第二期

第11話 これから先がヤバすぎる

「イザベラ、どうしよう、あいつ本当にニートになってた」

 イザベラが顔が入るほど大きなジョッキを空にして、キョトンとして、

「ぷはぁ!!体動かした後はやっぱこれよねぇ〜、え?なんの話?」

「ふぅ、ホント、1ヶ月前とは別の世界にいるようです!」

「まさかあなたたちにおごられる日が来るなんて……いけない、涙が……」


 イザベラたちが帰ってきたあと、俺たちは外の食堂に来ていた。最近こいつらが信じられないほど稼いでくるので、ここ1ヶ月毎晩外食している。そして今日は結構お世話になっているあの受付嬢さんも誘ってみた。ランクCの冒険者がいるパーティーだと、夜外食というのは結構当たり前らしい。

 イザベラには酒はやめてほしいが、このパーティーの稼ぎはほぼこいつのものなので、養われている手前、大口を叩けない。しかし、こいつは装備らしい装備をしていない。武器も持たずにどうしているのかと聞いてみたら、シルビアが、素手で殴っています。と言っていた。シルビアは基本的に飛び散った討伐部位を風魔法でかき集めているだけらしい。受付嬢さんいわく、ランクDにしては異常なまでの稼ぎだという。


 シルビアと俺は1枚3000ギルドのステーキを、受付嬢さんは泣きながら1本600ギルドの串焼きを頬張っている。異世界あるある、この肉はオークの肉らしい、食った後に教えられたし何よりうまいのでなんとも思わない。俺は一旦箸を止めて、真剣な顔で話し始めた。


「まぁ、あいつのことは一旦置いといて、でさ、昼間にステータス測ったらランクFにあがってたし、俺もそろそろ討伐に参加してもいい頃合いだと思うんだ」

 シルビアだけが俺の言葉に耳を傾ける。

「脳筋のイザベラもいるし、これからは実戦でステータスを上げてみてはどうだろうか、うまくいけば収入もアップして俺の成長速度もぐんと上がると思う。そしてまずはそのために、」


 正面に座っているイザベラに向き直す。


「イザベラ様、僕に武器を、いや、武器だけとは言わずに装備一式恵んでいただけないでしょうか……?」


 しかし、イザベラはベロンベロンに酔ってしまっていて、

「あぁ〜ゴブリンみっけ〜ぶっ殺してやるぅ、あははは、あははは、ジョッキもう一杯!!」

 と訳のわからぬことを言うだけだ。みかねたシルビアが俺に話しかけてくる。

「ユウタはランク的にも、討伐に参加するのは大丈夫だと思いますが、なんといいますか、装備のことなんですけど、その……」

 なんだか喉に突っかかるような物言いをするシルビア。

「そのですね、毎晩こうして外食してるじゃないですか……なので、その、」

「はやく言わんかい」


 そう言って俺は小さく切ったステーキを口に運び、

「……貯金ゼロなんです、うちのパーティー。」

 落とした。


 *********************


「まずい、これでは一向に話が進まないじゃないか」

「……冒険者は安定しないので越冬のための資金を貯めときましょうと声をかけてはいるのですが、イザベラは、「そんな先のことはあとよあと!今を目一杯楽しみなさい?どうせ死にそうになったらギルドに頼めばなんとかなるんだから」と言って、私もご飯が美味しすぎて食べ出したら忘れちゃう始末で……」

「ちょっと……?その発言はギルドの一員として聞き捨てならないんですけど……?」


 衝撃的なことを知らされて一旦は取り乱した俺だったが、すぐに切り替えて対策を話し合うことにした。確かに、ランクDとしては異常な稼ぎがあったとしても、それを毎晩3人で食いつぶしてたら、そりゃそこの抜けたバケツのようになるなと。


 シルビアがいつになく深刻そうな顔をしている。冒険者とだけあって、この状況がいかにまずいのかわかっているらしい。

この世界に来て間もない俺にはもちろん、イザベラにもわかるはずなく、このシルビアの表情だけが深刻さを表す目印だった。


 俺は酔って能天気な顔をして机に伏しているイザベラを尻目に、シルビアにたずねる。

「イザベラの発言と、お前の甘さはとりあえず後にして、冬になるとなんかまずいことでもあるのか?魔物なら大丈夫じゃないか?寒さに強いのが出てきたりするんだろ?」

「確かに魔物は問題はないんですが、問題は暖をとることです。ここサンストンは、この辺りの地域でも有数の極冬きょくとうと呼ばれる現象が起こる地域でして、その、暖を取るにしても、燃料や、もし魔法を使うなら魔力回復薬、後は着込むなら洋服、などなど、他の街とくらべて約3倍ものお金がかかってくるのです」


 『サンストン』今更ながら、これがこの街の名前らしい。


「なるほど……金がかかるのか、でも、それなら他の冒険者たちはどうしてるんだ?俺たちよりもランクの低い奴もいるだろ?俺たちはイザベラのおかげでご飯我慢すれば金もたまるだろうけど、そいつらは、毎年冬までにそんだけの大金貯めるとか無理じゃね?」

「元々この街にはそんなランクの低い人いませんよ?」


 ……なんやて?

 そんな俺の顔を見て受付嬢さんが説明を加えた。


「この街は、比較的安定した生活を送れることで有名ですが、過酷な自然環境ゆえに駆け出し冒険者の方は基本的には来ないんですよ、正確な値は取ってませんが、おそらくあなたがこの街で一番低いランク、つまり最弱です」


 衝撃的な事実を知ってしまった俺だったが、ここにきて1ヶ月、俺の異世界生活はまだ始まっていない。

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