鹿鳴いてはださむき夜は明けにけり

【読み】

 しかないてはださむきよはあけにけり


【季語】

 鹿・はださむし(肌寒し)〈秋〉


【大意】

 鹿が鳴いて肌さむい夜は明けたのであった。


【附記】

 「寒し」は冬の季語だが寒いのは冬にかぎらない。「秋寒(あきさむ)」「朝寒(あささむ)」「薄寒(うそさむ)」「漫寒(そぞろさむ)」「肌寒」「稍寒(ややさむ)」「夜寒(よさむ)」など秋の季語も多い。


【例歌】

 タされば小倉をぐらの山に鳴く鹿の今宵は鳴かずねにけらしも 舒明天皇

 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋はかなしき 作者不詳

 世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる 藤原俊成

 まりの皮筆毛の用にとりつくし山の奥にも鹿ぞなくなる 作者不詳


 旅衣八重着重ねてのれどもなほ肌寒しいもにしあらねば 玉作部国忍たまつくりべのくにおし


【例句】

 富士の野や鹿臥すとこのかたさがり 凡兆ぼんちょう

 ひれふりてめじかもよるや男鹿島をがのしま 芭蕉

 ぴいと啼く尻声悲し夜の鹿 同

 満潮みちしほの巌に立つや鹿の声 去来きょらい

 鹿鳴いて猫は夜寒の十三夜 嵐雪らんせつ

 萩咲かば鹿の代りにに行かむ 来山らいざん

 小男鹿さをしかのきつとねぢ向く峠かな 涼菟りょうと

 明星や尾上をのへに消ゆる鹿の声 曲翠きょくすい

 菜を拾ふ鹿あはれなり市の秋 野坡やば

 所々淋しうするや鹿の声 同

 きつとしてあられたつや鹿の角 支考しこう

 嵯峨小倉落合うて鳴く小鹿かな 木導もくどう

 月代つきしろきつと向ふや鹿の胸 同

 鹿の影とがつて寒き月夜かな 酒堂しゃどう

 狩人にこそ角はあれ鹿の声 也有やゆう

 弓捨る案山子もあらん鹿の声 同

 さくらさへ紅葉しにけり鹿の声 蕪村

 鹿ながら山影門に入日哉 同

 三度啼て聞えずなりぬ鹿の声 同

 折あしく門こそ叩け鹿の声 同

 立聞のここちこそすれしかの声 同

 連句して御室みむろに鹿を聞く夜かな 同

 山守の月夜野守の霜夜鹿の声 同

 鹿啼てははその木末あれにけり 同

 鹿の音の嵯峨へ下りたる夜寒かな 蓼太りょうた

 ぬれ色に起行おきゆく鹿や草の雨 召波しょうは

 身は痩て草歯む鹿の思ひかな 同

 鹿追ひの声残りけり山かづら 蝶夢ちょうむ

 暁方あけがたに聞し鹿かもつめの跡 白雄しらお

 鹿の声高根の星にさゆるなり 青蘿せいら

 遠鹿や枕にちかき山おろし 几董きとう

 鹿老て妻無しと啼く夜もあらん 士朗しろう

 日のさして一声啼くや谷の鹿 蒼虬そうきゅう

 物置に鹿のいねたる嵐かな 正岡子規

 月青し巌飛ぶ鹿の腹の下 幸田露伴

 鹿の角ふりさけ見たる紅葉かな 藤野古白


 肌寒し竹切る山の薄紅葉 凡兆

 湯の名残今宵は肌の寒からむ 芭蕉

 肌寒き始めにあかし蕎麦そばの茎 惟然いぜん

 肌寒きはじめや星の別れより 乙由おつゆう

 矢場もまだ片肌寒し梅のはな 也有

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