第12話 既に俺は幸せなのかもしれない

 ギルドで朝食を済ませた俺達は、乗合馬車に乗るべく停留所にやってきた。

 ファーミリア王国行きの乗合馬車に乗り、出発した。

 入国するには関所を通る必要がある。

 その関所まではどうやら5日ほどかかるようだ。


「結構かかるよなー。てか、そこからソニアの領地に行くんだろ? 長旅だなぁ」


 馬車に揺られながら、ラウルは言った。


「あ、一つ思ったことがあるんだけど、ソニアって自分の領地の場所を把握してる?」


「ん、私を舐めないでもらいたい。それぐらいは把握している」


「でも、商業都市を迷宮都市と間違えたり、宿屋の宿泊期間の延長を忘れてたり、出会って間もないけど、既に色々とやらかしてる姿を見ているんだけど……」


「安心してほしい。流石に自分の家の領地は忘れない」


「そうだぞ、アルマ。流石にそれはちょっと失礼じゃないか?」


「……確かに言い過ぎたな。すまん。流石に出稼ぎに行って領地に帰れないってことは無いよな」


「そのとおり。帰れる前提じゃなきゃ貴方達をスカウトする訳がない」


「そりゃそうだ。ハハハッ」


 乗合馬車は幸い、俺達以外に乗客はいなかった。

 それで俺達は気兼ねなく会話をすることができ、親睦を深めた。



 ***



 夜は魔物の行動が活発になる。

 だから乗合馬車は日が沈む前に宿場町に停まり、そこで一夜を過ごす。


 そして、商業都市から出発してから3日目にもなると、流石に退屈な時間が多くなってきた。


「……あ、そういえばみんなってどんなギフトを貰ったんだ?」


 ラウルは言った。

 外の景色を眺めていた俺とソニアの視線がラウルに集まった。


「私は《賢者》のギフト」


「……なるほど」


 ラウルの二日酔いを治すために俺が【サミヘル】を使用したとき、ソニアは俺の魔力を感じている様子だった。

 もしかして、とは思っていたが、まさかギフトが《賢者》なんてな……。


「うおおぉっ⁉ ソニアはとんでもないギフト貰ってんな! 《賢者》って言えば、魔法使い系統のギフトでも最強格じゃねーかよ!」


 ラウルはめちゃくちゃ驚いていた。

 なるほど、とは言ったが俺も普通に驚いている。

 なにせ《賢者》は《転生者》が発動する前、俺が欲していたギフトだ。

 俺だけでなく、二人の兄も当然のように《賢者》のギフトを欲していただろう。

 それだけ父の影響力というのは大きかった。

 ……まさか、こんなところに《賢者》を授かった人物がいるとはな。


「どやっ」


 ソニアはそう言うが、表情は全然ドヤ顔じゃない。

 いつも通り、変化のない表情だった。


「いやぁー、《賢者》のあとに自分のギフトを言うのは恥ずかしいな。だけど、言い出しっぺだからな、ちゃんと言ってやるぜ。俺のギフトは《疾風の剣士》だ」


 《疾風の剣士》のギフトは剣士系統のギフトだ。

 剣術の上達が早くなり、風属性の魔法を少し扱うことができる。

 確かに《賢者》の後では霞んで見えてしまうが、結構良いギフトだ。


「よく言えたね、えらい」


「くっ……悔しい! 少し自分のギフトに自信があった分、悔しいぜ……!」


 この話題を振ってきただけあって、ラウルは自分の授かったギフトに多少自信はあったようだ。


「私は出会ったときに言っていたはず。強力なギフトを授かった、と」


「強力すぎるわ!」


 ラウルのツッコミもごもっともである。


「……ごほん、それでアルマのギフトは? お前もとんでもないものもらってそうだよな」


「あー……まぁそうだな」


 今世はギフトを貰っていない。

 神殿でギフトを授かっていない、と宣言されていることもあって、俺から言わない限り、俺がギフトを持っているなんて誰も分からない。

 だが、無いといえば嘘になる。


 しかし、俺が転生者だということはまだ伝えたくない。

 気味悪がられるかもしれないし、この仲の良い関係が崩れることだってありえそうだ。


「言いにくいギフトなのか?」


「……んー、まぁそうだな」


「だったら無理に言う必要ないぜ。言いたい奴が言えばいいだけだからな。……俺みたいに」


 中々ギフトを言い出さない俺の様子を察したのか、ラウルは気を遣ってくれた。


「うん、私も自慢したくて言った。言いたくないなら言わない方がいい」


 素直な奴め。

 しかし、二人の気遣いはとてもありがたかった。


「……じゃあ悪いけど、今は言わなくてもいいかな?」


「おう」


「うん」


「ありがとう二人とも。二人にはいつか教えることを約束する」


「へへ、気にするな。どれだけでも待ってやるさ」


「ギフトが分からなくても、アルマが有能なのは分かる」


 ……俺は本当に良い友達に巡り合えたのかもしれない。

 こんな二人を友達に持った俺は幸せ者だ。

 だからこそ、ギフトを言わないのが申し訳なくなる。


「うーん、俺だけ何も言わないのも悪いよなぁ……」


「あ、そういうことならさ。アルマって他にどんな魔法が使えたりするのか教えてくれよ。結構色んな魔法を覚えているだろ?」



 たぶん、ほぼ全ての魔法を使えます。



 ……なんて言う訳にもいかない。



「んーそうだなぁ……」



 なにか面白そうな魔法はないものか……。


 ──あ、そうだ。


 あれをみんなに使えば結構面白いかもしれない。



「鑑定魔法とか使えるけど、よかったらラウルとソニアに使ってみようか? 自分の強さが簡単にだけど分かるよ」


「まじかよ! めっちゃ面白そうじゃん! ぜひ、使ってくれ!」


「私も気になる。使ってみてほしい」


 二人はかなり乗り気だった。


「分かった。それじゃあどっちから鑑定する?」


「……アルマ、俺から頼む。ソニアから鑑定すると、また俺がかわいそうな目に合うんだ……」


 ラウルは俺の肩に手を置きながら、ソニアに聞こえないような声量で言った。

 目からは涙を流していた。


「お、おう。それじゃあラウルから鑑定しようか」


 同情した俺はラウルから鑑定することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る