嬢さんが裏から巨大な本を取り出してきた。


「この中から選ぶといいですよ、今スキルポイントが5溜まってる状態なので、基本スキルは覚えられるかと」

「で、デケェ……」


 軽く20キロはありそうな重厚な本を開き中身を吟味する。


 んー、スキル選びってなにを基準にしたらいいのかわからん。やっぱあいつらと相性の良いものにしておいた方がいいよな。


 膨大な量のスキルに迷っていると後ろから声がかかった。


「スキル選んでるアルカ?」

「ああ、どれにしようか迷っててな」

「なら、一番無難な『敵意感知』にするネ」


 敵意感知、なんとなくわかるが、レーダーとかそんな感じのやつなのか?戦闘に使えるスキルも欲しかったが、まぁ、あって困ることもないだろうし、無難にそれにしておこうかな。


「じゃあ、それでお願いします。」

「では1000ギルドいただきますね。そのまま水晶から手を離さない様にお願いします」


 離さずにいると水晶が淡く光り、すぐにおさまった。


 ……あれ……変化がない……?


「以上です」

「ちょっと待って?変化がないんですけど?」


 困惑していると受付嬢さんより先にリンシアタが口を開いた。


「『敵意探知』は敵意のある奴が範囲内に入ったらそれをしらせてくれるスキルネ、なにもなければ発動しないアル」

「へぇ、てことは、今は敵意のある奴がいないってことか?範囲ってどのくらいなんだ?」

「スキルレベル1なら半径3メートルアル、私は半径100メートルネ」


 ………………。


「……ちょっと待て、俺これとる意味あったか?」


 俺が後ろを振り返るとリンシアタが無言で小悪魔の様な表情を浮かべていた。


 刹那………俺は察した。あ、これ、騙されたわ、と。


「きさまあああああああ!!!!!!!はめやがったなああああああ!!!!!!!!!!!くそがあああああ!!!!!」

「わはははははは!!!!人の不幸は蜜の味アルネェェ!!これから頑張ってレベルあげるヨロシ!わあああははっははは!!!!」

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