ゲームって難しい


「FPSじゃないなんて珍しいな。」


 その日、幸福がいつもと毛色が違うゲームをやっていたのが気になって声をかけた。


「FPSは最高だけど、対人で相手をぶちのめせるなら大抵好きだからね」


 こういうやつがゲームと現実を混同させるととんでもないことになるんだろうなと僕は思った。

  

「このハテナがいっぱい出てるのはなんなんだ?」


 さっきからゲームのキャラの周りに?のマークが浮かんでいた。幸福の手の動きと連動しているので、たぶんこいつがやってるんだろう。


「ピンってやつだよ。チャットとかを使わなくても一目で伝えたいことがわかるようにするスタンプみたいなもんかな」

「へー。このハテナのピン? はどういう意味なんだ」

「おまえ何やってんの?って意味」


 ……なんとなくだけど、本当の意味は違いそうだなあと僕にもわかった。


「ふーん。これお前が出してるんだろ? この人はいったい何したんだよ」

「私のそばをゆっくり通り過ぎた」


 ……それでピンとやらを怒涛の連打するのはさすがに理不尽すぎやしないか。


「それだけなんてとんでもない! これはさらしあげられていいレベルの大罪なんだよ」

「これはMOBAってジャンルのゲームなんだけど、一定範囲内にいる味方の間で経験値が分配されちゃうんだ」

「自分もその人も育っていいじゃないか」

「本当に君は馬鹿だなあ」


 今このゲームを知ったばかりの無知無知な僕に対して、このクソでか溜息である。こいつがもし教師になったら、煽られて逆上した生徒に殴られて暴力事件になる未来しか見えない。


「経験値を分配してる分、私はレベルが上がるの遅くなるのに、相手は自分より早くレベルが上がっちゃうんだよ。で、殺されちゃうの。だから大罪人を裁いてるんだよ。あとでレポートしとかなきゃ」


 言っていることはよくわからなかったけど、それでもここまですることではない気もするのは、僕がゲームに疎いからなのだろうか


 とにかくわかったことは、


「ゲームっていうのは難しいんだな」

「まあ知能指数の低い、猿寄りの霊長類にはちょっと難しすぎるかもね」


 そう言って、幸福がゲーム内のチャットにものすごい速さで英語を書き込んでいた。あとで翻訳に打ち込んでみたら予想通り罵倒だった。勉強の成果が出ているようでなによりである。

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