幸福ちゃんのごはん
「それにしても鍋のもとってすごいな。だってこんだけ食べてて飽きないほど種類があるんだぜ。」
食卓で、僕はぐつぐつしている鍋から豆腐をすくいながらつぶやいた。
近頃、なぜだか幸福が料理をすると言い出して、いろいろ買ってくるものを注文されることが多くなった。鍋というものを覚えたらしく、もうかれこれ五日間、三食すべて鍋尽くしである。三日坊主になるだろうという僕の予想は外れた。
「そこは鍋のもとじゃなくて私を褒めなきゃダメなんじゃないの?」
「さすが鍋のもとマスターだ」
「3点」
「それは何点中なんだ?」
「一億万点」
「もはや0じゃないのが疑問なんだが」
「一応褒めたところを評価したんだよ」
それは言外に、褒め方自体は0点と言われているようなものだ。それでも点数がもらえるあたり、甘いのか厳しいのかよくわからない採点である。
「私最近気づいたことがあるんだけど」
「ほう?」
「レシピ通りの手順で調理したら失敗しないんだなって」
アレンジ料理(笑)を山ほど食わされた身としては、もっと早く気づいてほしかった。
「へー、それは素晴らしい。なんてすごい発見なんだ。おまえは天才だな」
足の小指をかかとで的確に踏まれた。バカにしているのがバレたらしい。
ちなみに今日のチョイスは豆乳鍋だった。鍋には大量の豆腐が入っていて、おまけにテーブルには無調整豆乳が出ている。大豆、大豆、大豆。
「おまえは胸でも大きくしたいのか」
「別にー? だって胸がでかいってそんなに良いことでもないよね。だって将来垂れそうだし、肩こりしやすいらしいし」
「海でおぼれた時に浮輪がわりになるんじゃないか」
「私そもそも外に出ませんので」
「このヒキニートめ」
「けっ、胸なんてのは所詮、いずれ萎んで枯れる花なのだよ」
そう吐き捨てて、幸福はバクバクと豆腐を食べた。
……胸があることで生じるデメリットは確かにあるのかもしれない。けれど、それを貧乳が言うと負け惜しみにしか聞こえないのはなぜなのだろうか。
「ていうか、わたしのコップ知らない?クマの顔がプリントしてる白いやつ。ちょっと前から無いんだよね」
「知るか」
そう言って僕は白菜を口に運んだ。
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