第9話 現実が辛すぎる

「アレだな、将来あいつと渡り合えるビジョンがなにも浮かばん」


 俺たちは飯を食べた後、風呂に入っていつものように部屋へと戻りシルビアには聞こえない声で作戦会議をしていた。

 金がなかったので今晩の飯はどうしようかと思い受付嬢さんのところに行ったら、俺たちを見るや否や、

「ご飯なら酒場のマスターのところで食べてください!!私はもうお金ありませんから……!!」

 と、全力で言われ、なんともいえぬ不満が湧いてきたが、シルビアとイザベラが俺をおいてダッシュで酒場に向かったのでなにも言わずに軽く会釈をして酒場まで降りた。

 酒場まで降り、異世界系のテンプレ、筋肉ゴリゴリ初老マスターに声をかけると、気前のいい感じで、昼間のお祭り騒ぎの残りを分けてもらった。

 聞けばこのマスター、意外とすごい、というかまぁ見た目からいかにもな感じだったが、冒険者をしていた頃はランクAの凄腕の剣士だったらしい。すごいなと思う反面、あの勇者のことが脳裏に浮かび、冷や汗かいた。あいつこのゴリゴリのおじさんより強いんだよな………?


 床に座り込んだイザベラがこそこそと話す。

「まずは、とりあえず討伐クエストこなしてステータスを上げていくことね」


 イザベラがさも簡単に言うが、不名誉ながら、俺のステータスは言わずと知れた最弱のモンスター『ゴブリン』と同等だとあの受付嬢さんからお墨付きをいただいている………、

 一対一ならいい勝負をするかもしれないらしいが、知っての通りゴブリンはその脆弱さゆえに、単体で行動することはまずないとのこと。

 同じパーティーであれば、ちょっとでも戦闘に参加すれば経験値がもらえると言うことで、それの問題は解決したかに思われたが、その『ちょっと』があまりにもハードルの高いものだった。

 ちょっと、と聞いて外から石投げて援護するとか、そのくらいかな?とたかをくくっていたが、後からシルビアの言葉を聞いて絶望した。こいつらの言うちょっとは、相手の足を切断したりして身動きを取れなくする………レベルらしい。



 ………うん、むり。冒険する前から詰みゲーが確定した。



 しかし、一番気にしているところはそこではない。

 俺はちょっと複雑な顔でイザベラに話しかけた。


「……倒せるかどうかは別として、その、討伐って魔物とかモンスターを狩るんだろ……? いずれ魔王になる俺がそんな仲間を踏み台にするようなことしていいのか………?」

 イザベラは俺の思っていた反応………ではなく、キョトンとした顔でさも当たり前のように、

「え?いいに決まってんじゃない?あいつらどうせ鬱陶しいくらいぽんぽん生まれるんだし倒してもなんも問題ないわよ」


 ………あれ、魔王って魔物とかモンスターとかを引き連れてるイメージだったんだけど………実はそうじゃない……?


 俺は疑問で頭がいっぱいになりながらも、既にシルビアとイザベラが寝初めていたので、後に続いて深い眠りに落ちた。


 *******************


「すいません、出世払いでいいので手ごろな剣を一本いただけないでしょうか」

「おい、冷やかしにきたんなら帰んな、こっちは商売やってんだ。金も持たんようなロクでもないやつに割く時間はない。他のお客の邪魔になる、帰った帰った」


 俺たちは常設クエストのゴブリンを狩ろうと、朝起きた後、酒場のマスターに昨日の残りを分けてもらい、郊外の森へと向かった………はいいものの武器がなければどうしようもねえなと、街に戻り武器屋に来ていた。


 魔法なら遠くから攻撃できるんじゃね?と思い、シルビアに魔法はどう使うのか聞いてみたら、俺はあまりにもステータスが低すぎて使えないとのこと。それでどうしようもなく渋々剣を買いに来た訳だが、値段交渉をしてみたところ、ちょっとだけ粘ったら店主に剣を向けられ、

「早く出ていかんとこれが血に染まるぞ」

と脅されてしまった。


 俺は店の外で白い目をして呟く。イザベラとシルビアがそんな俺を見てちょっとだけ心配している。


「………うん、なんでだ。ここで都合よく何かしらのイベントが起こって勝手に武器屋が武器をくれるんじゃないのか、異世界とはそう言うものではないのか」

「あまりに過酷な現実を受け入れられずに現実逃避しちゃってるわ………‼︎というか、本当にどうすればいいのかしらね?私はゴブリンくらい素手でやれるけど、武器はなくてもいいとして、装備がなかったらあんたゴブリンの攻撃食らっただけで死んじゃうし、素手で攻撃しようにも攻撃力不足でまともなダメージ通らないし」

 珍しくイザベラが俺のことを真剣に考えてくれているが、残念なことに、この状況を作り出したのは他でもないコイツなので素直に喜べないのがツライ。

「……お前、神界っぽいとこで魔法使えるだのなんだの言ってたよな、ステータス低すぎて使えないらしいんだが?」

「そんなこと言ったけ?そんな昔のこといちいち覚えてる訳ないじゃない」

 つい三日ほど前だけどな。


「私が魔法を使った後にユウタが踏み潰すのはどうでしょう?多少の経験値はもらえないでしょうか?」


 確かに、シルビアのいうことは間違っていない。間違ってはいないが、先ほど、思わぬ伏線が回収されてしまった。なんとコイツ、風魔法を操る大魔導師とか言っときながら風呂場で俺のちんこをもごうとした威力と、草刈りで地面ごとえぐり倒した威力の両極端しか扱えないのだ。ランクCのあんな威力の魔法を食らえば、もちろん最弱のゴブリンは肉塊しか残らない。ゴブリンは元々ランクGとFが狩るのが基本らしい。それに、ランクC以上がゴブリンを狩るのは下級冒険者の生活を守るために禁止されている。


「………シルビア、お前の気遣いはありがたいがちょっとだまれ」

「な……っ!?」


 今思えば、威力の調節をできるならあの草刈りの報酬を丸々ゲットできたはずだった。もう一つ、登場した際に見せた変身魔法があるが、その変身魔法はあれしかできないらしい。


 ………コイツの謎が解けた。ホントばかかと言ってやりたい。そりゃこんな威力が両極端で、尚且つそれ以外では変身しかできない魔法しかない使い勝手の悪すぎる魔法使いを誰が欲しがろうか………

 もう正式に仲間に向かいれた手前、コイツを追放することはできない………なんて外れくじを引いてしまったんだと、おれは後悔した。


「お前さ………なんで変身魔法なんか覚えようと思ったん。ばかなの?戦闘に使える魔法覚えときゃ、風魔法が両極端でもどこからも引っ張りだこだっただろうに………」

「なにを言いますか、そんなのかっこいいからに決まってますでしょ!!変身魔法以外あり得ません!見ますか!?私の変身魔法!!」


 そしてこれ……本気で変身魔法がかっこいいと思ってるんだよ。性能的にも、精神的にも、本格的にこんな魔法使い欲しくねえよなと頭を抱えた。

 魔法使いは知能が高いのがテンプレのはずじゃなかったのか……?


 流石に心が折れた俺は、震える声で、

「………見たくねえよ」

 といい、ギルドに向かってとぼとぼ歩き出した。後ろからシルビアとイザベラがついてくるが、俺の異世界生活はまだ始まってない。

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