持つべきはよしのの友ぞさくら狩り

【読み】

もつべきはよしののともぞさくらがり


【季語】

さくら狩り(桜狩り)〈春〉


【大意】

持つべきものは吉野の友人である。花見を満喫するなら。


【付記】

持つべきものは友というように、友のよしみはあなどれないようである。その恩恵に一度たりとも浴していない人はまずあるまい。


「吉野の友」は「良き友」を示唆し、友はえらべとのメッセージを込める。


「桜狩り」は基本的に「花見」あるいは「桜見」の歌語(=雅語。和歌などで用いることば)と考えてよいかと思う。花見には宴がつきものだが、桜狩りと称してサクラの下で酒宴の席をもうけた偉い人もいたにはちがいない。なお、「桜狩り」はタカ狩りの意味で用いられることがまれにある。


サクラを「ヨシノグサ」とも言うよし。また、陰暦三月を「花見月」、ウグイスを「花見鳥」「花見草」とも称するよし。樹木や鳥類を「草」と言うのだから、もはや何でもありの気がしないでもない。


【例歌】

よき人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よよき人よく見 天武天皇

見れど飽かぬ吉野の川の常滑とこなめの絶ゆることなくまたかへり見む 柿本人麻呂

山のゆ出雲の子らは霧なれや吉野の山の嶺にたなびく 同

隼人はやひとの瀬戸のいはほあゆ走る吉野の滝になほしかずけり 大伴旅人

我が宿の雪につけてぞふる里の吉野の山は思ひやらるる 大中臣能宣おおなかとみのよしのり

み吉野の山の秋風さ夜ふけて古郷さむく衣うつなり 飛鳥井あすかい雅経まさつね


又や見む交野かたの御野みのの桜狩花の雪散る春の曙 藤原俊成


【例句】

みよし野は右往左往の花見かな 貞室ていしつ

一僕とぼくぼくありく花見哉 季吟きぎん

京は九万くまん九千くせんくんじゅの花見哉 芭蕉

夜ざくらや太閣様のさくら狩 園女そのめ

善悪の友ある花見もどりかな 也有やゆう

さくら狩り美人の腹や減却す 蕪村

傾城けいせいのちの世かけて花見かな 同


花を見る心はよしの静かな 親重

これはこれはとばかり花の吉野山 貞室

加茂の水吉野紙子とほだへけり 一茶

吉野から見る釣枝は裏ざくら


行く春を近江の人と惜しみける 芭蕉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る