第10話 現実が辛すぎる
「お願いします!!!絶対に出世払いでお返ししますから!!!どうか!!」
「……わ、わかりましたから、ちょ、こんなとこでやめてください!!顔あげてください!!貸してあげますから!!」
武器屋で散々な目にあい、街中で指を刺されて笑われながらギルドに戻ってきた俺はあの受付嬢さんの前で土下座していた。かれこれもう何回目だろう、羞恥心とかプライドとか、そんなのはとうに消えていた。イザベラとシルビアが後ろで同情の目で俺を見ているが気にしない。
受付嬢さんの言葉で立ち上がった後、武器庫らしきところに連れてきてもらった。受付嬢さんがその中をガサゴソとあさる。ちょっとだけ心配そうな面持ちで、
「おそらく、これくらいが限界かと………」
それを受け取った俺は唖然とする。そして食い気味に震える声で、
「こんなおもちゃでどう戦えと……?」
手ごろな、筋力の低い俺でも扱える短剣を持ってき……
てくれるとワクワクで胸を膨らませていたが、手に持っていたのは短剣とは名ばかりの、おままごと用のナイフ。比喩ではない、ガチの。ガチのおままごと用のナイフだった。後ろでイザベラとシルビアの笑いを堪えている。
こいつらまじ殺す。と俺は決意しながらも、悲しみに打ちひしがれる。
受付嬢さんが、灰になりかけている俺に慌てて補足説明を。
「あ!これは、使えば使うほどどんどん切れ味が増していくナイフでして、見た目はその……あれに近いですが、結構レアな特殊武器で、」
……あれというよりむしろそれだよ。
「だんだんと手に馴染んでくるものでして………も、もうこれ上げますから!!とりあえず灰になるのはやめてください!!」
「………わかりました……ありがとうございます……」
受付嬢さんにまで同情され、これが限界だとおままごと用のナイフを渡されてしまった俺は………
***************
「ちゃんと腕立て10回、腹筋10回、スクワット10回、全力ジャンプ10回、後そのおもちゃ……じゃなかった、剣、ププ。そう、剣よ、それは剣!!その剣で素振り50回を三セット、しっかりやっとくのよ!!じゃあ、私たちは行ってくるわ」
「ユウタ、行ってきます、頑張ってください!!」
おままごと用のナイフを渡されてしまった俺は………
『ヒモになった』
「はい、行ってらっしゃいませお嬢様方」
「ねえそれいい加減やめてくんない?あんたに言われると超腹立つし超キモいんですけど!!!」
「………お嬢様………!!なんだかいい響き………」
そう言い残すと2人は扉を閉めて討伐へと向かった。
このおままごとの剣モドキを貰ってから、かれこれ1ヶ月、この基礎トレーニングを続けていた。
最初に言い出したのは意外にもシルビアだった。流石に俺をかわいそうに思ったのか、「私たちも付き合いますから、一緒にまともに剣を振れるようになるように訓練しましょうよ」と、俺はメスガキが一丁前に気を遣ってることにむずがゆくなって断るつもりだったが、その前に、イザベラが「そんなことしたらお金もたまんなくてご飯食べれなくなるじゃない!!こんなイモ男ほっといて私たちは狩りにいくわよ!!」と言い出したので、ちょっと複雑な気持ちになりながらもそれを受け入れた。
心なしか、ちょっとだけ強くなったように思える。あの受付嬢さんが言ってた通り、この剣モドキも、だんだん手に馴染んできた。
そろそろ一緒にクエスト行こうかな……
思えば異世界に転生して1ヶ月とちょっとほどたつが、異世界らしいことはなにもしていない。
****************
「お願いします」
「あれ………?最近は見かけないと思ったら、急に体つきが良くなりましたね?ところでなにを…?」
日課になっていた基礎訓練をこなし、興味本位で受付嬢さんのところに行ってランクを測定してもらうことにした。
「受付嬢さんは痩せましたね、あ、ランクを測定して貰いたいなと思いまして」
「ああ、そうですか、お金は………ないですよね、知ってます。水晶に触れてください」
含意のある言い方をしたが、たぶん測定にもお金がかかるのだろう。あいつらが毎日魔物を狩りに行ってるからお金がないことはないが、タダでできるに越したことはないなと、俺はちょっとだけ期待してその水晶に触れた。受付嬢さんがオッと少し驚いた顔をする。
「あ、すごいですね?ランクが1上がってますよ!!おめでとうございます!ランクFに昇格です!!」
「……!!??」
**************
「………はぁ」
「どうした坊主、若いもんが昼間っから青菜に塩かけたような顔して、今日は1人か?いつもくるあの威勢の良い姉ちゃんと可愛らしい嬢ちゃんはどうした?」
「マスター我に
「ここ最近ずっと嬢ちゃんも1人だな?ほれよ」
ランクが上がったと聞いてウキウキしながら酒場にきた俺は、一変してカウンター席で吐き気をもよおすほどの嫌悪感にさいなまれていた。
というのも、隣に漆黒の鎧を身に纏い、左目にはあのドクロの眼帯、特徴的なサラサラの黒髪を耳にかけたあの勇者がいるのだ。1ヶ月前と違うとこと言えば、装飾品が増えたことだろうか?
嫌な予感がする。
ノリのいいマスターからただの水の入ったコップを受け取り、勇者が真剣な顔をして話始める。俺はその言葉に耳を傾ける。
「ありがとう、我が1人と言うのには秘密がある。我のこの
要約すると、ぼっちらしい。
「おまけに、あまりに絶大な力ゆえ、この世の
つまりニートだ。
絶大な力で世の理に縛られるというのは、おそらくギルドのランク制度のことだろう。詳細は省くが、下級の冒険者が食べていけるように上級、大体討伐適性ランクより二つ上のランクからはそのモンスターを討伐してはいけないことになっている。
ランクSともなればこの辺りではほとんど討伐禁止されているだろう、そりゃそうだ、こんな街の近くにぽんぽんランクB越えのとんでもないやつが現れてたまるか。そしてたぶん、パーティーから自ら離れたなんて言われていたが、このドギツい性格と、めんどくさい設定に流石に愛想を尽かされてぶかれたんだと思う。
俗に言う、経験者は語ると言うものだ……。
こいつの言っていることが全て理解できるのが悔しい……つか、この1ヶ月でなにがあったんだ……?!一気に覚醒してる……これは厨二病警戒レベルを4に引き上げなければ……。そして、厄介ごとに巻き込まれる前に早くこの場から離れねば……!!
「マスターありがとうございました。」
「おう、シャキッとしろよシャキッと、そんなんじゃゴブリンにもやられるぞ、ガハハハ!!」
「今一番気にしてることを………!!」
俺は足早にその場を後にした。
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