第一期

第2話 この女がアホすぎる

 うわぁ……本当にきちまったよ。


 目の前に広がる日本では絶対に見ることのできない景色に先ほどのことも死んだ時のことも忘れて興奮していた。

 つか、ここはテンプレなんだな。

 街並みは中世を匂わせるものだった。冒険者もちらほらと見える。


「ここが異世界……やばくね?」


 あたりを見回しながらポツリと呟いた。


「よし。一通りこの世界の空気は味わった。こう言う時はまずギルドを見つけるのが先決だ。」

「すいません。冒険者の方ですよね?少し聞きたいことが……」

 道ゆくいかにもな冒険者パーティーに声をかけてみた。異世界だと引きこもりだった俺でもこう……知らない人に話しかけれるようになるのはなんなんだろうな?いわゆるテンプレだけど。


「あぁ、そうだが?見ない格好だな、他所よそもんか?わざわざこの街に来るなんて変な物好きもいたもんだ。冒険者ギルドか?そんだら、あそこに一際デケエ建物があんだろ?そこの二階だ……っておい。聞いてんのか?」

「……あ、ああ、ありがとうございます」


 い……いや……なんかの見間違いだろ。いや、見間違いじゃないとしても見間違いだ。ありえねえもん。よし、遠回りしていこう。

 親切な冒険者と別れて言われた方の道とは逆の道を見据える。


 嘘だろ……!?へっ!?へっ!?


 あたふたしながら交互に首を振るおれを不審に思ったのか、そそくさと離れていった冒険者たちを尻目に、俺は目を閉じて深呼吸をし、もう一度道を見据えた。


 やっぱ見間違えじゃないよな……


 なぜか道端に座り込んだ黒装束の女……さっき俺を馬鹿にして大笑いした挙句にろくな説明もせずに俺をこんなところに放り込んだあいつが、声をかけてと言わんばかりの形相で俺にガンつけていた。


 ****************


「………なんだよ」


 ギルド前。周りの建物と違い、レンガで造られており、いかにもな感じの雰囲気をかもし出していた。俺は今、興奮半分、イライラと恐怖をもう半分に、扉のそばに突っ立っている。

 どこを見ても目を開けばそこにいる女に、絶対に無視しようと決心していたが、あまりの鬱陶しさに我慢ができなくなり、ついに声をかけてしまった。


「あんたどんだけ無視すんのよ。仮にも知り合いでしょ?さっきまで楽しくお話ししてたわよね?何?馬鹿だからもう忘れちゃったの?」

 調子のいいことを言っている得体の知れない女に冷ややかな目線を向ける。

「さっきまで楽しく?バカいうなよ!!俺はお前に恥ずかしい話を暴露されて悶絶していただけだろうが!てなわけで、俺忙しいから今後一切話しかけてくんなよ。たく。お前と知り合いだと思われると俺まで変な目で見られるんだよ」


 そう吐き捨て絶望の表情を顔に貼り付けたその女を尻目に、ガッチリと腕をホールドされながらも無視して建物の一階へと入っていく。扉を開けると、どうもテンプレですこんにちわ。と言わんばかりの酒場の光景が広がっていた。


 こりゃすごいな……昼間だってのに飲んだくれてる連中がいるわ。


 ***************


「………で、堕天させられたと。」


 俺と女は酒場の角の方で向かい合って座っていた。無視すると決めていたが、だってこいつ大泣きするんだもん。たまったもんじゃない。

 こいつの格好も格好だ。俺が娼婦しょうふを泣かせてると思われちまった。


「そうよ。」

 泣き疲れたのかうとうとしながら俺の確認に答える元ナニカ。

「……帰れよ」


 聞いた話をまとめるとこうである。こいつは職務怠慢で上のえらーい人からこっ酷く叱られ、ここ下界に落とされたらしい。その職務内容というのが、次の魔王候補が死なないようにしっかりと説明をし、チートを授けて魔王になるまでは手厚いサポートをしなければならない。というものらしいが、つまるとこ、俺に対する職務怠慢で下界に落とされたようだ。


 て、おい。やっぱチートもらえたんじゃないか。なんて事してくれてんだ。


「帰れるわけないじゃない!!何?!異世界にきたからってもういきがっちゃってる感じ?ひゃ〜オタクの異世界適応力恐れ入るわぁ。だから撮影現場で、」

「だああああああああ!!!それ以上言ったら殺す……それ以上言ったら殺す!!!!」

「あーはいはいわーったわよ!てか、これからどうすんのよ?まずお金もないし、討伐クエストしようにも武器もない、装備もない、ステータスもカスカス、おまけに今日泊まる場所もないわけでしょ?やばいんじゃない?ちゃんと考えてんの?私もいるんだからね?」


 ……さてこの女をどうしてくれようか……。こいつの職務怠慢のせいでこの状況に陥っているわけだが一切悪びれる様子もなく、それどころか俺に面倒までみろと言ってくる始末。流石に頭が痛くなり目頭を押さえた。


「何よ、いかにも悩んでる僕ちゃんかっこいい!!みたいなポーズしちゃって」


 本当にこいつをどうしてくれようか……ふつふつと湧いてくる怒りを押さえてずっと疑問に思っていたことをぶつけてみた。


「お前が堕天した経緯も俺に対するその対応も、よ――――――くわかった。で、お前って一体なんなの?神なの?女神なの?それともサキュバスなの?」

「私をあんな変態と一緒にしないでくれるかしら!!」


 おっと……地雷を踏んでしまったようだ。つか、その格好で人に変態とか言えんのか…?


「私はれっきとした品格溢れる魔神よ!この格好見てわかるでしょう!?」

 胸を叩きこれを見れと言わんばかりの形相で格好をアピールする。


「いやいや、格好だけ見たらまさにサキュバスのそれだぞ?魔神……女神と敵対してるようなあれか?魔王倒した後に出てくるようないかにもなラスボスっぽいやつ。でもお前そんな風には見えないけどな?強いの?てか強いならお前1人でモンスター狩れるだろ、なんで俺に話しかけてきた?1人でいても十分生きて行けるクネ。戦わなくたってお前黙ってりゃ可愛いしスタイルもいいし男の10や20たぶらかして生活できるだろ。黙ってりゃ可愛いんだし、黙ってりゃ。つかまじで本当になんで俺に絡んできたの?言っててどんどん謎が膨らんできたんだけど」


 あんまり言いすぎたようだ。半ベソかいて目に涙をためて、顔を真っ赤にして、キッと俺を睨み付けて、

「……うるさい……!」

 と一言だけ返してきた。

 これだとまた俺が泣かしたみたいになるじゃないか。いたたまれなくなったのでもうそこについて言及するのはやめにした。


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