第17話 部屋が狭すぎる
「はぁぁああああああ………」
「はぁぁあああああ………」
イフリート消滅後、駛走したシルビアとリンシアタと合流し、酒場で机を囲っていた。
シルビアとリンシアタがあからさまに落胆して机に伏している。
あれだけビビっていたイザベラはもうケロッとしている。
「なんでそんなに落ち込んでいるのかしら?」
「見てましたよね。イフリートが目の前で灰になるとこ。あのイベントは年に一回の大イベントだったんですよ、あの体毛はかなりいい値で売れますし、討伐に参加すれば参加報酬でギルドから30万ギルドもらえる予定だったのに……!!」
シルビアが言っている通りイフリート討伐は参加するだけで30万ギルドももらえると言う超おいしい案件だったのだ。その体毛は保温性がものすごく高く、これからの時期かなり需要が高まるということでシルビアも言っている通り高く売れるのだが、もはや、灰と化したイフリートから取れるはずも無い。
冒険者らが参加報酬をもらえなかった代わりにあの勇者が1億2000万ギルドを1人で受け取ったそうだ。
ちなみに普通のランクSの冒険者なら、1度の遠征でその倍は稼ぐのだとか。
別に俺たちは金が必要なわけではないのだが、冒険者からすると稼げるときに稼いどくと言うのが当然ようで、どうしても落胆の色を隠せないシルビアとリンシアタ。
しかしな。
ため息をつきたいのは俺の方だ………
つかなんで魔王が必要なんだ?魔王がいなけりゃ勇者もいらなくね?普通に強い冒険者ってことでダメなのか?
そもそも魔王の定義ってなんなんだ?
俺には人間を殺したいとか、憎いとか、負の感情はないし、虐殺を楽しむような趣味もない………何より………
できれば死にたくない。
やめだやめだ、考えるのはやめにしよう。死について考えると気分が落ち込む。
「だあああああ!!! ほら! お前らも元気だせよ!! ため息ばっか吐いてっと気分が落ち込んで負の連鎖になるだろ? 感情ってのは他の誰かに伝わっていくもんだ。お前たちが笑えば、その場にいるみんなの気分が上がる。それにお金に関しては不自由ないほど充分な量たまってんだし、冬場も討伐に行けるんだろ? だったらそんなに落ち込む必要はないんじゃないか? いいから笑え!! 俺まで気分が落ち込むだろ」
決まったな、とすかした顔をしている俺を、目を細めてシルビアとリンシアタが睨み付けていた。イザベラはなんかわからんが腹たつ表情をしている………。
「あんたにしてはいいこと言うじゃない?アニメか漫画かラノベか、どの言葉のパクリ?」
「ユウタ、くさい」
「くさいアル。慣れないことはするなヨロシ」
………え?こんな言われようある………?
予想外の反応に打ちひしがれる俺を気にもとめず、何事もなかったかの様に、マスターに飲み物を注文し始めた。
俺も震える声で涙を堪えながらマスターに注文する。
「………ちょっと待って、俺も強めの酒を一杯………」
衝動的に酒を注文した俺だったが、次の日、想像絶する苦痛が待ち受けていることを、まだ知る由もなかった。
*********************
「きいてくれ、俺は今、とんでもないことに気づいた」
あれからしばらくして、ここサンストンは冬真っ只中にあった。
街は一面雪景色、俺たちも服を重ね着し、全員丸くなっていた。
4人で小さな部屋に座り込んで、俺が話を切り出す。
3人が耳を傾ける。
「なによ?そんなに勿体ぶって、しょうもないことだったらあんた1人でゴブリン討伐に行かせるわよ」
「待てよおいまて、まぁとりあえず一旦聞けよ」
懐疑的な目で俺を見てくるイザベラを尻目に慎重な顔をして話す。
「ここ」
絶妙なタメに3人がゴクリと息を飲む。
「俺たちの家じゃない」
部屋を沈黙が支配する。そして、
「………プププ、ぶはははは!!!………はぁ、じゃ、服ぬいでいってらっしゃい、100体狩るまで帰ってくるんじゃないわよ」
「なにを言ってるんですかユウタ、ここは私たちの拠点ですよ」
「そうアルヨ。ここは最初から私たちの拠点ネ。なに寝ぼけたこといってるアルカ?バカも休み休みいうネ」
そう言って3人は興味が失せたと言わんばかりに寝っ転がり始めた。
冬に突入してから、一度だけ外に出たことがあるが、もうそれ以降はほとんどこのギルド内から出ていない。
「違う、いや待ってくれ、聞いてくれよ最後まで。ここは俺とイザベラがこの世界に来たときにどうしようもなく無理言って貸してもらっている部屋なんだよ」
寝っ転がり始めていた3人が体を起こす。
イザベラが思い出したようにハッとする。
「あ、そういえばそうだったわね? だったらどうしたの? ただで借りられてるんだからそれにこしたことはないわ。まさか金払うなんて言わないわよね?
「……どこの世界の理だよ」
そんなもの聞いたことがない………
「違うんだ、俺が言いたいのはそうじゃなくて、なんか知らんがリンシアタも一緒に生活するようになって、さすがに窮屈になっただろ? 4人で寝るには結構狭いし、そろそろ俺も床を卒業してベットで寝たい。そんなわけで、引越しをしたいなと思ってるんだが」
真剣な俺とは対照的に、小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべるシルビアとリンシアタ。
イザベラは俺の話などもはや聞いていない。
「この時期にですか?この時期はやめておいた方がいいかと」
「この時期にそんなことするなんてバカの所業アルナ。ベットくらい買えばいいネ、わざわざ引っ越す必要性を感じられないアル」
なんでだ………?寒いから討伐にも行かないし、何より暇だし、引っ越しするなら今しかないと思っていたんだが………
そんな俺を見てシルビアが説明を加える。が、
「寒いので外に出たくありません」
説明という説明ではなかった。
「でも、やはりベットが欲しい」
俺の言葉にイザベラがニヤニヤと悪いお代官のような顔を浮かべる。
俺は察した。
まずい………あらぬ誤解を受けている。
「ふーん?童貞がねぇ、ププ」
「いや待て、違う、違うから、そういう意味じゃないから!!!おい!!メスガキとチャイナ!!!身構えるなあああああ!!!!」
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