おりひめや来し彦星やたづねけん

【読み】

 おりひめやこしひこぼしやたづねけん


【季語】

 おりひめ(織姫)・彦星〈秋〉


【語釈】

 たづねけん(訪ねけん)――訪ねただろう。「けん(けむ)」は過去の推量の助動詞。


【大意】

 七夕のよるは織姫が来たのであろうか。それとも彦星が訪ねたのであろうか。


【附記】

 伊勢物語にある古歌の本歌取り。


 二者のいずれがその夜に天の川を渡るのか、わたしはよく知らない。


 動詞「く(来)」に助動詞の「き」を接続したものは「こし」「きし」の二形があり、前者が優勢であった由。


【例歌】

 君や来し我や行きけむ思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか 在原業平


 天の河かぢの音聞ゆひこほしとたなばたつめとこよひ逢ふらしも 作者不詳

 たなばたの袖つぐよひの暁は川瀬のたづは鳴かずともよし 湯原王ゆはらのおおきみ


 こひこひてあはむと思ふ夕暮れはたなばたつめもかくぞあるらし 作者不詳


 年にありて一夜いもに逢ふ彦星もわれにまさりて思ふらめやも 作者不詳

 天の川霧たちわたる彦星の妻むかへ舟はやも漕がなん 源実朝


【例句】

 地にあらばれん木売ぎうり呼べ女七夕めたなばた 其角きかく

 おり姫に推参したり夜這ひ星 一茶


 子はもちつ孫彦ほしや我が願ひ 季吟きぎん

 彦星やげにも今夜は七ひかり 西鶴

 くらがりを牛引星のいそぎかな 来山らいざん

 彦星や田畑へおろす宵の雨 北枝ほくし


 七夕のなかうどなれや宵の月 貞徳ていとく

 七夕や秋を定むる夜のはじめ 芭蕉

 七夕や賀茂川わたる牛車 嵐雪らんせつ

 七夕や香におどろく森の鳥 土芳とほう

 七夕や暮露ぼろよびいれて笛をきく 其角

 星合ほしあひや暁になる高灯籠たかどうろ 同

 田の水の湯と成りて星の逢ふ夜かな 鬼貫おにつら

 年々のもたれ柱や星迎 白雪はくせつ

 七夕や糸の相場も都より 支考しこう

 七夕の忍びながらも光かな 松吟

 たなばたやちごの額に笹のかげ 樗良ちょら

 露の間を世にふる星の逢ふ夜かな 同

 七夕やよみうたききに梶が茶屋 召波しょうは

 うすぎぬの袖やさくらむわかれ星 暁台きょうたい

 尽ぬ世のためしを星の逢夜かな 青蘿せいら

 兄弟が笹あらそひや星まつり 士朗しろう

 晴明の頭の上や星の恋 夏目漱石

 影ふたつうつる夜あらん星の井戸 同

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る