第15話 チャイナ面接
窓からの日差しで目を覚ますと腹の上にシルビアが乗っかっていた。その隣ではイザベラが半目で寝ている。
一応ハーレムっぽいのにな………なんか違う。
「おいおきろ。そろそろ昨日のチャイナの面接の時間だぞ」
「……ん、は!?私また……!!」
「うん、まただな。そんな寝相悪かったら野宿できねーぞ」
「わ、わかってますよ………」
シルビアが俺の上からどいた後、俺は体を起き上がらせて半目で寝ているイザベラを起こす。
「イザベラ、起きろ。行くぞ」
「………え?どこによ?」
まじか……
イザベラが体を起こす。俺は慎重な顔でイザベラに、
「お前………もしかして昨日のこと覚えてない……?」
「覚えてるわよ?オーク倒した後ご飯食べたんでしょ?ププ。いくら酒飲んだって私は魔神よ?酒に負けるわけがないわ」
イザベラが馬鹿にしたような絶妙にうざい顔で俺を笑う。
「じゃあ、昨日一緒にご飯食べた人は誰だ?」
「これは……!? ははーん? ひっかけだわ、あれね、正解は、誰もいない、でしょ?なに考えてるか知らないけど、私がそんなひっかけに引っかかるとでも? ププ」
「俺を馬鹿にしているとこ悪いが、いるからな? とりあえず準備しろ」
馬鹿にして笑っていたシルビアが急に真顔で見つめてくる。
「……いや、ガチだって……」
********************
「さぁ、リンシアタ!!私にあなたの力を見せてみなさい!!」
「わかったネ!」
俺とシルビアとイザベラの3人は、チャイナの入団試験をするために森へときていた。
完全に忘れていたイザベラだったが、酒場で合流し、顔を見たら思い出したようだ。
もうイザベラが入っていいと言っているからほとんど決まったようなものだが………一応。
来る途中でいろいろ聞いたが、チャイナの名前はリンシアタと言うらしい。ランクDの魔剣士だそうだ。
そして、やはり貴族出身らしい。
まずい……シルビアの予想がこうも見事に的中するなんて。
俺は先ほどから不安に思う反面、魔剣士がどんな戦い方をするのかに期待を膨らませていた。
俺とイザベラとシルビアの3人は少し離れてリンシアタがオークの群れと向かい合っているところを見守っている。
「いくネ!」
そう言って、リンシアタが腰につけていた500万ギルドはくだらないと言うレイピアを引き抜き、氷の結晶が細身の刀身を覆い、またその上からゆらりと炎が覆う。
あまりの美しさに目を奪われ、息を呑んだ。
え、かっこいい………なにあれ、かっこいい!!
「すげぇ……決めた、俺もあれがいい!!」
俺は無意識に呟いた言葉に、隣で2人が一瞬タメを置いた後、爆笑する。
「わははははは!!!無理に決まってるじゃないですか!!!現実を見てください現実を!!あ、無理やばい笑いすぎて腹筋割れそう!ゴブリンの一匹も倒せないのにあれがいいって!!わははは!!!」
「ぶははははは!!!あんたがあれすんの?ははは!!傑作だわ!なんと言う身の程知らず!なんと言う世間知らず!!突飛すぎてあんなの全然想像つかないんだけど!!はははっははは」
「………あれ……俺って、今、ものすごく馬鹿にされてる………?」
「「………ッッ!!ッッ……!!」」
その言葉で隣にいた2人が膝から崩れ落ちた。
もしかして、魔法が発動しちゃった………?俺の隠れスキル………?
なんつって、そんなわけない。ただ笑い転げているだけだ。
もう声も出ないと言った様子で地面にうずくまっている2人を見て、俺はなんだかものすごく日本に帰りたくなった………
ひとしきり笑った後、イザベラが涙を浮かべて地面に伏したまま俺を見上げる。
「はぁ……ププ。だ、大丈夫よ、いつかあんたもリンシアタみたいに魔剣を扱えるようになるわ!ププそうね、きっと10年後くらいには今の私くらいにはなってるかもね!!」
「……待てるかそんなもん!!」
シルビアが落ち着きを取り戻し立ち上がる。
「リンシアタ、すごいですね、前衛なのにほぼ対極の二属性を操れるなんて、しかも魔法の方はかなりの練度ですよあれ、ランクCでもおかしくないレベルです。なんでランクDなんでしょうか?」
おいおい………不安を煽るようなこと言うなよ……。
そう言っているシルビアが見つめる先には、あの美しいレイピアを片手に、舞うようにオークの群れを蹂躙していくリンシアタがいた。
同時に対極の属性を使っているのではなく、場面によってコロコロ纏わせる属性を変えているように見える。
「綺麗だな、でも、あんなに動き回るよりもう少し黙って大人しく戦った方が楽じゃね……? いや、確かに派手でかっこいいけどさ」
「あんたど素人のくせにプロの戦い方に口出しするわけ? ププ。飛んだ勘違いやろうね!! あんたもゴブリンの一匹や十匹狩ってからいいなさいよ!プププ」
さっきのを引きずっているのか、いまだに笑い堪えている。
確かに。むかつくが正論だ………。
「前衛の戦い方は知りませんが、特に魔剣士なんかは普通の剣士の体力とは比べものにならないほどのスタミナを持っているので、気にしなくて大丈夫かと思いますよ」
「そうなのか、にしてもすごいな、イザベラが剛ならリンシアタは流って感じか、2人の前衛がいたら正直怖いものなしじゃね?魔法が効きずらかったらイザベラがタコ殴りにして、物理に強かったらリンシアタがあれで攻撃すれば完璧じゃん」
俺の言葉に不満を覚えたのか、イザベラが口を挟む。
「私一応魔法使えるんだけど」
……………。
「………は? まじ!? 魔法使えるてまじ!? 先に教えろよ!! つーか、なんで通常ならサブキャラのお前が異世界から転生してきた主人公的存在の俺より着実に強くなっちゃってるわけ!?どう考えても俺が先じゃないか?!」
「鬱陶しいわね!! あんたも使えるんじゃない?私はみてたらなんとなく使えたけど」
………俺もいけるか………?
………………。
「……できねえ。」
「ぷはっ。ま、才能がなかったってことよ!諦めなさい!」
「つかもう元の世界に返してくれよ………」
「あんた、元いた世界よりこっちの世界の方が何百倍も住みやすいと思うけど? て言うか、もうあんたの体骨になってるでしょ」
骨……そういえば俺体は無事に埋葬されたのだろうか………
俺たち2人の会話を聞いて、不思議そうな顔をしてシルビアが呟いた。
「異世界から転生ですか………?なにがあったんですか?」
「聞くな、聞けばお前はあまりの俺の悲惨さに死ぬほど辛くなるぞ」
「ぷぷぷ、そんなわけないじゃない。死ぬとしても大笑いした後に過呼吸になって窒息死するくらいよ」
「お前まじなんなんだよ」
俺たちがそんな会話をしていると、あっという間に5、6匹いたオークを片付けて剣をしまったリンシアタが帰ってくる。
今のところとんでもない欠点は見つかってない。
……あれ?もしかして貴族出身だからって
「終わったネ!でも、ちょっと危ないかもしれないアル……ユウタどっちがくるかわからないけど、とりあえず今から飛んでくる魔法に気をつけるネ」
2人が帰ってきたリンシアタに群がる。俺は黙って突っ立ったままその様子を見ている。
俺はしばらく間を置いて、リンシアタがとんでもないことを言っていることに気付き、声をあげた。
「え?待って、飛んでくるってなんだよ、詳しく説明してくれよ」
しばらくすると、リンシアタが戦っていた方から、何かが飛んでくるのが目に映った。まるくて、赤くて、なんかメラメラして……俺はその飛んでくるものを見続けながらわきあいあいと話している3人を尻目にリンシアタに詳しい説明を求める。
「ちょっと……?聞いてますか?」
「私、魔剣を使うといつもこうなってしまうネ……だから、他の冒険者たちから嫌がられて……」
「え……ちょっと待って、抽象的過ぎて全然わかんないんだけど……説明になってないんだけど……?」
「とりあえず耐えるネ」
飛んできたもの……それは、リンシアタが先ほどの戦闘で放出した魔力が魔法となって顕現した、『ファイアーボール』だった。それが俺目掛けて一直線で飛んでくる。
………ちょっと待て、聞いてない………こんなの聞いてない………!!
「ああああああ!!!熱い熱い熱い!!なにこれえええ!!ちょちょ、笑ってないでなんとかしろおおおお!!イザベラああああ!!シルビアああああ!!!リンシアタああああ!!!!」
「ばああああははっははっははっははは!!!」
「あはははっはははっははは!!!!!」
ファイアーボールが頭に直撃し、頭を燃やしながら走り回る俺、を見て助けるどころか笑い転げるイザベラとシルビア、の隣になにもせずに俺をただ見ているリンシアタ。
「おぉぉおお、まぁぁああ、えぇぇええ、らぁぁああ!!!!!」
そんなこんなでランクDの魔剣士『リンシアタ』が仲間になりました。
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