汚物を丸洗い
「うわちっちゃ。部屋ってこれだけなの?」
彼女から、玄関をくぐって即座に罵倒を頂戴した。
「大学生の一人暮らしなんてこんなもんだよ」
僕が住んでるのはワンルームのオンボロアパートだ。床が畳という点が僕的には気に入っている。あと家賃が安いところもグットだ。むしろ他の要素は全て反吐が出るほど気に入らない。
「へー、これなら監禁されてた部屋の方が大きかったよ。倍以上はあった」
「狭い方が良いことだってあるんだよ。どうせ広くても持て余すだけだっての。」
彼女から監禁などというパワーワードが出た。お喋りする上で必要なのは口だけなので、壮絶な過去があろうが何の支障もない。
「ふーん。そんなもんなの」
「そんなもんだ。……とりあえず突っ立ってないで風呂に入ってくれ」
僕は風呂場に彼女を運んで下ろした。
「シャワーの浴び方とか、よくわかんないんだけど」
「と言われましても」
「洗ってよ」
恥じらいもなく、彼女はそう言い放った。なんとなくそう言われる気はしてたけど。
臭い兵器と化した年季の入った服を脱いだ彼女を抱え上げて、風呂の中へと彼女を持っていく。
何故だろう。女の子とお風呂なのに全くドキドキしないのは。
彼女の身体にはところどころあざのようなものが残っていた。ぽつぽつとした丸い跡が残っているが、おそらくこれはタバコを押し付けられた後なのだろう。ドキドキしないのは哀れみが興奮に勝っているからかもしれない。
僕は彼女を椅子に座らせて、軽く体を洗い流す。
「泡立たねぇ……」
髪にシャンプーをつけるも泡立つ気がしない。仕方なく、シャンプーで髪をわしゃわしゃしてお湯で流すという工程を何度も繰り返した。体の方も垢が半端じゃない。
「どう? 思わず手が出ちゃいそうでしょ?」
シャンプーは終わったというのに、彼女は未だに目を閉じたままそんなことを言ってきた。
「肉をつけてから出直してこい。」
僕は枯れ枝のような体を鼻で笑い飛ばしてやった。
「お望みならばどうぞ肥え太らせてくださいな」
もとよりそのつもりである。
「覚えたか。風呂の入り方」
そこにはドライヤーまで終え、汚物要素が無くなりただのガリガリになった女がいた。素材は悪くないんだよなあ。
「んー。まぁ、分かんなかったらまた聴くかな」
「その都度聴いてくれ。風呂上がりに床をビチョビチョにされても敵わんし、ジャンプーのたびに目がムスカされてもなぁ。」
風呂場は声が響くんだ。近所によからぬ噂が飛び交うのは僕も困る。
「了解」
彼女はビシっと敬礼した。返事だけは良い。
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