第6話 コイツらがヤバすぎる

「はぁあああ!?何故ですか!!!なんで私なんですか!!!だって――――」

「どういうこと!?はああ!?どういうことよ!!なんで――――」


 クエストを終えて2人を酒場に残して受付でクエスト達成の報告した後、俺は酒場まで戻ってきた。

 イザベラとシルビアが報告から戻ってきた俺をめちゃくちゃに非難している。

 酒場はクエストから帰還した冒険者たちで埋め尽くされておりどれだけ大きな声で叫んでも周りの注意を引きつけることはない。


「当たり前だろ!?お前達、いやむしろお前1人のせいで地面の修繕費に使うからって報酬額8割も減らされたんだぞ!?むしろ逆に金額を請求されなかったことに感謝しろ!そんでイザベラ!!お前はもっと自分の行動に責任をもったらどうだ!?」


 ここまで騒いでも注目の的になることはない。

 これまでの経緯を軽く説明すると、まずはシルビアだが、コイツの魔法のせいで地面がめちゃくちゃになったということで、あの親父……別にあの親父が悪いわけではないが、いい顔しておきながらしれっと報酬額を減らしやがった。元の報酬額の2割、つまりは2000ギルドしかもらえなかったので元々の契約上、コイツには一銭も入らなかったというわけだ。で、イザベラだが、こっちはこの余った2000ギルドを元々このクエストを受けた目的だった冒険者登録するために使うと言うと、そしたら今日ご飯食べられなくなるじゃない!と切れだした。なんだかもう………頭が痛い。いっそのことあそこの召使にでもなってくれればいいのにと今更ながら思う。コイツら2人タイプは違うが顔はそこそこなんだし、貴族にでも言い値で売れるだろ。


「今日のお金がないと………私………」

「なんで今日のご飯我慢しなくちゃいけないのよ!!朝も我慢、昼も我慢、そして夜も我慢!!我慢我慢我慢!!!仮にも私ってば元魔神なのよ!?せっかくのお金をそんなしょうもないことに使うなんてあなた馬鹿じゃないの!?」


 シルビアは顔面に絶望を張り付けている。だが知ったことではない。


「馬鹿なこと?馬鹿なことって言ったか!!お前の職務怠慢でこの状況になったからこのクエスト受けるなきゃならんことになったんだよな!?まあいい、そこまで言うなら分けてやる」


 途端にイザベラが顔をパッと輝かせた。が、

 俺は受付嬢さんからもらったお金の入った布袋をガサゴソと漁り、1枚の硬貨を取り出しイザベラに渡すと、急に顔色を曇らせて俺をキッと睨んで、

「馬鹿にしてんの?こんなんじゃ酒一杯も飲めないじゃない!!!!!!!!!」


 と、その硬貨を床に叩きつけた。


「わわわわわ!!!何すんだ!?!?無くなったらどうすんだ!大切なお金だぞ!?お前これがいくらか知ってんのか!?つかこれお前の純利益だからな!?!?」


 へ………?と言う表情を浮かべた後に俺の説明をまった。


「いらねえなら俺がもらうけ――」

「どうか私に……!!!!!」

「けどよ、これお前があそこで捕まえてきたけむくじゃらの奴を売った金だからな?」


 そう、クエスト中、俺の隣でずっと地面に対して話しかけていたイザベラだが、何事かと思っていれば帰りに手に持っていたのは魔物だった。魔物を素手で捕まえるってどんな奴だよ、と思ったが、こんな奴だったなと1人で納得して、コイツの注意がそれたすきにそれを奪ってあの受付嬢さんに売ったらなんと1000ギルドと言う大金で売れたわけだ。


 つまりコイツは今、今の俺たちにとっては超貴重である1000円硬貨を地面に叩きつけたことになる。

 しかし、コイツのキレどころは俺の思っていた物とは違っていて、


「………あ、あんたあんなに可愛い子を………!!!どうしてよおおおおお!!!!!!なんでなんでなんで売っちゃったのよおおおおお!!!!」


 と、泣きじゃくりながら俺に掴みかかってきた。


「やめ、やめろ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!……つか、なんだよ!!お前持って帰ってきてそうそうけつに敷いてたじゃないか!?「ここの椅子って硬いのよねぇ」、つってたろ!?あんなとこ見たらそりゃあ、必要ねえのかな?ってなるわ!」

「うわあああああああん!!!!!!ばかばかばかばかあああ!!!ユウタのばかぁああ!!!」

「わ、わ、わかったよ!!悪かったよ!!俺が悪かったよ!!もう、冒険者登録した後に明日また捕まえに行くから!!」


「………私の報酬が……無い……」


 ***********************


「はああああ――――――生き返るわぁ――――――今日会ったことが全部お湯に溶けてく――――」

「お風呂なんて何ヶ月ぶりでしょうか………ぐずっ。ほんどに、ほんどに………生きででよがっだ――――」


 酒場で一通り言い合いした後、頃合いを見て公開土下座をし、その後風呂に入って今日一日の疲れを湯に流していた。目の前には、昨日のようにだらしない顔でくつろぐイザベラ………とあの厨二魔法使いシルビア。


「………………で、なんでお前までいんだよ。」

「いたら悪いですか?」

「おまえ土下座もせずにここに入り浸ってるくせになんでキレ気味なんだよおい。つかお前女だったんだな」


 俺の言葉にハッとして両腕であれやそれを隠すポーズをとる。どうやら冒険者には風呂にタオルをつけて入ると言う文化はないらしい。過酷な旅路でそんな事いちいち気にしてられないなと思い、それも当たり前かと勝手に納得する。


 風呂は入りたくても入れない冒険者が多いらしい。入浴料がめっちゃ高いそうな。コイツから聞いた話によれば1回で1200ギルドも取られるそうだ。日本で1日に1回風呂に入るとして1ヶ月で3万6千円。一年で43万8千円。高スギィ。


 日本だと考えられないがここは一応中世で異世界だ。多少矛盾しているところもあるが、そんなのにいちいち突っ込んでたらキリがない。そんな環境で昨日から毎日風呂に入れてもらっている俺たちは本当に運がいい、プライドを捨て去った甲斐もあるってもんだ。


 シルビアがそんな俺の方をキッと睨み付けて、

「………変態………!!」


 と、一言いってきた。

 ……ちょいと待てと、


「ぷっ。何考えてんだマセガキ。誰がお前みたいなそんなちんちくりんな幼児体型に欲情するか。イザベラを見習えイザベラを」


 ステータスかすかすの俺が結構すごめの魔法使いの怒りを買ったらどうなるか。

 俺はその時見た目に騙されてコイツが結構すごめの魔法使いである事を忘れていた。


 俺が言葉を言った直後に、その幼く中性的な顔に切って貼り付けたような真顔を浮かべて、シルビアの金髪が淡い光を放ちながらフワッと舞い上がった。目のハイライトが消えて、闇落ちしたような顔をしている。

そのいかにも今から魔法発動させますよ、なたたずまいに、俺の生物的本能的な危機管理が全力で警鐘を鳴らしていた、こりゃあかんと。


「………ちょちょ、ちょっとまて!確かに今のは言いすぎたかもしれなくはないこともない。でも別に俺はお前をばかにして言ったんじゃないぞ。オレハソウハオモッテナイガ貧乳は希少価値だ。オレハチガウガ俺の世界でも貧乳がいいと言う輩も結構いて、狂信的な人気を誇っていたんだぞ………!!」


 所々に地声の否定が入る。

 見れば俺の股間のあたりに小さな渦ができていた。その渦が、先ほどクエストで大地をえぐり倒したように俺の息子を引きちぎろうと猛威を振るう。


「だか、らあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 俺たちの様子を浮かれた顔で見ていたイザベラは、


「ははっははっわははははははははは!!!」


 過呼吸になりながら耐えかねて水面をバッシャバッシャと叩いていた。


「やめやめ!!!死ぬ死ぬ!!これガチでやばい奴!!!やばい奴だってええええええええ!!!!!おまええええええ!!イザベラああああ!!!!助けろおおおおお!!!!ぎゃああああ!!!」


「あはっはあははははっは!!!!!」

「………そのチンポ。今後一切使い物にならなくしてやりますよ。」


 違う……こんなの俺が求めてたハーレムじゃない………!!

 心の中で震える声で、そう叫んだ。

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