第14話 まさかのチャイナ娘

「頼むネ!!パーティーに入れて欲しいネ!」

「なにこの民族衣装……!!中国のチャイナドレスじゃない?私これ好きだから別にいいわよ」


 買取してもらい、風呂に入った後、俺とイザベラとシルビアの3人でいつものように外食しにきていた。4人用テーブルのあいた席に、夕方見たあのチャイナが座っている。


 銀髪を団子にし、すらっとした体型だが、出るとこは意外に出ているクールで端正な顔立ちのその女性は、そのクールな顔とは対照的に、意気軒昂な人だった。何歳なんだろう、大人っぽい顔立ちだがほのかに幼さを残している。


 この街に駆け出しは来ないと言っていたから、多分このチャイナ、ランクDかCかそれ以上だよな……なのにわざわざこの街でも結構有名な俺たちに声をかけてきたってことは、間違いない。見た感じ性格の異常はないと思うから、性能に大きな欠点がある系だ……。


 そのチャイナの申し出にイザベラはジョッキ片手に軽く承諾する。

 シルビアは気にも留めずに隣でステーキにがっついている。

 俺は立ち上がり声を上げる。


「待ってくれ!なんでだ?!格好みろよ!どう考えてもおかしいよな!?チャイナドレスだぞ!?」

「ユウタ、食事中は騒がないでください。ご飯が不味くなるでしょう」

「あぁ……悪い、でもお前も少しは考えたらどうだ……?」


 肉をつついているシルビアに戒飭され、一旦落ち着き椅子に座る。


「あんたもハーレムがいいって言ってたわよね?なにが不満なのよ?チャイナドレスが出てきたっていいじゃない、ここは異世界よ?」


 左右に揺蕩しながらジョッキ片手にイザベラが口ばしる。

 酔ってる割にしっかり話せてるが、言葉と行動が合致してない………


 一旦置いておいて、俺はチャイナにこのパーティーに入りたいと思った経緯をたずねた。


「あーその、なんでこのパーティーに入りたいと思ったんだ……?」

「悪名高い魔法使いシルビアがパーティーに入れたと言う噂を聞いて、それなら私も入れるんじゃないかと思ったネ!」


 ……あぁ、もう欠点があることが確定した。まさに「隗より始めよ」だな。まさかシルビアを入れた影響がこんなとこで現れるなんて。


「変な格好の男のパーティーにシルビアが入ったって噂を6日前に聞いて、ずっと探してて、今日やっと見つけて後をつけてたのに、ギルドとは逆の方に行くから一瞬見失ったネ、悲しくなってたけど、ここで待ってたらなんと来たネ!!」


 1週間貼り付けにされてたもんな……俺…


「うーん、そうなのか……でも俺、ランクFだよ?知ってると思うけど、シルビアも、そのアレだし、このパーティーで一番まともなのってランクDのイザベラだけだよ?」


 シルビアが机の下で無言で足を蹴ってくる。


 ん、待って、悪名高いって……?俺はチラッと隣のシルビアに視線を送る。

 シルビアは露骨に目を逸らした。よし、あとで問いただすか。


「知ってるネ、でも大丈夫ネ!」

「そ、そう………まぁ、とりあえず一旦保留で明日、面接というか、試験というか、しよう………」


 ********************


「お前、なんの話かわかってるよな?」

「…うぅ…」


 チャイナと別れて部屋に戻ったあと、俺はシルビアを尋問していた。

 割と簡単に別れることができたので意外と物わかりのいいやつなのかもしれない。性格というか、意外にまともなのは結構ポイント高い。

 イザベラは酔った勢いでそのまま隣で寝ている。俺たち床に座って向かい合っている。不機嫌な顔をしてうつむき目を合わせようとしないシルビア。


「あの両極端な魔法と、変身魔法だけで悪名高いと言われるのはおかしいな、ということはお前、何かやらかしたんだろ?それも常習的に」


 俺の言葉にシルビアが口をとがらせる。


「………別に、ちょっと、ムカついたから……その、元パーティーの連中の討伐した魔物を腹いせに……」


「腹いせになんだ?」


「………魔法で肉塊にかえてあげただけですけど………」


 ……マジかよ、性悪だな。


「はぁ……あげただけってお前な………。どれくらいの頻度でやってたんだ?」


「ここ最近はやってませんでしたが、拾われる前は気が向いたら。おかげで魔法の精度も上がりましたね」


 オークの耳を回収させたり、オークを運んだりの器用さはこれのおかげだったのか。


「だって、あいつら私のこと馬鹿にするんですよ!!ユウタは私に黙って馬鹿にされていろというのですか!?あるものは恐れ慄き、またあるものは――(カット)――な、ランクCの高名な魔法使いですよ!?下級のものに馬鹿にされて黙っていることはできません!!」


 顔近い……!!


「待て待て………お前の気持ちもわかるにはわかるんだがな、まぁわかった。それよりあのチャイナ娘のことなんだが、話し方は変だが見た感じ性格に欠点があるようには見えなかった。でも、俺たちに話しかけてくるんだからなにかしら重大な欠点があると思うんだが、ランクCの高名な魔法使いのお前から見てどう思う?」


「なんですかその含みのある言い方は、バカにしてます?」


 俺は無言でフルフルと首を振る。


「チャイナ娘……そうですね、おそらくあのかたは前衛職でしょう。しかもあのレイピアは魔力操作性と魔力伝導性に優れたかなり値の張る代物シロモノですよ、あれ一本で500万ギルドはくだらないかと」


「ご、ご、ごは、500万!?」


 あまりの驚きに頓狂な声をもらす。


「はい、ちなみに私の杖は18万ギルドです。安物なので」

 シルビアが買ってくださいと言わんばかりの顔をする。


買わないからな」


 しばしの沈黙の後、再び話始めた。


「見た感じ、筋力などが優れているようには見えませんでしたので、武器なども考慮して、普通の剣士ではないでしょう、おそらく魔剣士かと思われます。まぁ、これで魔剣士ではなかったら、自分のステータスと使う武器の相性も考えられない三下と言うことになりますけどね!わはははは!!」

 なにが面白いんだ………


「じゃあ、とりあえず魔剣士ならハズレはないってことか?」


「一般的にはそうですね。どちらも戦闘で使えるほどまで熟練させるには並大抵の努力じゃたりませんし、魔法も前衛もこなせる万能型、なのかどっちも中途半端な器用貧乏なのかによってだいぶ差はありますが、おそらくあのレイピアを買えるくらいですから、ランクD以上の万能型の可能性が高いと思います」


 一瞬ひやっとしたが、最後の言葉で安心した。

「ただ、そうなるとあの方は貴族出身と言うことになりますよ」

 そしてまたひやっとした。


「ちょ、ちょっと待て、なんでそんなことがわかるんだ……?」


「察しつかないんですか?魔剣士の育てるにはその性質上、普通の倍以上の時間がかかりますし、他の冒険者と比べ、大幅に出遅れるので一般家庭じゃ魔剣士をそだてあげることは無理なんですよ?しかも、訓練にも莫大な費用がかかってきますし、何より一番大事な本人の頭抜けた才能がないとなれません。ランクD以上の魔剣士とはそう言う狭く厳しい門を潜り抜けたのちになれるものなんですから、あの若さでランクD以上の魔剣士となるとかなり稀有な存在かと思われます。ちなみにランクE以下はなんちゃって魔剣士なんて呼ばれてバカにされます」


「……まじか」

「マジです」


 俺の顔を見てはっきりと断言する。


 ………やっべえよ、とんでもないやつがきてしまった。シルビアはこの世界出身だからこの話にはかなり信憑性がある。貴族出身ならどこからも引っ張りだこなはずだが………逆に冒険者が気後れしてパーティーに入れてもらえないとか……?もしそうじゃなくて、性能の方に問題があるとしたら、その強すぎる強みを全て打ち砕くような、おそらくシルビアとは比べ物にならないほどの欠点を抱えていると言うことになる………


 俺は恐る恐るシルビアにたずねる。

「……例えば、その欠点ってなんだと思う?」


 俺の言葉にシルビアはキョトンとした顔で、

「さぁ?魔剣士自体かなり稀有な存在なので戦うところを見たことありませんしどう言う戦い方をするのか想像もつきません」


「ん、そか、わかった。寝るか」

「はい」

 そう言ってお互い横になる。

「あ、もうすんなよ」

「………わかりましたよ」


 いや待て………まじで貴族なの………?

 不安がつのった。

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