ふとんほすこころ静けしもずの声

【読み】

 ふとんほすこころしづけしもずのこゑ


【季語】

 もず(百舌/百舌鳥/鵙)〈秋〉


【大意】

 もずの鳴き声に布団を干すこころが静謐になるのであった。


【附記】

 もずの声は秋の澄んだ大気に通るらしく、「もず日和」なる季語さえ造られたようである。なお「ふとん(布団/蒲団)」は冬の季語。


【例句】

 百舌鳥なくや入日さし込む女松原めまつばら 凡兆ぼんちょう

 鵙啼て一霜をまつ晩田かな 浪化ろうか

 どかぶりの跡はれ切るや鵙の声 史邦ふみくに

 鵙なくや夕日の残る杉のうれ 也有やゆう

 草茎を失ふ百舌鳥の高音かな 蕪村

 漆掻くあたまのうへや鵙のこゑ 白雄しらお

 鵙啼て秋の日和を定めけり 正岡子規

 百舌鳥の尾にわたるや風の蕭々せうせうと 尾崎紅葉

 古寺や野は黄昏れて百舌鳥の声 羅蘇山人らそさんじん


 行く秋や身に引きまとふ三布みの蒲団ぶとん 芭蕉

 蒲団着て寝たる姿や東山 嵐雪らんせつ

 毛蒲団やこわい夢見る後夜ごやの鐘 涼菟りょうと

 酒くさき蒲団はぎけり霜の声 其角きかく

 軍兵を蒲団でまた雪礫ゆきつぶて 同

 留守に来て裾に蒲団や花の宿 露川ろせん

 蒲団まく朝の寒さや花の雪 園女そのめ

 親も子も同じ蒲団や別れじも 秋色しゅうしき

 行秋ゆくあきを身にしたがふや夜着ふとん 浪化

 夜着ふとん有のままなり初しぐれ 同

 名月やふとんのふさに残る露 りんじょ

 よし原に蒲団ほす日や花曇 汶村ぶんそん

 四布よの五布いつの身のかくれ家の蒲団哉 存義ぞんぎ

 奪合ふてかつぐ旅寝のふとんかな 同

 夜明ぬとふとん剥けり旅の友 太祇たいぎ

 旅の身に添ふや敷き寝の馬ぶとん 同

 足が出て夢も短かき蒲団かな 同

 いばりせし蒲団干したり須磨の里 蕪村

 きふとん宗祇そうぎとめたるうれしさに 同

 嵐雪とふとん引合ふ侘寝かな 同

 古郷にひと夜は更るふとんかな 同

 顔見世かほみせやふとんをまくる東山 同

 波まくら小舟にうすき蒲団かな 闌更らんこう

 身に添はでしやふとんの透間風 召波しょうは

 年わすれ忘寐わすれねに着る蒲団かな 青蘿せいら

 畳むとて主客争ふふとん哉 几董きとう

 昼も見るつれなき人の蒲団哉 同

 はつうまやふとんをぬぎし飛鳥山 万輅

 猪牙ちよきに寝た布団のなりや待乳山まつちやま 抱一ほういつ

 ほととぎす猪牙の布団の朝じめり 同

 昼比ひるごろにもどりてたたむふとん哉 一茶

 山寺やいくつ着せてもうす蒲団 卓池たくち

 美しき蒲団干したり十二欄 内藤鳴雪

 夜二夜同じ夢見る布団かな 同

 つめたかりし蒲団に死にもせざりけり 村上鬼城

 新らしき蒲団に聴くや春の雨 同

 せぐくまる蒲団の中や夜もすがら 夏目漱石

 炬燵こたつなき蒲団や足ののべ心 正岡子規

 這ひ込めば蒲団つめたしかたくして 寺田寅彦

 ひねもすや遠山かくす干蒲団 鈴木すずき花蓑はなみの


 しづかさや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉

 朝茶飲む僧静かなり菊の花 同

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