第5話 仲間にするには無理すぎる

「張り紙を見てきたんだが」


 俺たちはしばらくの間酒場の角の方で話し続けていた。何かをしようにも金がない、装備もない、ステータスもかすかす。と言うわけではんば諦めかけ、こいつの延々と腹減ったという愚痴に付き合わされていたわけである。

 もう昼前だと言うのにそれらしき人間が誰も来ない。周りを見れば同じく仲間を募集していた様に見える連中は、もうとっくにメンバーを集めて冒険に行ってしまって居る。笑われ続けて俺もイザベラも悟りの域まで来ていたが、しかし、驚いた。自分で言うのもなんだがこんな胡散臭い格好をした俺たち2人の元にまさかこんな奴が来るなんて………


「………おい、どうするよ。明らかに仲間になる感じじゃ何だろこれ」

 俺がこそっとイザベラに耳打ちする。

「私もいやよこんなむさ苦しい男と一緒に行動するなんて」


 この異世界にも職業というものがあるらしく、冒険者登録する際にステータスなんかも簡単に確認できるらしい。

 これから魔王になろうという俺がこんなところにいていいのかと、そう問いただしてみたはいいものの、当のイザベラは知らぬ存ぜぬの一点張り。おまけに、魔神や女神は下界に降りると神の恩恵を受けられないらしく、ほとんど一般人と変わらないんだとか。


「全部聞こえているぞ」


 そう、俺たちに話しかけてきたのは、筋肉隆々のいかにもな前衛、俺の知るところでいえば、タンクや重剣士、あとはそうだな、格闘家とかその辺りだろう。で、つまりは何が言いたいかというと、


「………どう考えても魔法使いじゃないだろこれ…」


 俺たちが募集していたのは間違いなく魔法使いだ。書いてくれたのはあの美人な受付嬢さんだが、昨日、今月の飯代を食い潰したからと言って募集内容を書き換えるとか、そんな陰湿なことをする様な人には見えなかった。しかし、どこをどう転べば魔法を使える様になるのかと、今目の前にはそんなやつが現れてしまった。コイツが魔法を使うところが全く想像できない。いやむしろしたくない。


 ………なんでこんなんきたん。


「どうするのよ!話しかけてきてるわよ?!あんたが答えなさいよ!」

「いやまてまて、俺は美少女魔法使いは守備範囲だがこんないかにもな男はアウトオブゾーンだぞ。つかこいつ文字見えてんのか?見えてたらぜってぇ来ねえ奴来ちゃったけど?うわぁ、こっちみてるって!お前がいけよ!!昨日お前が吐いたゲロ俺が片付けてやったんだぞ!?」

「はぁ!?何言っちゃってんのよ!品格溢れる魔神の私がそんなはしたないマネするわけないでしょう!?」


 すぐそこに居る男を尻目に吐息まじの言葉でこそこそと言い合いしていると、その男が、

「はぁ………」

 とため息をつき、ぼんっと音を立てて消えた。


 ………消えた!?


 比喩ではない。ガチで消えた。しかし、俺としては好都合だ。


「よ、よかった。何がなんだかわからないが、とりあえず一件落ちゃ………いや待て、なんだこのチビは」


 あの男が消えてほっとしたのも束の間、姿勢を正して視線をあげて見ればクソガキという言葉がよく似合う、いかにもな魔法使いの格好をした何かが、さっきの男のいた足元のあたりに突っ立っていた。

 ストレートの腰までのびた金髪を無理やりつばの広いとんがり帽子の中に押し込めた様な髪型のその少女……いや、少年かもしれないがそいつはおそらく10といくつかの年だろうと思われた。

 中性的な顔立ちで、可愛いと言っていいのか、可愛いと言っていいのか、可愛いと言っていいのか、わからないがとりあえず可愛い。しかし子供は好きでもガキが嫌いな俺は妙にこいつを拒絶したくなった。


「私は変身魔法と風魔法を操る大魔導師、シルビア!ある者は恐怖し、またある者は――――――」


 俺はどうしたものかとイザベラに話しかける。


「おいおい。なんか始まっちゃったんだけど……?どうすんのこれ、どうしよう、俺なんかこいつ生理的に受け付けない。」


 なんで異世界で出てくる様な魔法使いはこう………厨二感丸出しのやつが多いのかと、俺はそう思いながらこいつの長々としたおそらく決め台詞であろう言葉に耳を傾けながらイザベラの返答を待った。

 イザベラが薄目で俺を見つめたあと、何かを思いついたかの様にハッとして、ゲッツのポーズで、


「同族嫌悪ってやつね!」

「ちがわい!!!」


 ***********


「………はは、………魔法って………すごいな………ほんと……」

「可愛いわねあなた?今日の晩ご飯になるのはいかがかしら?」


 俺たちは、募集に引っ掛かった魔法使い、シルビアを連れ昨日のクエストの続きをやるために大豪邸へと来ていた。


「『サイクロンストーム』ッッ!!!我名はシル――――」


 目の前には巨大な竜巻とそれを杖で操るあの厨二病の魔法使い。俺はただ魔法の邪魔にならないように平原の端の方で突っ立っていた。その隣では、イザベラが魔法には見向きもせずにしゃがんで地面に話しかけている。シルビアは自分で大魔導師と豪語するだけあって、やはり魔法の威力もそれなりにはあるようだ。何より、その巨大竜巻が通った後のえぐれてひっくり返った地面がその威力を物語っている。


 ………えぐれちゃってるんだけど?地面ひっくり返ってるんだけど?


「……い、イザベラ……これって………っておい聞いてんのか」


 目の前のあまりに衝撃的な光景に、いつもは閉じているはずの口が開きっぱなしになる。いまだに厨二臭い決め台詞とともに次から次に魔法を詠唱しているシルビアを尻目に俺は隣でひたすらに地面に向かって独り言を吐いていたイザベラに声をかけた。


「……つかお前さっきから何してんだよ」

「今いいところなんだから話しかけないでよね!!」


 *****************


「すいませんでした!!!!」

「いいのいいの、大丈夫だから、うちのお雇い魔法使いに後の復元はさせるからほら、顔を上げて。しかし、すごい魔法だったねぇ〜窓から見ていて何事かと驚いたもんだよ」


 大豪邸の草を刈り終わった後、俺たちは依頼主、その大豪邸の主人の家に来ていた。白髪の頭にふくよかな体型のやさおじさん。異世界では定番の悪徳領主みたいな癖の強い陰湿なやつが出てこなくてよかったと心から安堵する反面、出てきてくれればコイツら全員引き渡して悠々自適な異世界生活が始まるのにな、とも思った。


「ふっふっふ。私にかかればあれしきのことアウッッ!!」

「ねぇ早く帰りたいんだけど、早く報酬もらって朝から何も食べてないんだからご飯にいきまイタッッ !!」


 今回の件で、俺はこのおじさんの前で召使の視線に晒されながら土下座をしていたわけだが、イザベラとシルビアは納得がいかないと土下座を拒絶した。そして、この様子ザマである。俺はやさおじさんに抱えられて起き上がった後、シルビアにはなんかむかついたので一発殴ってやった。イザベラはこのクエストの本来の目的と原因を忘れていることに腹が立ったので一発殴ってやった。


「………まじ…コイツら……すいません」

「これはまた楽しいパーティーだね、何かお土産でも持っていくかい?」

「いえ、そんな!!悪いので、大丈夫です。今回は本当にすいませんでした。」


 ギャンギャン騒ぐ草まみれの厨二病魔法使いシルビアと、なんかけむくじゃらなもの手に持ってるイザベラを引きずって俺は急いでその大豪邸を後に、二日かかったが初めてのクエストを達成した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る