魔大陸

 魔大陸へ行く事を決めた俺達は、急ぎエシリア王国に戻っていた。


「まずはエシリアの状況を確認して、それから魔大陸に乗り込む」


「はい、お願いします」


 サナリの了解を取り、今後について話を詰める。


「魔王は何処にいるんだ?」


「恐らく貿易都市トーテムに居ます、そこに魔王城がありますので」


「地図は有るか?」


「はい、こちらです」


 サナリの広げた地図を覗く。


「ここが貿易都市トーテムです」


 サナリが指差したのは海に近い地点、エシリアと隔てる海の直ぐ近くだった。


「こんな所に魔王の城を作ったのか?」


「はい、魔王様は常々人族の大陸に行きたいと言っていたので、見える場所に居城を作られました」


 なるほどね。


「宰相もそこに?」


「はい、宰相の催眠は常に側に居ないと弱まりますから、必ず一緒に居るはずです」


「なら、とりあえずは魔王城を目指せばいいな」


 問題はどうやって乗り込むかなのだが。


「マーメティアから船を持ってこられたらなぁ」


「戻りますか?」


「いや、そんな時間はない、仕方ないからエリシアで何とかしよう」


 最悪いかだでも作れれば渡れるだろう。


「よし、クロノ急いでくれ」


「畏まりました」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

馬車を走らせること半日、エシリアに到着した。


「また早くなったな」


 馬車は違う物のはずなのに進化しているのは何故か。


「タクト様!お帰りになられたのですね!」


 出迎えたのは、元勇者パーティーの聖女ミリアリアだった。


 俺達は彼女の本拠地大聖堂の有る北の街ベイルンにたどり着いた。


「ミリアリアか、ずいぶん街が騒がしいな」


「はい、これから教会からも出兵をする所です」


「出兵か」


「もちろん防衛の為ですよ」


「そんなにまずい状況なのか?」


「はい、対岸に魔王軍の幹部、四天王の四人全てを確認しています」


「そ、それは本当ですか!?」


「あ、貴女は魔族!?」


 ミリアリアの声に反応して兵士達が一斉にサナリへ武器を向ける。


 どうやら緊張感はかなり高まっているらしい、ミリアリアも兵士達も表情は強ばっている。


「落ち着け、彼女は協力者だ」


 俺はこの場で経緯を話す。


「………と、言うわけで俺達はこれから魔王を救いに行く」


「………なるほど、解りました我々も全力でお手伝いします」


「よし、じゃあ直ぐに移動を」


「あ、御待ちください、その前にタクト様にお返ししたいものがあります」


 そう言ってミリアリアが持って来たのは。


「うちのユニコーン馬車じゃないか、何でここに?」


「タクト様が王都を出たあとわたくし達が御世話させて頂いていました」


 なるほどね、でもこれは助かる。


「クロノ!」


「はっ、少々お時間頂ければ」


「よし、任せた」


 恐らく更に速くなるだろう、その間にメロウに質問する。


「メロウ、魔大陸にはどうやって上がる?」


「この薬を飲みます」


「薬?」


 メロウが出したのは青く淡く光る液体。


「これを飲むのか?」


「はい、遠い昔に縁がありまして、その薬を飲めば魔大陸でも活動できます」


「そ、その薬見せてください!」


「あ、ああ、いいぞ」


 サナリは液体をまじまじと真剣に見始める。


「……これは、色は違うけど間違いなく魔大陸に伝わる秘薬、で、では、貴女は!」


「その話は後にしましょう、今はタクト様の魔王を助けると言う命題の途中です」


「は、はい………」


 メロウの有無を言わせない言葉にサナリは黙る、いや、俺も気になるんだけど、命題とかいいから今聞いたらダメかな?


「タクト様準備が整いました」


「お、おう」


 馬車の準備ができたらしいので、仕方なく移動を開始する。


「ミリアリア達はどうする?」


「我々は後から追いかけます」


「わかった」


 ミリアリア達とは別れ俺達は王都へ急ぐ。


「最短ルートだと王都から南部ファストへ抜けるのが早いからな」


「ほっほっほ、では、飛ばしますぞ!」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ユニコーン馬車に乗り換えて(因みにミノタウロス馬車はミリアリア達に預けた)、そのまま王都にたどり着き……はしなかった。


「…………」


「気持ちはわかるが、流石に夜の移動はきつい」


「わかっています」


 そうは言うものの、サナリは不満そうにしていた。いや、本当に三食馬車の中はきついんだよ。


「王都は直ぐそこだからな、朝中には着くだろ」


「…………」


 不満そうだ。


「………なぁ、サナリと魔王ってどんな関係?」


「わたしは魔王様の側近です」


「それだけ?なんかもっと親しそうに感じたけど?」


「………幼馴染みなんです」


 そこからぽつりぽつりと話し始める。


「幼少の時から、親にいずれ魔王様に御仕えする為にって言われてきました、でも、そんなの関係なくって、わたしは、わたしはずっと分け隔てなく笑いかけてくれる魔王様に御仕えしたくて………」


 目に涙を溜めるサナリ。ヤバい話題間違えたかな。


「そ、そうか、必ず救い出そう、な?」


「はい………」


 泣き出すサナリに居たたまれない思いをする俺。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 翌朝。


「クロノ、全力で走らせろ」


「畏まりました」


 昨日の居たたまれなさの償いのため急ぐ。


 程無くして王都に着き、ギルド長のベイカーさんに会いに行ったのだが、既にファストに行ったとの事なので挨拶もそこそこに、俺達もファストへ向かう。ギルドに顔を出しておけば国王にも戻って来たとは連絡も行くだろう。


「よし、後はファストに行って船を探すだけだ」


「船ですか……」


 何か良い手があれば良いのだが。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

半日ほどでファストに着く、そこには既に多くの兵士が行き交って居た。


「街に入りたいが、難しそうだな」


 街の入り口では兵士達が世話しなく出入りしている、恐らくギルドに作戦本部でも立てているのだろう。


「さて、どうするか………ん?あれは」


 人混みの中に見覚えの有る人を発見。


「ん?おーい、タクト!」


 あちらも気づいたようで声を掛けてくる。


「やっぱりグラン皇帝でしたか」


 近付いてきたのはグラン皇帝。


「ああ、お前達は戻って来たんだな」


「はい、グラン皇帝は何故ここに?」


「言っただろ、帝国も防衛に手を貸すと」


 どうやら皇帝自ら指揮を取っているらしい。


「俺だけじゃないぞ」


 そう言ってグラン皇帝が指差したのは、こちらに向かって来る飛竜の団体、その中に一際大きなドラゴンの姿、そのドラゴンには見覚えがあった。


「あれはジェノサイドドラゴン?」


 あんなもの従えられるのはメロウぐらいだが。


「タクト様、お久し振りなのです!」


 ジェノサイドドラゴンを従えていたのはうさ耳の獣人テトラさん。


「お久し振りです、テトラさんも来ていたんですね」


「当然なのです!我ら獣人はフェンリル様とタクト様に絶対服従なのです」


 相変わらずのようで安心した。


「でもこれは朗報だな、ジェノサイドドラゴンなら空から魔大陸に乗り込める」


「いえ、それはおすすめしません、魔大陸は乱気流が激しく、空からの侵入は困難です」


 ふむ、振り出しに戻ったか。


「タクト様は死線帯に行くのですか?」


「ああ、そうなんだ」


 テトラとグラン皇帝にこれまでの経緯を説明する。


「………なるほど、タクトの予想が正しかったわけだ」


「結果だけ見るとそうなんですがね」


「でしたら急いで海岸に行くのです!」


「海岸?」


 テトラさんの言葉に首を傾げる。


「はいなのです、海岸に防衛本部を設置して、主要な方々はみんな海岸に集まっているのです!」


 なるほど、ならギルド長達もそこに居るかな?


「よし、海岸に行こう」


『はい!』


 ジェノサイドドラゴンに乗り全員で海岸に移動する。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

海岸に着くとかなり大規模な防波堤が見える。


「あれが防衛線か?」


「はいなのです、要塞にも使える防壁を構築しています」


「所々隙間があるけど?」


 見れば壁の無いところが複数ある。


「あそこは潮の流れが複雑でとても近づけないのです」


 天然の防壁って言ったところか。


「おーい!」


 下を見るとギルド長のベイカーさんが居た。


「お久し振りです、ベイカーさん」


「タクト戻って来たか、そちらが魔王の側近の方だな?」


 突然の質問に驚く、何故ベイカーさんがサナリの事を知っているんだ?そう言えばグラン皇帝とテトラも聞いてこなかったな。


「………そうですが、何故それを?」


「ああ、あの方から聞いたんだ」


 ベイカーさんが指す方にはエルフの女王が居た。


「………」


 恐らく転移で来たエルフの女王は俯いて黙るばかり。


「………お話がないなら急ぎますので」


 軽く会釈をしてベイカーさんと仮設テントに入る。


「いいのか?」


「今は時間がないので」


 話を聞きたいが、今はその時間が惜しい、戻って来たらゆっくり聞こう。


 テントの中でベイカーさんに経緯を説明する。


「………なるほど、魔王を救いにか」


「はい、どうしても魔大陸に渡りたくて」


「それならぁ、ちょうど良かったですぅ」


 おっとりした喋り方でテントに入って来たのは。


「ウェティアさん?」


「はいぃ、ご無沙汰しておりますぅ、タクト様にぃお届け物ですよぉ」


 ウェティアさんに促され外に出ると。


「あれ?あれってうちの船ですか?」


「はいぃ、必要になるかと思ってぇ、お持ちしましたぁ」


 海岸に付けられた戦艦タクトを発見、確かに必要だった。


「ありがとうございます、助かりました!」


「ふふふ、我が国の職人が手を掛けて整備をしましたのでぇ、直ぐに使えますよぉ」


 よし、これなら魔大陸に渡れそうだ。


「ベイカーさん、俺達は魔大陸に乗り込みます」


「おう、防衛は任せて行って来い!大丈夫だとは思うが必ず帰って来いよ!」


「はい!」


 急いで船に乗り込む、先にクロノが乗っており既に出港の準備はできていた。


「よし、行くぞ魔大陸!」


『はい!』


「あぁ、ようやく魔王様をお助けできる………」


 魔王を助ける為にいざ魔大陸へ。


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