第3話 この女がうるさすぎる
「あのさ、お前じゃなくてさイザベラって呼んでくれないかしら?オタクにお前呼ばわりされんのめちゃくちゃ腹立つんですけど」
さっきまで子供のように泣きじゃくっていたくせにもう開き直っていた。それに渋々うなずく。
「でさ、これからどうすんの?」
「……職務内容のくだりで俺にちゃんとした説明と魔王になるまで手厚くサポートするって言ってなかったか……?だとしたら普通逆じゃね?逆に俺を引っ張ってくれるんじゃないの?どうするっつったって俺なんのチートもないわけだし、さっき言ってたようにステータスもかすかすなんだろ?どうもこうもできねーよ。つか今からチートとかもらえないわけ?」
「プッ。無理に決まってんじゃない。そんな都合のいいことがあると思ってんの?それに、私この世界のことなんも知らないから、説明しろとかサポートしろとか言われたって、はなっから無理な話よ」
なんか逆ギレされながら馬鹿にされてる………
「まずはそうね、冒険者登録してそれでコツコツ強くなりなさい。あんた本当にへぼっちいんだから、じゃないと魔王になるなんて夢のまた夢よ?そんなに世間は甘くないんだからね!!」
別に俺の夢は魔王になることでもなんでもないんだが……ん?
「冒険者登録つったか?」
「ええ、いったけど?」
「いや、その前に確認しときたいんだが、さっき言ってた『金がない』ってちょっと大袈裟にいっただけだよな?」
するとイザベラはきょとんとした顔をする。
「言葉のまんま一銭もないけど?」
ダメだこりゃ……
「イザベラ、よくきけ。世間を甘く見てるのは多分お前の方だ。人間の世界ってのはな、何をするにもお金がかかってくるもんなんだ。俺の世界は生きてるだけで毎月何千円、何万円も飛んでたんだぞ?冒険者登録って簡単に言っても、手数料やら、登録料やら、何やらをとられるはず。だから冒険者登録できない。かと言って、クエストでお金を稼ごうと思ってもそのクエストを受けるためには大概冒険者登録が必要だ。でもその冒険者登録をするには金がかかる。わかるか?」
時折震えた声になりながらも最後まで言い切った。
「ええ、わかるわ。それで?」
「……もう詰んでるんだよ」
キョトンとするイザベラを尻目に俺は泣きそうになりながら今後のことについて考えてはみたものの、考えれば考えるだけこの状況がもうどうしようもないことを痛感させられ、頭を抱えた。
******************
「すいません、冒険者登録をしたいのですが、お金がなくて……」
冒険者ギルド受付前にきていた。
あの元ナニカは何も知らない、かという俺も異世界のテンプレしか知らない。時間を無駄にするわけにもいかないので一か八か、二階にある受付まであの女を連れてきたわけである。
「それでしたら、一階の掲示板に冒険者登録していなくても受けられるクエストがいくつかありますよ。もし気に入ったのがあれば破ってこちらに持ってきていただければ、それで受注完了となります。冒険者登録は1人につき1000ギルドいただいております」
こんな常識知らずなことを言う俺にも、笑顔で愛想よく接してくれる美人な受付嬢さん。
「はぁ、あーあーーあ、世知辛い世の中ねぇ、ちょっとくらいサービスしなさイタッ!!」
せっかく愛想よくしてもらっていたのに調子に乗って毒ずくイザベラを一発殴って、
「すいません、こいつ田舎から来たばかりで何も知らないんですよ……すいません。マジ、すいません」
流石に苦笑いをされてしまったがそれよりお金を得る手段が手に入ったことは大きな収穫だ。勇気を振り絞ってここに来てみてよかった。
元ナニカの腕を引っ張り一旦酒場に戻った。
「よかった。どうやら冒険者登録はしなくてもクエストは受けられるみたいだ。まずは冒険者登録するための資金2000ギルドを集めよう。2000ギルドはテンプレ的に言うと多分2000円ぐらいだ。そんなに高いものでもないはず。2人で半日働けば十分稼げるはずだ」
「引きこもりオタクのくせになんなのこの頼もしい感じ……!!て言うかなんで私まで。働くのはあんた1人でいいじゃない!仮にも私は魔神よ?そんな私を働かせるなんてどうかしてるわ」
性懲りも無く文句を垂れる元ナンタラを置いてそそくさと巨大な掲示板へと向かい張り出されているクエストを
「別にいいんだぞ、俺はお前を養うつもりはないし、何をするにもお前の自由だ。働かざる者食うべからずって言葉があってだな、つまりは俺はお前の保護者じゃなければお前を好きでもない。そんでもってこの世界の知識もなければおまけに飛んだ世間知らずときた。プライドだけは一丁前のお前に汗水流して働いた金を使われるのは納得いかんね……あ、これいいや」
十分吟味した後一枚の紙を手にとった。『草刈り募集非冒険者可』仕事内容と応募可能者がわかりやすく簡潔に書かれている。その下の欄には詳細が。
へえ、半日で10000ギルドか、かなり割りのいい仕事見つけちゃった、バイトでこんな貰う仕事なんてないよ。
「………たらく……」
よしこれに決めた。ささっとやってしまうか。
うつむいている元ナニカが後ろからついてきているがそれを無視して二階の受付へと向かう。
「……働くから……」
イザベラがひつこくついてくる。
流石にこれでは俺が悪目立ちすると思い、後ろからやさぐれた女のようにとぼとぼついてきている元ナンタラを振り返った。
「ついてくんな、俺が女を泣かして連れ回すようなクズだと思われたらどうすんだ。ただでさえお前と俺の格好は目立つと言うのに」
向き直しまた歩を進めると、その女は後ろから俺のジャージのエリを締めながら叫んできた。
「働くから…!!!働けばいいんでしょ!!?働くわよ……!!!だから置いてかないでえええ!!!!」
「わ、わ、わ!!首しまってる首しまってる!!首しまってるってばああ!体重かけんなぁああ!!ここ階段だぞ!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!わかったよ!!……もうわかったから!働くならついてきていいよ!!とりあえず離せええ!!!」
こんだけ大声で暴れたんだ。俺たちに視線が痛いほど刺さっていたが無視して後ろからついてきた女と共に受付へと向かった。
「ごめんください、これお願いします」
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