姫ぷの素質
「先日、私もようやくゲームを買うことができまして」
なにかと理由をつけては我が家に訪れるようになったこころさんたちが今日も来ている。
女の子が頻繁に訪ねてくるからといってウキウキなどは特にない。なぜなら明らかに僕は眼中になく、幸福に会いにきただけ感がにじみ出ているからだ。
今も幸福に「ふーん」と冷たい反応をされながらも、ぐいぐいと前かがみでパーソナルスペースを侵略していた。
「……親に反対されてるとかじゃなかったっけ?」
ついに相槌マシーンと化していた幸福が折れ、こころさんに話しかけた。その瞬間、こころさんの顔がこれでもかというくらいぱーっと明るくなる。幸福はそれを見てまぶしそうに目を細めた。
「私はよくわからないですが、新田がなんとかしてくれたようです」
「所詮ゲームは悪というネットの情報をうのみにしていたわけですから、ゲームがいかに悪ではないかというのをまとめた資料をプレゼンしたら、うんうんと赤べこのように頷いて聞いていましたよ。メディアに影響される情弱には、同じく情報で攻めればちょろいものです」
部屋の隅で立っていた新田さんが得意げな風でもなく淡々と語った。
「もしかして新田さんって実は優秀だったりするんですか?」
「なぜ実はなのかがわかりませんが優秀ですよ。」
言動やしぐさの節々からポンコツくさいなーと疑っていたのだが、とりあえず仕事に関しては優秀らしい。
「まあ今回はお嬢様の父親の頭がぽわぽわだっただけですが」
娘の前で本人の父親をその扱いはどうなのだろうか
「流石に人を見る目がゴミみたいなお父さんでも、優秀じゃなかったらこんな性格の彼女を雇いませんよ」
娘が父親をゴミ扱いはどうなのだろうか……。
「へー、ゲームをそんなにポンポン買えるくらいお金あるの?」
そう尋ねる幸福はハイエナの目をしていた。いいぞ、絞りとれ。
「んー。確かに有り余ってますね。お年玉なんかも一切使わずに溜めてますし。……普通に生きていたらお金を使うことなんてほとんどありませんしね。」
こころさんは人差し指を頬に当てて首をかしげた。
「あ、そうだ幸福ちゃん。私あれ、あれをやってますよ。あのイカちゃんが塗り絵をするゲーム! 一緒に」「あれは殺してる感がなくてスカッとしない割りに煽りカスやらのキッズが多くてイライラする。そもそもジャイロとかいうクソ機能がうんぬんかんぬん……ゲームをやることで溜まるストレスと、ゲームをやることで解消されるストレスが見合ってないから私はやらないかな」
意気揚々と自分がやっているゲームに幸福を誘おうとしたこころさんに対して、幸福は食い気味かつボロカスにまくし立てた。
「残念です。一緒にやるみなさん、とても親切で楽しいのに……あっ! ではこの前幸福ちゃんがやっていたゲームを練習しておくので今度一緒にやりましょう!」
こころさんはしょぼんとしたと思いきや、次の瞬間にはまたにぱーっと太陽みたいにまぶしい笑みを浮かべて「PCが届くのが待ち遠しいです」とつぶやいた。
日が暮れてきて、こころさんは「それじゃあまたね幸福ちゃん」と手を振って帰っていた。僕の名前は呼ばれなかったが、彼女目線だと僕と背景が同化してたりするのだろうか。
「あれは絶対姫ぷして囲われる素質高いね」
こころさんが部屋を出たあと、幸福がそう吐き捨てた。確かに彼女にはお姫様感と素人ゆえの守ってあげなきゃ感があふれ出ている。言葉遣いは上品だし、いろんな人を勘違いさせて貢がせそうではある。
「姫ぷなどという恥晒しは断固阻止しますのでご安心を」
というボディガードさんの声が玄関から響いてきた。まだ残っていたらしい。
「ああ、ボディガードさんはゲームわかるんですね」
「まあ、淑女のたしなみですから」
淑女ってなんなんだろうなとか、この人ははたして淑女なのかとか、いろいろ疑問が浮かんだけど、僕はなんとか「そうなんですね」と答えるだけにとどめた。
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