賠償と和平
魔王を操り、世界を支配しようとした自称宰相サギージは、魔王のビンタにより城の窓から外へ吹き飛ばされた。
「ふぅ、ダナン、兵を連れてサギージを回収してきて、生きていたら牢へ、死んでいたら磨り潰して魔物の餌へ」
「おう!」
「ミエムは魔獣を使って、展開してる各部隊に引き上げるように通達、くれぐれも慎重にね、大陸の人族に怪しまれないように注意させて」
「はっ、畏まりました」
「ヒウンとハウザンは周囲の警戒を、この機に乗じて反旗を翻そうとする者が居るかもしれないわ、目を光らせて牽制をお願い」
『はい!』
矢継ぎ早に指示を出す魔王、その姿はさながらやり手社長のようだ。
「さて、サナリ!」
「はい!」
サナリを呼んだ魔王は、大きく腕を広げサナリを抱き締める。
「ありがとうサナリ、貴女のお陰よ」
「う、うぅ、魔王様……」
お互いを信頼し合っている二人の絆が見えた気がした。
「………貴方が勇者ね?」
一頻り再開を喜び合うと、魔王はこちらに向き直る。
「ああ、サナリに頼まれて助けに来た」
「まさか本当に勇者を連れてくるとはね、勇者って本来魔王倒すものでしょ?」
「普通はな、でも俺は違う」
「なら、ぜひ仲良くさせて貰いたいわね」
「その件についてだが、サナリにも言ったが残念ながら俺の一存では決められない、他の人族の偉い人達も交えて話し合いをしたいと思っている」
「そう……」
「大丈夫だ、出来るだけ悪い方に向かないように協力する」
「ありがとう助かるわ」
その後魔王と軽く話、会談の日程を決め、本土に戻った。
本土に戻ると海岸で防衛線を張っていたベイカーさん達に説明、既に魔王軍が撤退したのは知っており、話は早く進んだ。
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三日後、会談の日がやって来た。
参加するのは人族側、エシリア王国テオドール国王、レバイア帝国グラン国王、ガルメティア獣王国テトラ女王、マーメティア海洋国ウェティア女王、フェアリア妖精国エルフ女王、そして俺達。
魔族側は魔王とサナリの二人だけで来た、なるべく敵意が無い事のアピールをしたかったのだそうだ。
「では、これより今回の戦争未遂に対する賠償と、人魔間の和平会議を開催致します」
テオドール国王の司会の元会議が始まった。
「とはいえ、今回は勇者タクト一行のお陰で戦争による被害は出ていない、各国の遠征費用と防衛線費用の賠償のみお支払いいただけますかな?」
「はい、魔王国が全て負担させていただきます」
ふむ、どちらかと言えば魔王側も被害者なんだがな。
「各国の皆様もそれでよろしいかな?」
「帝国は問題なしだ」
「獣王国もそれで構わないのです」
「海洋国もぉ、大丈夫ですぅ」
「………妖精国も問題ありません」
おや以外、妖精国は突っ掛かると思っていたが。ちなみに王国、帝国、獣王国、海洋国には根回し済み。
「では、次に和平についてですが」
「はい……」
魔王は神妙な面持ちだ。
「………結論から言いますと、残念ながら我々はまだ魔族を信頼する事はできません、何処かで人族との実績を作ってからでないと」
「…………」
魔王とサナリは悲しそうに俯く。……おっと、俺の台詞か。
「それなら、俺達と貿易しないか?」
「え?勇者達と?」
「ああ、実は今回の報酬で領地を貰うことになっていてな、まずはうちの領地と貿易をして、実績を積んだら他の国ともすればいい」
「ぜ、是非頼む!何が欲しい!?魔大陸で取れる物なら何でも」
「そ、そこら辺はまた話し合いの塲を作るからとりあえず落ち着いて?」
よしよし、上手く話が纏まったな。シナリオ通りだ。え?どこからシナリオかって?全部だよ、まず賠償については各国王達(妖精国以外)に事情を説明して最小限にしてもらう。和平については結んでも良かったんだが、それでは国民の中に反感が生まれるかもしれない、なのでまずは新設する俺達の領地を人魔間の隔たりの無い、和平都市のモデルケースとして貿易条約を結ぶ。
と、ここまでは良かったのだが、ここで予期せぬ事態が起きた。
「少々お待ちいただけますか?」
妖精国には根回しをしていない、未だに友好的な関係を結べていないというのもあるが、何よりお堅い性格のエルフ女王はこういった事に協力するとは思えないからだ。なので想定外の事が起きてしまった。
「我々妖精国も貿易を結んで頂きたい」
「妖精国も?」
「はい、是非お願いします」
あー、まぁ、別にいいんだが。
「なっ!?それなら帝国も結ぶぞ!」
「ずるいのです!獣王国もお願いするのです!」
「あらぁ、でしたらぁ海洋国もお願いしますぅ」
「もちろん王国とは結んで頂けますでしょうな?」
おいおい、全部の国と貿易する事になったよ、急に一大事業になっちゃったよ。
想定外の事態だったが仕方ない、その場で各国と協定を結び、品物については後日話し合う事でまとまった。
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さて、成り行きで全ての国と貿易をする事になった。
「では、次にタクト殿の領地についてですな」
どうやらそのまま領地を決めてしまう流れらしい。
「こちらがタクト殿の領地になります」
地図を広げテオドール国王が指差すが。
「ずいぶん内陸ですね」
内陸の端、かなり国境の近くである。
「次は帝国からだ」
ん?グラン皇帝が地図を出してきた。
「こっからここまでがタクトの領地だ」
「次は獣王国からなのです」
獣王国からも!?
「ここがタクト様の領地なのです」
「……では、妖精国からも」
え!?妖精国も?
「この森一帯を勇者殿に献上します」
「次はぁ、海洋国からです」
やっぱり海洋国からもか。
「海洋国はぁ、この一帯のぉ漁業権をタクト様にぃお渡ししますぅ」
結局全ての国が領地を差し出した。
「いや、いいのか?」
「うむ、それに値する事をしたのだ」
「そうか?ん?」
それぞれに示されたものを良く見てみると。
「………これ全部繋がってないか?」
海洋国以外から貰った土地は全て一番内陸。
「お、気づいたか?そうだ、書き込むとこうなるな」
グラン皇帝が地図に全て書き込むと、大陸の中心部分に丸ができた。問題はその大きさ。
「これは、ちょっとした国では?」
「ちょっとしたも何も、立派な国なのです、各国から自由領地と認められ、貿易をする国なのです」
た、確かに国の体裁は持っている。
「因みに移民も認められてるからな、国民を増やして構わないぞ」
えー、領地じゃなく国を貰っちゃったよ。
「国はちょっと……」
「でもぉ、国の方が人魔友好のぉシンボルになりますよぉ?」
「勇者殿………」
うっ、わかったわかりましたから、魔王とサナリはそんな心配そうに見ないで。
「はぁ、有りがたく頂戴致します」
パチパチと拍手を受け、無事領地処か国を手に入れた。この後は書類手続きをするために一旦会議はお開きになった。
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タクト達が会議室を出た後。
「魔王と側近殿」
エルフの女王が魔王を呼び止めていた。
「おいおい、エルフのよ、まさかここで始めるつもりじゃないよな?」
グラン皇帝が睨むが。
「そのような無粋な事はしません、ただ謝罪をしなくてはなりません」
「謝罪?」
魔王が首を傾げる。
「以前側近殿にひどい仕打ちをしました、申し訳ありません」
エルフの女王が頭を下げた事に、その場に居た者が驚く。
「………いえ、戦争をしていたのです、私でも同じ立場なら同じ事をしていたと思います、ですので顔を上げて下さい」
「はい」
「これから良い関係を築けたら幸いです」
魔王が握手を差し出すとエルフの女王が握り返した。
「はい、是非お願いします」
その光景を見てまたしても驚く一同。
「では、失礼します」
魔王が立ち去った後、エルフの女王に対して。
「何があったんだよ?まさか魔王に続いて偽物じゃないだろうな?」
「無礼な、わたくしは本物です、ただ……」
「ただ?」
「物の見方を変えなければならないと思っただけです」
「いいと思うのです、その方が皆と仲良くできるのです」
「はいぃ、わたしもぉ賛成ですぅ」
「ありがとうございます、ついては二人にご相談が」
そうして、女王三人でのかしましい会議が始まった。
「はぁ、変われば変わるもんだなぁ、これもタクトの影響かね」
グラン皇帝はお茶を啜りながら、しみじみと思うのだった。
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