魔王
魔王を助け、和平を結ぶ為に一路魔大陸へ渡る俺達。
「道案内は任せていいんだよな?」
「はい、ただ問題は宰相による妨害ですね」
「宰相はそんなに強いのか?」
「いえ、彼自信には戦う力はありません」
ふむ、なら脅威にならないのでは?
「問題はその側に魔王様が居ることです」
「魔王は強いのか?」
「それはもう!卓越した魔法技能!他を凌駕する格闘センス!魔王様に敵うものなんてこの世に居りません!」
サナリが熱く語るのだが、この子若干魔王を好きすぎる傾向が有るからなぁ、実際はどうなんだろ。
「例え勇者であっても魔王様には……ひぃっ!」
サナリの語りが切れたので見てみると、メロウが睨み付けていた。
「………まぁ、魔王については対策は考えよう、最悪動きを封じさえすれば良いしな、後は四天王についてか」
「そ、そうですね、四天王の皆様なら何とかわたしが話してみます」
話し合いで終われば良いのだが。
「タクト様、間もなく魔大陸に上陸します」
「よし、全員準備してくれ」
『はい!』
一人ずつメロウから薬を貰い上陸の準備をする。
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魔大陸貿易都市トーテム、流石に港は封鎖されていたので近くの海岸に船を着けたのだが。
「やっぱり居るよな」
「居ますね」
海岸には無数の魔物と、それを従えるミエムの姿。
「とりあえず近づいてみるか」
ポートを出して上陸。
「やっぱり来たわね勇者」
「ミエム様!話を聞いてください!」
「サナリ?いいわよ、聞いてあげる」
おや?案外すんなりいったな。
「着いてきなさい」
そのままミエムの案内で街の中へ。
「いいのか?」
「いいわよ、どうせ海岸に居たのは建前だし」
「建前?」
「そう、自称宰相様のご命令でね」
"自称"を強調しつつ皮肉たっぷりに言うミエム。
「さぁ、着いたわよ」
辿り着いたのは一軒の酒場。
「遠慮しないで入りなさい、一応歓迎するわ」
一応ね。
「ようミエム、ずいぶん早かったな」
「ええ、始める前で良かったわ」
中には四天王が揃って居た、それより気になるのは始める前?
「さ、聞かせてちょうだい貴方達の話を」
そこからはサナリに任せて四天王達の説得?が始まった。
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サナリから説明を受け、何処か納得下の四天王。
「………やっぱりね、道理で最近魔王様の様子がおかしいと思ったわ」
「ああ、これなら納得だ」
「はい、僕達の考えは間違いじゃあ無かったんですね……」
「うん、不幸だけど」
何やらそれぞれ思う所があったらしい。
「所で、お前達は何をしようとしていたんだ?」
「………」
しばらくの沈黙の後、お互いに頷き合う四天王。
「わたくし達は反乱を起こす予定です」
「魔王様を奪還するため、城に攻め居るつもりだ」
おいおい、ずいぶん物騒な事考えてるな。
「これで心置きなく攻め込める」
「いや、ちょっと待てよ」
「勇者殿、わたし達も続きましょう!」
「だから!待てって!」
思わず大きな声を出してしまう。
「…………」
静まりかえる酒場。
「一旦落ち着け、焦る気持ちも分かるがそれじゃあダメだ」
「しかし……」
不満げなサナリ。
「仮に襲撃したとして、魔王を無事に取り戻せるのか?」
「俺達なら必ずできる!」
「いや、そう言う根性論じゃなく、作戦としての勝機は有るのか?」
「…………」
これは無さそうだな、魔王ってよほど優秀だったのかな?こんな連中を上手くコントロールしてたなんて本当に尊敬するよ。
「………闇雲に攻めても被害が出るだけだ、俺は今回の件で出来るだけ被害は失くしたいと思っている」
「そんな事言ってられる状況じゃないわ!」
「そうです!少なくとも魔王様を助ける為ならわたし達の命など」
「それをして魔王は喜ぶのか?」
「っ……」
押し黙るサナリに言い聞かせる。
「仮にお前達の誰かを犠牲にして、魔王は喜ぶのか?笑って胸を張って人族と和平を結べるのか?」
そう、あくまでも今回の最終目標は魔族と人族の和平の締結である、故にその過程も円満な物が望ましい。
「…………なら、貴方にはその策があるの?」
「有る、が、それを実行するにはお前達の協力が必須だ、ついては質問がある」
「なにかしら?」
今回の作戦の肝は四天王に有る、故にどうしても確認しなくてはならない。
「お前達は魔王と同じ気持ちなのか?具体的には人族との和平に賛成なのか?」
俺の言葉に四天王はそれぞれ真剣な目を向ける。
「………わたくし達は魔王様と志を共にしています」
「散々暴れ回っといて、虫がいい話をしているのは分かっている」
「それでも僕達は人族と仲良くしたいよ」
「指名手配されてるから難しいけどね、ああ、不幸だよ」
ふむ、どうやら宰相側に寝返る事は無いようだな。
「………もしも魔王様を助ける代わりに首を差し出せと言うなら、喜んで上げるわよ?」
「いや、それは俺一人で決める事じゃない、だから今のところは保留だな」
「……そう、なら、貴方の策を聞こうかしら?」
「ああ、よく聞いて理解してくれよ?失敗できないんだからな」
その後ミエム達に事前にメロウ達と決めていた作戦を説明する。
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「クククッ、もうすぐだ、もうすぐでワシは世界を手に入れる………」
魔王城の一室、魔王の間にて宰相サギージは己の悲願が叶うのを今か今かと待ちわびていた。
「勇者の一行が魔大陸に渡ったのは確かなはず、ならば時期に魔王軍が勇者を連れてくるだろう、配備は完璧、流石の勇者でも長くは持つまい」
落ち着きなく、部屋の中をうろうろするサギージの元へ吉報が来る。
「宰相様!四天王の皆様が勇者を捕らえていらっしゃいました!」
「おぉ!よし、直ぐに連れてこい!」
通すように命じると、直ぐに勇者とその一行が縛られた状態で入ってくる。
「ククク、良い姿だな勇者よ?」
「………お前が宰相か?」
「その通り我が魔王様の忠実な僕、宰相サギージである!」
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ミエム達に縛られた俺達はようやく宰相と対面した。
(ちっ、何が忠実な僕だよ)
(止せよ、聞こえるぞ)
小声で縄を持つダナンと話す。まぁ、宰相は実に楽しそうでこっちの声なんて聞こえてないみたいだがな。
「ふふふ、ようやく我ら魔族が世界を牛耳る時が来たのだ!」
さて、時間稼ぎをしますか、ちょうど聞きたい事もあったし。
「一つ聞いて良いか?」
「ふん、冥土の土産だ、答えてやろう」
「……お前は俺を直ぐに勇者と言ったな?何でだ?」
勿論だが、俺はこいつに会った事はない、何より宰相は俺達が魔大陸に来ているのを知っていた。
「簡単な話だ、お前達が来る事を教えてくれたのだよ」
「誰が?」
俺の質問に宰相サギージがほくそ笑む。
「お前達人間の中には魔王教なるものがいるだろう?」
「あー、分かったそれだけで充分だよ」
ある程度予想はしていたがやっぱりか。
「ふふふ、では、お前達の処遇だか…」
「言っただろ、もう充分だ、メロウやれ」
「はい、タクト様」
メロウに指示を出すと、ダナン達が持っていた綱を手放す。
「な、なんだ?お前達何をしている!?」
手放された縄は床に落ち俺達は解放される。
「簡単な話だ、俺達は元から捕まってなどいない」
「なっ、何だと!?裏切ったのか四天王!」
「どっちがだ、魔王様を洗脳するなど、魔族の恥さらしが!」
ダナンに正論を言われるサギージ、これはぐぅの音も出ない様子。
「くっ、魔王よ、こやつらを皆殺しにするのだ!」
「……………」
サギージが命令するが、魔王は動く気配がない。
「な、何故だ!何故動かない!?」
「無駄だ、お前の洗脳を上書きさせてもらった」
「う、上書き!?そんな、あ、ありえない」
「残念ながら有り得るんだよ、うちの従者は優秀なんでね、お前がべらべら喋っている間にやらせてもらったよ」
「ぐぅ」
忌々しげに睨み付けるサギージ。
「お、おのれぇ」
サギージは懐から水晶の様なものを出す。あれが通信機か。
『城内に居るものよ!反乱分子が魔王の間に居る、直ぐに捕らえよ!』
サギージが水晶に向かって叫ぶと、その声が城中に広がる。
「ククク、これで貴様らも………な、何故だ?何故誰も来ない!?」
「はぁ、それも無駄だ、城の中どころか魔王軍の全ての兵士はこちら側についている」
ここに来る前に四天王に説得と説明をしてもらった、魔王のカリスマ性なのか、皆直ぐに了承していた。
「くっ、くそっ、ならばこの中の誰かを」
「お前の洗脳に対して何の対策もしてないと思うか?」
「ぐぅ」
いよいよ追い詰められたじろぐサギージ。
「本来なら、俺か四天王かサナリが決着を着けるべきなのだろうが、それよりも相応しい人が居る」
「な、なにを」
頭に疑問符を浮かべるサギージを無視してその後ろに目を向ける。
「なぁ、そうだろ?魔王様?」
魔王がサギージの肩を掴む。
「ひっ!?」
サギージが驚き振り返るとそこには怒り心頭の魔王。
「よくも好き勝手やってくれたな!報いを受けよ!!」
「ひっ、ふべらっ」
バチーンと言う音を鳴らしながら、サギージに強烈なビンタが放たれる。
ビンタの勢いのままサギージは窓を突き破り外へ落ちていく。ここ魔王城の最上階なんだけど?
こうして魔王は復活した。
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