第13話 思ってたんと違う
「なんだこれ……ここはイケメンフィジカルコンテストの会場か……?」
「あれがオークです」
オーク……俗に豚男なんて書かれ方をするあれ…なのか?!
「ここが安定して稼げるというのはあのクラスの魔物がかなりの数湧くからなんですよ、オークは討伐ランクEでして、一匹討伐するだけで15000ギルド、その肢体も、骨は加工して針や矢尻に、皮は寒さを凌ぐコートに、油は暖をとるための燃料に、金玉袋も硬貨入れに、肉はご存知の通り食材になりますので、ギルドの持っていけば加工費と手数料を引かれてもさらに30000ギルドで買い取ってもらえます。なので結構冒険者に人気のモンスターなんですよ」
イザベラの機嫌を取り続けて1週間、ようやく開放してもらい、俺とシルビアとイザベラの3人はモンスター討伐にきていた。
今戦って死のうが、死ぬまいが、どうせ後2週間後には凍死するとのことで、貰ったおままごと用のナイフを片手に、主に物拾いをするつもりでイザベラとシルビアについてきたわけなのだが………
目線の先には3メートルはあろうかという、赤い肌に発達しまくった筋肉、それに凛々しいマスクをした大男の群れ………に無用心に突っ込んでいくイザベラ。が、バッタバッタと反撃も許さずにオークを殴り倒している。
………なんだこれ。
なんというか、想像してたんと違う。聖女を襲うような醜くて気持ち悪いオーク像はどこにいったのかと。これじゃどっちが襲われているかわからん。
圧倒的バイオレンスを前に、自分の半分ほどの身長もない女に、なす術なしに、しばきまわされるオークたち。
「……俺のオーク像となんか違う」
「イザベラ、今日も張り切ってますね!この調子ならまたかなり稼げそうですよ!ユウタもきてくれたので前より多くの死体を持って帰れそうですし」
「それはそれで何よりだが……お前は何もしないのか?使い勝手は悪いが一応お前もランクCの魔法使いの端くれなんだろ?」
シルビアと俺は狂気の笑顔を浮かべてオークを殴り倒すイザベラを30メートルほど離れたところから見ているだけだ。
「そろそろですかね」
シルビアは自分の身の丈ほどある樫の杖を構えて、厨二くさいキメゼリフとともに膝の高さくらいの小さな竜巻をいくつも作り出した。
それを無言でそれを見ていると、
「これでオークの討伐部位を回収するんです」
といい、その小さい竜巻を散らした。しばらくするとオークの耳を大量に渦の中に抱えた竜巻たちが帰って来た。それを大きな布ぶろに詰めていくシルビア。無言でその様子を見つめる俺。
「ねっ」
「ねじゃねえよ。お前………ランクCのくせに毎日こんなことやってたのか……?」
「そうですが何か?」
「なんでキレ気味なんだよ。ほんとに全部イザベラの稼ぎだったんだな……凄まじい……」
「イザベラはランクDですからね、対するオークは討伐ランクEですし、ランク差は絶対なんです。私の全力の『サイクロンストーム』を食らっちゃうと肉片しか残らないので回収が大変なんですよ」
どんどん帰ってくる竜巻たち、の集めて来たオークの耳を話しながらふくろに詰めていく。
「お前が魔法の威力調節できればな………」
「できるようになる気はありません」
「………そうか」
俺は遠い目をして帰ってくる竜巻たちの行列を見ていた。
戦闘が終わった頃合いを見て、俺とシルビアはイザベラの元へと向かった。血濡れのイザベラが疲れたと言って横たわっている周辺には、凛々しいマスクをボコボコにされたオーク達。ひどい惨劇だ。どういう闘い方をすればこうなるのか……そこについては突っ込まないでおこうと思った。
俺はイザベラに話しかける。
イザベラは仰向けのまま答える。
「お疲れイザベラ、お前めちゃくちゃ強いんだな……どっちが襲われてるのか分かんなかったわ」
「あったりまえよ!!あんたみたいなへたれちんポコやろうとは格が違うのよ!」
あの事件以来、イザベラの口が悪くなったが、こうして倒れるまで戦ってくれているのは、俺たちの身を案じてのことだと思う。
なんだかんだ言って意外といいやつ………なのだ。
「我名はシルビア!ある者は――」
俺たちが話している隣で、シルビアが小さい竜巻を量産していた。
俺は血塗れのイザベラを背負って、シルビアは竜巻を使って10体ほどあるオークの死体を引きつれ、そこを後にしギルドへと向かった。
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「お前ってさ、なんでそんなに器用なことができるのにもっと簡単そうな威力の調節ができないわけ?」
「ふふふ、できないのではない、やらないのですアウッ!!」
討伐が終わった夕暮れ時の帰り道をギルドへと向かっていた。俺たちの様子を見ても、街人は特に気にしている様子はない。
竜巻をオークの体の下にもぐらせてその風圧で死体を運んでいるシルビアにふとした疑問をぶつけた、が返答にイラッとしたので一発叩いた。
「いいかシルビア、とイザベラにも聞いて欲しいが寝てるからいい。あんなのと街で出くわしたら絶対に目を合わせないようにして、できれば別の道を通るんだ。さもないと厄介ごとに巻き込まれてしまうからな」
「そうなんですか、確かに厄介ごとはごめんです。でも、一番最後のオークの後ろから並んでついてきてますよ?」
ギルドが見えてきたころ、大通りのど真ん中に立ち塞がるようにして突っ立っている異様な人影が見えたので、俺たちはわざわざ遠回りをしていた。
「………なんやて!?」
俺はバッと後ろを振り返る。
俺たちの30メートル後方、最後のオークに続いて、赤いチャイナドレスに銀髪を左右対象に団子にしている細身の女がついてきていた。腰には細い剣……あれはレイピアというやつか?冒険者っぽいな。
「ま………まじだ……いや、大丈夫、たまたま道が同じだっただけだろう……絶対話しかけるなよ、後、絶対に刺激するなよ……あーゆーこの世界に似つかわしくない系のやつは大体厄介ごとを持ち込んでくるからな………」
「今は大切な時期ですもんね、もしご飯をたかられでもしたら毅然とした態度で追っ払ってやりますよ!!ランクCの力を見せつけてあげます!」
「いい子だ……それだけ気合があれば十分だ、よし、次の道を左に曲がろう」
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「今日はいつにもましてもの凄い量ですね…えーと、オーク討伐料が、13体分で、19万5千ギルドで、買取分が、39万ギルドの、合計58万5千ギルドとなります」
「………すげぇ、1週間前のほぼ6倍じゃないか……あ、ありがとうございます…」
流石に店の中に巨大なオークを持ち込むことはできないので、受付嬢さんを呼んでギルドの裏にある素材買取所に持っていった。
巨大な倉庫には、魔物の死体が置いてあるが、どれもかなり強そうだ。
しっかし、今日1日でこれだけの金額を稼げたんだから、後2週間ほどあれば余裕でたまるだろ、装備も武器も買えるんじゃないか?
イザベラをおぶったままの俺は、背中に生暖かい液体が垂れるのを感じながら、受付嬢さんにお辞儀をし、シルビアが硬貨の入った布袋を受け取った。
冒険者とは、命の危険は常について回るがかなり儲かる仕事のようだ。
最低ランクから二つ上のランクEの魔物でさえこの値段。
しかし、ベテランの冒険者の平均ランクはCということから、若いうちから豊かな暮らしができる冒険者は一部の天才や、いいパーティーに属する運のいい奴だけだという。
つまりこいつらはその、世間一般で言う天才………の部類に入るのだが……。
納得いかん。
俺はさも恨めしそうな目でシルビアをじっと見つめた。
「なんですか?早くお風呂に入って汗を流しましょうよ」
「……あ、ああ、そうだな」
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