第12話 ほんとに冬場はどうしよう
「今思えば……最初に話しかけた冒険者が言ってたな。「変な物好きもいるもんだ」って………」
俺は、夕飯を平らげた後、酔い潰れて歩けなくなったイザベラを背負い、風呂に入ったあと、部屋に戻り、遠い目をして天井を眺めていた。ここ1ヶ月ほど日課になっていたゲロ掃除も終わらせ、唐突に、ポツリと呟く。
思わぬ伏線回収に、ちょっとだけ興奮を覚えながらも、聞けば、あと2ヶ月もすれば冬が始まるらしい、ここの冬は3ヶ月と長く、もし街外に出るのであれば服に身を包んで丸くなった状態でないと門番が通してくれないそうな。
平均して10万ギルド、これが防寒対策の洋服のみで使うほぼ最低金額である。それにプラスしてこの部屋で暖を取るなら1ヶ月で30万ギルドはいるとのこと、このパーティーに火を操れる魔法使いはいない。俺たちは魔力回復薬より割高の燃料を買わなければいけなくなった。
「……俺、異世界きたのに、まさかの凍死で死ぬの……?まだ異世界らしいこと何もしてないのに………?」
単純に冬を越えるための最低必要経費は約100万ギルド。知らなかったが、イザベラが頑張ってくれているのでここ1ヶ月はだいたい毎日10万ギルドほど稼いでいたらしい。イザベラが妙に羽振りが良よかったのはこのせいだったようだ。
我慢して貯め続ければ2ヶ月もあるんだ、100万なんかすぐ貯まる。
しかしそうなれば俺の冒険者デビューは5ヶ月先延ばしになる。先ほど計算してみたが、最高の選択をするには、最低200万ギルド必要だ。
大黒柱のイザベラに、最大限譲歩してもらってこの金額になる。酒もダメ、飯も酒場でマスターに残飯を分けてもらう、これが絶対条件だ。ここ1ヶ月、毎日晩飯に10万使ってきた人間がそう簡単にオーケーしてくれるだろうか……否!答えは断じて否!よりにもよってあのイザベラだ、かたくなに拒否するに違いない……。
俺が我慢するしかないのかなぁ……俺一応主人公的存在なのになんだこの過酷なストーリーは……。
俺は隣で同じように深刻そうな顔をしているシルビアに話しかける。
「……なぁシルビア、お前ってさ、最初の方貧乏そうにしてたじゃん?その時はどうやって越冬してたんだ?」
「私は、生活を切り詰めて貯めていくタイプでしたね、なので今年も私1人なら十分生きていけるお金はたまってます」
生活を切り詰めて……か。前に報酬がどうたらこうたら言ってたが、あれは先のことを見越してのことだったんだな……ん?………なんつった?
「……最後なんつった……?」
「お金は溜まってますって言いました。ランクCの魔法使いとしては極貧の部類に入りますが。2人で狩りに行き始めた途中からイザベラのあまりの浪費っぷりに貧乏魂が反応してしまいましたので、討伐にいってる間、少しだけちょろまかして別で交換してもらってたんですよ。でも一応これ犯罪行為なのでユウタにしか言ってませんからね、誰にも内緒にしてくださいよ………って、なんですか!ちょっと、離れてください……!!」
「でかした!!まぁやってることは最低最悪の極悪人だが、別にイザベラのことだから気にすんな!それより、こいつをどっかに売り飛ばして2人で冬を越そうではないか!!前はその、ガキだとか言って悪かったな、でもお前よくよくみたらいい感じだし、風魔法も、ちょっとあれだが、」
「あれとはなんですか」
「お前の病気も少し、いやむしろ毎回顔見ただけで引っ叩きたくなるくらいだったが、」
「病気なんかじゃありませんけど、ていうかひどくないですか?」
「変身魔法の件なんかは特にどうしてくれようかと思ってたが、」
「なんですか」
「たぶんお前いい奴だよな?俺とお前、2人ならやっていけるよ!!さあ、イザベラを置いて……お……い、て………え………」
もう寝たと思っていたイザベラと目があった。目を見開き、横たわったまま狂気の眼光で俺を見つめていた。
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「……なぁ……ガチで………死ぬ………そろそろ許してくれてもいいんじゃないか……。なあシルビア、お前は俺を助けてくれるよな……?」
「わ、私に振らないくださいよ。そんなことしたら今度は私がイザベラになんかされそうじゃないですか……」
あの事件から1ヶ月、どこから持ってきたのか、俺は部屋で巨大な丸太に貼りつけにされていた。
「なあ、マジで頼むよ。じゃないと俺、あたらしい扉が開いてしまいそうだ」
「何を言ってるんです?」
「いや、まだお前には早すぎた」
イザベラはどこに行ったかわからない。冬まであと1ヶ月だというのにマジでなんの準備もできていない。それどころか隠し持ってたシルビアの財産も、腹いせにイザベラが食いつぶし、俺たちは今度こそ本当の無一文になってしまった。俺たちのパーティーの大黒柱の協力なしに、あと1ヶ月で100万ギルド集められる気がしない。
「あ、そうだ、今魔法の使い方教えてくんない?ランクも上がったしそろそろ使えてもいい頃合いだと思うんだけど」
「魔法ですか、変身魔法とかどうですか?比較的覚えやすい上に、魔力消費も少なくて済みますよ!」
「それガチで言ってるなら申し訳ないが、そんなもんなんに使うんだ」
「違う、俺が言いたいのは……お前が使ってるような風魔法とかの攻撃する系の魔法。有名どころでいけば火とか、水とか、あとは雷とか……雷かっこいいな」
露骨に嫌な顔をするシルビア。何を思ったのか、そのまま無言で俺に近づいて、ムッとしながら説教してきた。
「あのですね、魔法というのはそう、一朝一夕で使えるようなものじゃないんですよ。まずは幼少期から魔力操作の感覚を掴む訓練をして、それから適性を調べた後にずーっとただひたすらに練習し続けてようやく戦いでも使えるような魔法になるんですから!最初は何も反応せずに心が折れて前衛に転身する人も大勢いるんです。そんな教えろと言われたところでユウタには理解はできても実践はできませんよ」
「………………」
またしても衝撃的な事実に言葉も出ない。
………あれ、魔法ってデフォルトで使えるようなものじゃないの………?
「………なんかその、あれだな……もう元の世界に帰っていいか…?」
「また厨二病くさいことを、異世界からの転生者とでもいうつもりですか?仮にもしそうだとしても、私は絶対に返しませんから、ユウタが帰ったら私はこれから風呂も入れずにどう生きていけばいいんですか。」
「最初のセリフはお前だけには言われたくない……つか、そんなに俺のことを思ってくれてるのならこの状況をどうにかしてくれ。頼む。」
「それは無理です」
てかまって、幼少期からって………こいつ幼少期から変身魔法の練習に勤しんで来たわけ……?どんなガキだよ。
でも、さ、流石に魔法に関しては異世界補正かかるよね………?だって俺、いきなりこの歳だったし?イザベラも使えるって言ってたし………?
え………ほんとに大丈夫?
不安がつのるつのる。さらに不安を煽ったのはイザベラが朝からどこかに消えてしまったということだ。
異世界にきて2ヶ月。1ヶ月ヒモをして、もう1ヶ月は貼りつけにされる異世界なんて俺は聞いたことがない。何かの間違いであれと願うばかりだった………・
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